十四、決意と闇
世界の国々は、あらゆる権利や取り決めを戦闘系の人々を駒にしたゲームで賭け、決めている。
それが、世界共通のルールであり、戦争を起こさない為の
私達は聞かされた事実に、暗い感情を抑えられず、しかし、誰も口を開こうとはしなかった。それ以上に私達が恐ろしいと感じたのは『腕輪』の事実を知ったことだ。
「戦闘系の子達が嵌められる腕輪は『サクリファイスリング』そう呼ばれているわ」
「サクリファイス? あの腕輪は戦闘系のスキルを取得出来ないように抑制するだけじゃないのか?」
「あら、よく知っているわね? その通りよ、あの腕輪はスキルの力を抑制する。でもね? それは機能の一部に過ぎない」
「機能の一部ですか?」
「そぅ、サクリファイスリングの真の特性はスキルの抑制ではなく、スキルの
「吸収? 吸い込んじゃうってこと? 何が違うの?」
「スキルっていうのは人間の魂の力そのものなの、そんな力を吸収されたらどうなると思う?」
「死んじゃう……のかな」
「その方がまだ、マシかもしれないわね? あの腕輪はスキルの源となる力の根源をまず抑制し、徐々にその力を吸収していく。そして、最終的には肉体を支配し腕輪自体がその人間の支配権を持つようになる」
「「「————!!?」」」
ロゼさんの瞳は、冷静に語ってくれているその口調とは裏腹にどこか怒りに揺れているようだった。
そして、あまりにも衝撃的な事実に私達は絶句する。そんな腕輪を嵌められていたかもしれないと想像するだけで、恐怖に身が
ロゼさんはそんな私達の様子を見て、僅かに視線をそらすと。ふいに立ち上がり冷え切ってしまった飲み物を下げながら語り続け。
「文字通り、駒になるのよ。腕輪に命令を送り自由に操られる人形としてね? おねぇさんが手遅れって言ったのはこの状態になってしまうと、簡単にはもとに戻れないからなの」
彼は思いつめるような表情で話を聞いていたが、その一言を聞いて顔を上げる。
「戻せる方法があるのか!?」
「……保証はできないわ。あくまで可能性がゼロじゃないって話よ」
「そうか……」
可能性がゼロではない、その言葉は今の彼にとって救いなのか。ロゼさんの語った事が事実であるなら、お兄さんはおそらく。しかし、彼にとってそれは、唯一の光であり希望。
私は、そんな彼の横顔をただ、見つめている事しかできなかった。
□■□■□
ロゼさんは私達に語り終えた後、レインくんとエリシアもこの国にはもう居られないだろうからと、私と共にこの国から逃げることを提案してくれた。
エリシアは覚悟を決めたように振る舞ってはいたが、心の内では両親とのことや自分の身に起きている現実がまだ受け止めれていないように思えた。当然だ。私だってまだ心から受け入れられた訳ではない。
そして、レインくんはどこか重たい空気のまま、ロゼさんの話になんの返答も返すことなく。
「早速だけど、明日にはこの国をたつわょ? ルゥシフィルちゃんの大活躍で警備も強化されてるし?」
ロゼさんは空気を軽くするように冗談まじりに悪戯な笑みを浮かべながら私に視線を送り。
「そ、それは。なんかすいません」
「冗談よ。あなた達も簡単な決断ではないと思うけれど、覚悟はいいかしら?」
「明日、この国をでる。うん、大丈夫。パパとママになんのお別れも言えないのは胸が痛いけど、でもどんな顔して会ったらいいのか、わからないし。あたしはルゥシィの側にいる! それは変わらない!」
自分の感情を確かめるようにゆっくりと返事を返したエリシア。そして、彼も静かに頷いた。
「二人とも、私のせいで本当にごめんなさい。エリシア、本当にごめん」
「もう、そんな顔しないの! 悪いのはルゥシィじゃない、このイカれた国っしょ? だから、ね?」
「うん、ありがとう」
エリシアは私を抱きしめると、優しい言葉をかけてくれた。ふと視線を向けると、彼はどこか遠い目線を窓際へと向けていた。
「ここは、安全だから今日はもう寝なさい? 二階に部屋が余っているから。ルウシフィルちゃんはおねぇさんの隣でねるぅ?」
「い、ぃえ! せっかくですが遠慮させていただきます!!」
「ぁら、せっかく嫌なことぜぇんぶ忘れさせてあげようと思ったのに」
ロゼさんは舌舐めずりをしながら怪しげな視線を向けてきたが、そこは全力で
そうして、私とエリシアはロゼさんに用意してもらった部屋で寝ることに、私達に気を利かせてくれたレインくんは一階のお店に設置してあるソファーで休む事になった。
「————?」
「————」
エリシアが寝静まって少し経ったころ。私はロゼさんが階段を降りていく気配を感じてむくりと起き上がると、扉へと忍び寄りゆっくりと開く。何やらレインくんと話している声が聞こえたので、そのまま静かに階段を下って行き。
一階の扉の隙間からそっと覗いてみると、呆れたように頬づえをつくロゼさんと、俯いたまま座り込むレインくんの姿。
「様子がおかしいと思ったのよねぇ? それで? おねぇさんと二人に内緒でどこにいくつもりだったのかなぁ?」
「……兄さんを探しにいく。きっと兄さんはあの塔にいる」
「お兄さん、戦闘系だったのよね? あの場所はこの国の最も重要な拠点ょ? そんな場所に一人で行って何ができるの?」
————レインくん、一人で乗り込むつもりだったんだ。でもロゼさんの話じゃ戦闘系の人たちは戦いに駆り出されてるって。
「なんとでもする、今までもそうやってきた」
「はぁ、これだからおねぇさん、思春期の男の子って嫌いなのよねぇ? 言ったと思うけど、ほとんどの戦闘系は国の外へ連れて行かれてるのよ? それなら、危険な場所へわざわざ突っ込むよりも、一度外に出て情報を集めた方が————」
「兄さんの天職は
「……」
呆れた様子で彼をあしらうロゼさんだったが、その一言を聞いた瞬間、真剣な雰囲気を
「あんたの話を聞いて、俺なりに推測した。戦闘系はそのゲームとやらに駆り出されるんだろうが、全てじゃない。現にこの街にも数人、腕輪をつけた人間がいる。おそらく奴らは戦闘系の中でもゲームではあまり使えない連中ってところだろ? そう言った
「……賢い子は嫌いじゃないのだけれど」
ロゼさんは、ゆっくり彼のもとへ歩み寄ると、隣へ腰を下ろす。そしてシャツの裾から惜しげもなく披露されている魅惑的な太ももを大胆に晒し、彼の足へと乗せ。
「————っづ!?」
「やっぱりね? 折れてるわよこっちの足?」
————足が折れてる?! レインくんそんな怪我してたなんて全然気がつかな——ぁ。
ふと脳裏をよぎったのは、彼の家にいた時、二階の窓から見えた足を引きずっていた隊員の姿。
————レインくん、あれはレインくんだった。私を逃すためにわざわざ。
胸の奥から込み上げてくる熱く切ない感情。同時に思い返すのは不自然にセットしてあった二組のカップやパン、開いたままの裏口。
————全部、私のため? 私のいた地下室から遠ざけるために、二人で逃げたかのように装って。だから制服も。レインくんはずっと私のために、私を逃すためにっ!
それなのに、自分の事しか頭になかった。ロゼさんの言葉に一瞬でも舞い上がっていた自分自身に怒りがこみ上げる。ここに来てから、私は自分の未来しか考えてない。彼との約束も、彼の思いも————。
「命を粗末にしちゃダメょ? ただでさえ無謀なのに、こんな状態で」
「それでも、それでも、俺は————」
私は二人の会話を遮るように、大きく扉を開け放った。二人は驚きに目を丸くしながら私を見つめ。
「私が行きます!! レインくんの代わりに、私があの塔へ潜入してきます! 今から!!」
「ルゥシィ……」
「ぁらぁら」
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