2-2 閃電

 駆逐艦エルドリッジ。軍用機マニアやオカルト事件が好きなお友達には結構な知名度を誇る、アメリカ海軍の所有していた駆逐艦である。

 詳しく説明をすると結構な時間がかかる為簡略化・省略をするが、端的に言えば、


 アメリカ軍部『ステルス機能付の駆逐艦が欲しい!エルドリッジたそで試してくんね?』

 研究員A『方法は色々あると思うけど……あっそうだ、電流流したら消せるんじゃね?』

 研究員B『よし流したろ。ポチッとな』

 ヴィィイイイイイイイン・・・ボシュッッ!

 研究員A・B『あれ、エルドリッジたそが消えた!?』


 みたいな雰囲気である。ちなみにこのエルドリッジ、消えたと思われていたのだがこの後ちゃんと戻ってきた。……船員のほとんどがあまりにも悲惨な死を遂げて、だが。

 この実験は当時秘匿されたのだが、どういう経緯か話はこうして世に流れ出している。実験は秘密裏に成功していたという説もあったりするが眉唾もので、オカルト界隈でも偶に話が上がっては議論のなされる所。

 最近だとロマンを追い求めた艦船のシューティングゲーム内でその名前や姿を見る事が出来る様だ。エルドリッジは可愛いぞ。


「……そんな船の設計図を、なんで番村のお爺さんは持ってたんだ……?」

「番村……?おいもしかして番村ってあの番村か!?」

 兄が突然食い付いてくる。もしかして何か知っているのだろうか。

「兄の推測が正しければだな妹よ。その番村さん、近しい人が戦時中、海軍に在籍しているはずだ。……下手すれば本人の可能性もあるな……下の名前は八太郎やたろうだか八郎太はちろうただかと言わなかったか!?」

「あっしまった。聞き忘れた」


 兄が黙り込んだ。見ると机に顔をめり込ませて死んだようになっている。よほど私の『凡ミス』がショックだったらしい。

「折角謎が解けると思ったのに……いや解けるとまた愉しみが無くなるな……。ともあれだ、今度会うならば是非とも聞いておくれ。でないと兄が知識欲を暴走させてお陀仏になってしまう」

「一回くらい試してみても良いと思う」

「非道い!?」


 あまりにうだうだと話し込んでいたせいで、気が付けば空は濃紺に蝕まれた。無造作にばら蒔かれた星屑が私たちをあざけ笑っている。

「すっかり本題から逸脱してしまったな。この設計図がエルドリッジという駆逐艦のものだ、って事までは話したっけか」

「そこまでですね」

「では何故、その徒利継島とやらとエルドリッジが繋がるのか、だ。恐らくは何か関連があるからこの設計図をお前達に託したんだろう事は理解に難くない」

「なんだか急に兄ちゃんがまともに見えて来た」

「崇めたまえ。俺は褒められて伸びずに喜ぶタイプの人間だ」

「せめて伸びてよ……」

 この分だし、どうも結論が出るのはしばらく後になりそうだ。私は宿泊を覚悟し、固唾を呑むのだった。




 ────一方時を少し遡り、五十嵐いがらし三六六こよみはコンビニの駐車場に止めたママチャリのサドルに腰を据えてニコニコしながら肉まんを頬張っていた。

「んもふぅ……♡」

 ご満悦、という他ない満面の笑み、幸福物質エンドルフィンどばどばといった具合である。

「おや……もし、そこのお方。そこの幸せそうなお方です」

「ふぇ?ははひへふは?」

「そう貴女です。────十束川、という苗字にお馴染みはございませんか?

 ……何、怪しいものではありません。私、こういう者でして」


 名刺を胸ポケットから華麗かつ大袈裟に取り出す初老の男。三六六はそれを受け取って、内容をよく読んでみる。

 途端開かれた眼孔。視線は顔と共に初老の男と名刺との間を何度も往復して、驚きが隠せないでいる。

「十束川さんの所在、教えて────くれますね?」

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