2-3 告白

「俺はな乃恋、その島を探し出すのは実はそれほど、困難では無いと考えている」

「本当?」

「何故か?俺はこのエルドリッジが徒利継島の正体だと思っているからだ」

 兄のしっかりした見解が聞けたのは夜もすっかり更けた午前1時30分頃だった。

「現代のレーダーは非常に高性能だ。もしその島がエルドリッジなど戦争当時の兵器なら恐らく発見する事自体は出来るだろう」

「その言い方だと問題が無い訳では無いね」

「無論。見つけても上陸手段が無ければ行けんだろうが」

 兄曰く、船の手配は止めた方が良い。

 何故なら、もし徒利継島が兄の想定通り艦船なのだとしたら、それは間違いなく座礁しているからである。不用意に近付けばこちらも座礁して帰還が困難になる、と。

「けどさ、島なんだから陸路は勿論無いでしょ?……兄ちゃん、だけは嫌だよ私」

「危険な場所に行くというのに。お前の決心はたかだかそんなものなのか」

 私は特に苦手な人を五本の指として数えるが、同様に苦手な物には四天王と呼称を付けている。そのうちの一つを、五本の指の一人は私に無理強いしようとしている。

 兄が勧めて来たのは空路────高所からのダイブだ。私は重度の高所恐怖症である。

「……でも飛行機が無いから出来ないね。ザンネンダナー」

「あるぞ。操縦出来る奴も知ってる」

「ゔっ」

「良かったな乃恋。諦めなくて済んだぞ」

 嫌味かよ。私はガッカリして兄を睨んだ。兄はと言えば憎たらしい程に清々しい顔をしている。お祭りの喧騒の中、氷水で冷やしたラムネをグビっと飲んだ時、火照った体の内側をすうっと通るあの心地良さを味わっている様な顔をしているのだ。非常に恨めしい。

「善は急げだ。手配は明日の朝一番に済ませておく。後は行って、飛んで、ダイブするだけだ」

「急がば回れとも言うよね……?」

「どうした急におっかながって。お前がどうかは知らないが、少なくとも神様を帰す、という識くんの為に行くんだろう?大人が嫌がっていたら示しがつかんだろうが」


 兄がそう言ったその時。神様がふらふらーっと識くんを離れて私達の話している隣の部屋にやって来た。────メモ帳に、『話さねばならない時が来た』と書いて。

 息を吸い、吐く。明らかにこれまでとは雰囲気も態度も違うそのさまに、私は固唾を呑んで見守る。


『……初めに、申し訳ない』

「……!」

 神様が喋った。てっきり喋る事が出来ないとばかり思っていたから、正直驚きである。

『私は君達を、信用の観点から少々騙してしまった。それなのにここまでしてくれるとは……重ね重ね申し訳ない』

「いやいや。私はただ……誰かに頼られる、って事が嬉しかったんです。まして神様を連れた少年と冒険まがいの事をするだなんて、小説の主人公になったみたいでワクワクしませんか?」

『……確かに君は、そういう人だな。

 そこでだ乃恋。私から一つ頼みがある』

 神様は真面目な顔で言った。私はその真剣な眼差しに、こちらも真剣に応えねばと覚悟する。

『私が自らのやしろに帰れば最後、識を護る者は無くなる。あの夜では識が嘘だったと申したが、我々を狙う者がいるのは事実だ。名を【輪歌衆わかしゅう】と言う』


 神様は言う。


 この世界に生きる人間で、少なからず『裏』にいる者はいる。

 その『裏』が【輪歌衆】という組織なのだという。非人道的な実験や計画を多く立てているその組織は、少なくとも平安時代には既に活動していたのだとか。

『千年に渡って練られた計画は36。【輪歌衆】は幹部をそれぞれの計画に割り振って活動している。そしてそのうちの一つを、我々はこれから潰しに行こうとしているのだ。

 そも識と関わった時点で確実に、【輪歌衆】に目を付けられる事は避けられなくなった。────あの子もまた、【輪歌衆】故な』

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