1-5 出立
「さて」
ここは五十嵐さんから教わって来た番村という老父の家。私・十束川乃恋は神様を連れた美少年の識と共に、識を守る神様を元いた神社に返す為神社があるという『徒利継島』という地図に無い島を探している。そしてその島を知っているらしいのがこの番村のお爺さんなのだが……。
「さっきの……私たちを追いかけて来た『アレ』は何ですか」
「視えるなら解ると思ったのだが……アレは何でもない。何者にもなれないものだ」
番村のお爺さんの茶の間は、壁一面額縁に入った絵画と時計で埋め尽くされた奇妙な場所だった。ちらと何かの端が見えたので時計をずらして見てみると、そこには御札が。
「この家そのものが結界にしてある。少なくともアレのように、穢れた者たちは入って来られない。
……して、お前たちはナゼここに来たのだ」
「神様を元いた場所に返す為です────徒利継島にあるはずの、神社の祠に」
どうやら番村のお爺さんは神様が見えていない様だ。識くんに詰問すらする気配がない。
「失礼。番村さん……識くんの後ろには神様がいるんですが、それは視えてますよね?」
「……はて?わたしには視えておらんが?そこにいるのかね」
「この神様が僕をこれまで結界で隠して護ってくれていたんです。でも僕は、もうこれ以上神様に傷ついて欲しくない。だから返したいんです。……徒利継島っていう島の事、知っているんですよね?」
識くんはお爺さんに訴え掛ける。お爺さんは何か言うでも無く、立ち上がって茶箪笥を
「古書……?」
「鋭いな。だが本と言う程のものでは無い」
お爺さんが薄っぺらな冊子を手に持って来た。紙は黄色く変色し、端は焦げ落ちている。昭和初期の頃のものだろうそれは、何か巨大な人工物を記した設計図だった。だが正直、インクの滲みが酷くて読めたものでは無い。
「わたしの知る限り、『徒利継島』という島は存在しない」
「えっ」
「だがな、その『噂』を流した人は知っている。お調子者だから多分ここらの人は皆そいつの顔を知ってるさ」
「その人は……?」
「
なんでも、番村のお爺さんは染十郎さんがどこに婿に行ったのか知らず、数年前に親戚との集まりで染十郎さんが脳の病を患って亡くなった事を聞いたのだという。
「染十郎はなんにも遺さなんだ。これの原本もどうせ、何処かへ売っちまったんだろうさ。……すまないな。せっかくこんなところまで来て、何もしてやれず」
「いいえ。お話を聞けただけでも十分ですよ。それに、まだ私は諦めてませんし」
「?」
「この写しの設計図、読める人に心当たりがあるんです」
番村のお爺さんは『外にまだ【碌でないもの】がいるから』と、裏口を使わせてくれた。
「あいつらに捕まると中々厄介だ。守ってやれよ乃恋さんやら」
「有難う御座いました。ではまたいずれ」
私達はお爺さんに設計図を託された。『心の
私は今背中に自分以外の人生をまるっと背負った感覚を覚え、緊張でおかしくなってしまいそうだった。識くんと繋いだ手も、快く無い汗で滑る。
「……ところで乃恋さん、さっき言ってた『これ』を読める人って誰なんです?」
……しっかりしなきゃ。私が潰れたら、識くんはどうなる。
「乃恋さん?」
「……あっごめん識くん。何て?」
「心当たりですよ。誰なんですか?」
私は少し考える。というのも、その人物は私がこの世で嫌厭して来た者の5本の指に入る奴で、識くんが会って大丈夫か分からないグレーな感じのする、有り体に言えば変人の延長線上にいる存在、つまり【変態】だからだ。
だが私は思った。今は奴に頼らざるを得ない異常事態で、その奴に関して何も知らずに初対面を迎えれば間違い無く識くんの純真無垢な精神は穢れる。ついでに言うと、これは女の勘だが、奴とは『今後も結構な頻度でお世話にならざるを得なくなる』気がしていたのだ。まさかここまで状況が揃っていて、教えないなどという選択肢が選べようか。
「……分かった。えっと……なんて言えば良いのかなぁ。この世のサブカルチャーを濃縮して身長166センチ・体重73キロの人型容器にパンッパンに詰め込んだ様な人なんだけどさ。地元から出ようとしないからコッチが出向かなきゃいけないの」
「……結構親しい間柄です?」
「だってその人…………私の兄貴、なんだよねぇ……」
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