2-4 信頼
受け持った計画は『全ての神を習合した【完全な唯一神】を宿し、その権能で世界を白紙に戻す』……強いて名を付けるなら【
だがこの計画は頓挫した。識が世界の白紙化を拒否し、組織から逃亡したからだ。
無論上層部は追っ手を遣わせたが、神社の境内に入った事で一時的に撒く事が出来た。
しかしな。識はそのまま隠れ続ける事を良しとせず、神社から出てしまったのだ。
────あの子は、戦う事を決意した。実際、あの子は戦って組織の人間を何人か仕留めた。今組織は36人全員が揃っている訳では無いはずだ。幾ら補填出来ても、秘密結社だから大々的に人を募る事は出来ない。
「……つまり、36人揃う前に【輪歌衆】を壊滅させるっていうのが神様の目的?」
『その通り。私は識を護る事が役目だ。その障害となる【輪歌衆】は、私にとって敵以外の何者でもない故────』
神様は目線を横に流して、怒りを顔全面に出して唸った。
『────
「……」
一方その日の午後、櫻宮書店では店長・
「……只のお客じゃないね?貴方は」
ベルが鳴るや否や、開口一番に杜若はそう言った。彼女が知る事では無いが、その『お客』は
「おぉ……解るんですか。心の眼、とでも言う奴ですかな」
「
「面白いお店ですな。……そろそろこちらの要件をお話しましょう。ですからどうか手元の《危なげなもの》は置いて下さい」
杜若は警戒から、書店制服のポケットに常備したカラーボールを握っていた。上手く感付かれない様に動いたつもりだったのだが、やはりこの男、ただの中年では無い。
「私は言うなれば、しがない【物書き】。この書店に、ちょっとした『売り込み』をしに来たのです」
「────ふぅん?」
警戒は緩まない。男の口元は緩んだままだ。
「言っとくけど私、読み物には煩いよ」
「いやはや、お手柔らかに」
翌朝。私達は北海道を離れる事にした。
帰宅し次第準備をして、掛矢が『急ぎだから』と急かして友人に造らせたレーダーを受け取りに行き、同じく掛矢がチャーターしたセスナに乗って朝一で徒利継島に行く為だ。チャーターした飛行機はどうも人気らしく、この時間以外でのフライトは厳しいとの事だった。無理を言って乗せてもらうのだから、私からはあまり文句を言えない。
昨晩の神様の話を聞いて、私の決心はここに来て揺らいでいた。識くんを信用して本当に良いのだろうか……と。
「乃恋」
掛矢が私を呼ぶ。振り返ると、掛矢は私の顔を見て何を察したのか、こちらに来て肩をポンポンと叩いた。
「安心しろ乃恋。きっとお前は善悪を越えたある地点で、正しい道を歩いている」
……やはり兄は、昔から言う事が変わっている。
「今度はゆっくり来るといい。秋なんかだと祭りもあるからな。……気を付けろよ」
「ありがとう兄ちゃん。それじゃあ」
私は兄に手を振る。兄もまた私に手を振る。
朝焼けと共に残りの夏が、今日と言う日が、また少し剥ぎ取られていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます