第5話 誘い下手な美少女が、僕をマッチポンプで慰める
「柚、GWどこか行く予定ある?」
「ん~高校入学祝いで海外旅行に〜……ぐらいかな? 彩香さんは?」
「私はどこにも」
「そっか。ねぇ彩香さん、お土産買ってきてもいい?」
休み時間。体を回して、よくリア充がするように背もたれに腕を乗せて彩香さんとお喋りしていた。
彩香さんのイキリ陰キャという呟きは聞こえないフリをしよう。
今週末からのGWはハワイ旅行~! ――ではなく、カンボジア旅行。理由は単純明快、ハワイは僕が生まれる前に旅行したらしい。一体、誰の高校進学を祝っての旅行なのか理解できない。
……まぁ、未知の大陸感があってハワイよりも楽しみだけど。
「お土産をもらうのは私。くれるのは柚」
だからすきにしろ、というのは勝手に推測した。
照れてるのかな、と内心首をかしげると、椅子のお尻の部分を蹴り上げられる。
彩香さんの頬が赤いから、照れ隠しで蹴ったんだろうけど……自分の足の指たちのことを大事にして欲しい。
ほら、顔を顰めてる。やっぱり痛いんじゃないか。
「柚、睨んでいい?」
「あ、ごめんなさい」
首をすくめてすぐに謝る。
睨む=心臓を痛めつける、という共通認識が僕らの間に生まれていた。
つまり、それぐらい僕は彩香さんをからかい続けたということであり、そしてそれだけ僕は心臓を痛めつけられたということだ。
それにしても照れる彩香さん結構可愛かったなぁ……。
この思考が引き金になったのか、彩香さんに睨まれて心臓が縛られるような痛みを訴えた。苦しむ僕を見て少しだけ頬を緩めた彩香さんは、つっけんどんに口を開いた。
彩香さんが何かを言う前に、先にサディスティック、とだけ小さく呟いておく。
ちなみに無視された。
「いつ、帰ってくる?」
「え? あ~5月の3日だっけな? 4,5,6日はフリーだよ」
「それは聞いてない」
暗に聞いてたでしょ、ってココロの中でツッコムと再び心臓がチクリとした。超能力の乱用だ。訴えてやる。
彩香さんは赤い顔を僕から逸らし、足をブラブラさせながら言った。
「そっか。まぁ暇なときにでも……なんでもない」
「――こほん。
あ~5月の5日のこどもの日、どっか遊びに行こうかな~?」
彩香さんは僕のわざとらしい言葉にビクリと、まるで演技なんじゃないかって疑うぐらい大げさに反応した。
ちょっと驚きつつ、そのまま続ける。
「ん~新宿かな? 渋谷かな? 原宿かな? いや、それとも別の場所かな?」
「……遊びに行くなら渋谷がオーソドックスだと思う」
「そっかぁ、彩香さん助言ありがとう。まぁ渋谷と言えばハチ公かな? って、それは待ち合わせの場所だね。待ち合わせと言えばさ、彩香さん」
「なに……」
彩香さんは頬杖をついてそっぽを向いた状態から、片目だけこちらに向ける。
とても興味なさそうな顔をしているつもりだろうか。机に置いている指は嬉しそうにリズムを刻んで——不意打ちで睨まないでッ!
ココロの中で強く抗議しつつ、口では会話を続ける。
「待ち合わせの時間って女子としてはどれぐらいが嬉しいの? 参考までに聞かせて」
僕のわざとらしいが成功しかけていた誘導作戦は、ここで不測の方向へねじ曲がるのだった。
最後に付け足した『参考までに聞かせて』という僕の照れ隠しがその原因だったと推測する。
「参考ってなに?」
「え?」
「女子と出かけるの? 誰と?」
「それは……」
何言ってるんだ、ココロを読める彩香さんなら尚のこと分かるだろ。彩香さんと出かける以外に……。
彩香さんがむくれてそっぽを向いたまま言ったその言葉に、ドキリと心臓が跳ねる。
「柚が他の誰かと遊びに行くとしたら、そんなコト教えたくない」
っ——なぁもう絶対僕のこと好きだろ! なんで僕の照れ隠しにまで嫉妬してるんだよ、ヤキモチ焼きとかかわいすぎでしょ!
このほかにも一通りココロの中で叫んで、大きく深呼吸をする。僕のココロの叫びを全て聞いていたのか、彩香さんの耳は真っ赤だった。
だけど、それでもむくれているのか、又はむくれたフリをしているだけなのか、彩香さんの頬はリスみたいにパンパンに膨れていた。
さて、どうやってこの
答えは一つだった。
「ねぇ彩香さん。あのさ」
「なに?」
「5月5日にさ――」
彩香さんの嫉妬を解消するには、僕が直接的に彩香さんを遊びに誘えばいい。そうすればそこに彩香さんが嫉妬する余地はない。
なぜ最初から直接的に誘わなかったのかというと、デー……遊びに誘うのが恥ずかしかったからだ。
口に溜まったつばを飲み込んで、意を決して言う。
「お土産渡すから渋谷に来てくれない? 待ち合わせはハチ公前で。何時頃がいい?」
ごめん彩香さん! 遊びに誘う度胸が僕にはなかった! 遊びに誘って断られたときのメンタルの崩壊を考えると怖いんだ!
そんな言い訳にすらならない言い訳をココロの中で叫んで、彩香さんをみる。
彩香さんはいつの間にかしぼませていた頬を再び膨らませて、断るわけ無いのに、とかなんとかブツブツつぶやいた。
そして僕をキッと睨み、席を立って早口に言いのける。
「10時半ハチ公前ッ。いくじなしの柚ッ」
結構傷ついた。
*
「ねぇ彩香さん、聞いて」
「どうしたの?」
帰り道、彩香さんと歩きながら話す。今日の朝起きた珍事件を披露しよう。
「今日の朝ね、ご飯食べながら靴下はこうとしたの」
「行儀が悪い」
「急いでたんだよ。それでテレビ見ながら靴下を足にあてがうでしょ?」
「……マナー最悪」
「天気予報見てたの! 雨だったら傘必要でしょ? で、靴下に足を入れて引っ張るでしょ? ヘンなつっかえを感じたの」
彩香さんはそこで首をかしげる。こういうオチがある会話の時はココロは読まないようにしているらしい。
お喋りを純粋に楽しもうと思ってくれているのだから、とても嬉しい。
「ヘンだな~と思って靴下引っ張るでしょ? そしたら……」
「そしたら?」
「ビリって音がして、えっ!? と思って見てみると……」
「引っ張りすぎ、オチ早くして。じゃないとココロ読む」
その脅迫は反則だ。と、ココロの中でツッコみ、急かす彩香さんをいなしてオチを告げる。
「なんと、手袋でした~!」
「……つまんな」
「あ、ごめん……。それで……グスン、手袋、お気に入りだったのになくなっちゃいました」
「……そっか。ごめん、お疲れ様」
僕のメンタルはボロボロに崩壊していた。崩壊していたから、慈しむような僕の肩を撫でる、彩香さんの手が、とても慰めになった。
それと、マッチポンプ式になんか慰められてる気がしたけど、気にしないことにした。
それと、彩香さんが悪徳商法が成功してほくそえむ悪いセールスマンみたいな顔をしてたけど――(以下略)
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