エピローグ
第n話 foo bar baz
「あ、最上階みたいだよ!」
先頭を進んでいたルルが振り向いて私たちを呼ぶ。
私、ディー、クロスケが階段を登り切ると、そこは山の中腹を抉ってできた大広間。そしてそこには……
「ほう、客人とは珍しい」
金銀財宝の上にゴロリと寝そべっているドラゴンがそう言って迎えてくれた。
ルナリア様やシルバリオ様みたいに人に変化はできないのかな?
「あ、どうも、私はミシャ。こっちのドワーフがルル、エルフがディー。ウィナーウルフのクロスケです」
「「「「よろしく(ワフッ)」」」」
「うむ、我は紅龍のガルナ」
ガルナ様がその大きな頭を下げ、私たちと目線を合わせてくれた。
「して、何用か?」
「このダンジョンのメンテナンスに来ました。ガルナ様はこのダンジョンの管理者に会ったことはあります?」
「管理者か……。我にこの場所を用意してくれた者がいるのだが、其奴かも知れんな」
「名前わかりますか? 髪の長い、綺麗な女性ですけど」
「確かロゼと名乗っておったな。我が人里に顔を出すと面倒なことになると、この場所を教えてくれたのだ」
ああ、やっぱりロゼお姉様だったか。
ダンジョンのラスボスとして住居を用意してあげたのかな。
「ねえ、ここの金銀財宝ってどこかから集めてきたものなの?」
「それは違うぞ、ドワーフの娘よ。これらはダンジョンが用意してくれている我の寝床。定期的に増えるゆえ、
え……
まあ、嬉しいんだけど、別にそんなにお金に困ってないし。
「ミシャ、本来の目的を先に」
「おっと、そうだったね」
「ふむ、用件があるのだな。伺おう」
というわけで、私は改めてここに来た目的を話す。
この世界に設置だけされて放置中のダンジョンのメンテナンス。
まあ、目的って言っても、観光旅行のついでみたいなものだけどね。
………
……
…
「なるほど。ただの娘らではないと思っていたがそういうことか」
「あはは……。そういうわけで、ダンジョンコアのある管理室に入らせて欲しいんですけど」
「ふむ。かまわぬが入れるのか?」
「入れなかったら諦めます。ここはちゃんと動いてるみたいなので、特にダンジョンの設定を変更する必要もないでしょうし。
あ、もしガルナ様がダンジョンに『こうして欲しい』みたいなところがあれば、可能な限り対応しますけど」
ガルナ様が考え込んでから、ポツリと言った。
「風呂が欲しいな」
***
『報告します。管理者権限によるアクセスを確認。言語コードjaを認識。パスワードを入力してください』
私はいつも通り、初期設置時のデフォルトパスワードを答える。
『パスワード』
『報告します。入力を確認。認証成功しました。ログインしますか?』
『ログイン』
一瞬だけ体がふわりと浮遊感を感じ、次の瞬間にはダンジョンコアのある小部屋へと転移していた。
最初にすることはパスワードの変更。これも初めて訪れるダンジョンにくるたびに行うこと。
『報告します。パスワードの変更が完了しました』
『さて、このダンジョンの情報を教えて』
『回答します。私は地脈調整用ダンジョン施設。管理番号M0048です』
『地脈調整って具体的には何をしているの?』
『回答します。地中深くまで浸透してしまった魔素を回収し、この山の頂上から放出しています』
『へー、火山にある理由は?』
『回答します。マグマ溜まりを利用することで効率よく魔素を回収できるため、ここに設定されたと推測されます』
ああ、なるほど。広い範囲から回収するのに都合がいいのか。
私はひとまず聞いた内容をルル、ディー、クロスケに説明はするけど、やっぱりあまり理解は出来てないみたい。
この世界には地学に類するものはないので、ざっくりと『地面の下に行っちゃった魔素を回収して、山のてっぺんから出してる』という風に説明し直すと、なるほどと納得してくれた。
『最上階にドラゴン……紅竜のガルナ様がいるのは知ってるんだよね。定期的に金銀財宝を生み出してるって話だけど何で?』
『回答します。ドラゴンが居住する前までは回収した魔素を放出するだけでしたが、このフロアの安全性を高めるため、共生関係にあるべきだと判断し、よりふさわしい住居にするための手段として生産しております』
『え? ドラゴンって金銀財宝があると元気になるの?』
うーん、確かにルナリア様もシルバリオ様もお金持ちだったけど……
『回答します。ドラゴンに関する情報に金銀財宝の中で眠るという記述があったため採用しました。正解でなかったとしても、通貨として利用できる観点から実行に至っております』
な、なるほど……。まあ、いらないなら好きなものでも買ってって選択は悪くないか。
『じゃあ、まあそれは続行でいいんだけど、そのガルナ様から要望があったから聞いてくれるかな?』
『回答します。先程、対話していたことは把握しております。要望に関しては可能な限り対応いたします』
『ありがとう。じゃ、えーっと……』
私はガルナ様が欲しいと言っていた『お風呂』について実現可能かをダンジョンコアと協議し始めた。
***
最上階に戻り、ガルナ様も含めて、皆で外に目をやる。
お風呂場となる場所を用意してくれるらしく、私が合図すればいいらしい。
『じゃ、お願い!』
と話すと、ここから左側にある少し離れたところの岩山がごっそりと削れて滑落した。
「うわー……」
ルルが思わず呟くが私も同じ気持ち。適当な箇所の森を切り開くのかと思ったら、岩山の一部をこそぎ取るとは。
まあ、あそこならガルナ様がそのまま入れるお風呂も用意できるかな。
石壁で浴槽を作れば、綺麗で良い感じの温水を循環してもらうだけで温泉の完成!
「ミシャ。あそこまでどうやって行くのだ?」
おっと。ガルナ様には飛んでもらうとして……
いったん私が飛んでいって、測位してから戻って来て転移?
「ふむ。皆、我に乗れば良い。あそこまでならすぐだろう」
「え、いいの?」
「もちろん。
目を細めてそういうガルナ様。なんか色々と気を使ってくれてるみたいですいません。
私たちはガルナ様に言われるまま、金銀財宝を回収してからその背に乗る。
「さあ、行くぞ、娘らよ」
大きく翼を広げて飛び立つドラゴン。
その背中から見える世界は行ったことのないところばかり……
まだまだ、旅と出会いと時々ダンジョンが、私たちを待ってる!
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