第182話 リスタート
自分の意識が覚醒していくのがなんとなくわかる。
体内でスタートアップシーケンスが動いているような感覚がし、胸に掛かる重さ、鼓膜を震わせる声、そして……『知らない天井』はベタだよね。
「ルル、重い」
思わずそう声に出て、少し下を見ると、信じられないものを見たような顔のルルが……
「ミシャ!!」
ううう、重いって言ったのに!
勢いよく抱きついて来た衝撃で後頭部とか背中が痛いんだけど!
「ミ゛ジャァ〜!」
あーあーあー、ディーも抱きつくなら、せめてよだれと鼻水は拭いてからにして欲しかったなあ。
「ワフッ!」
最後にクロスケが飛びついてきて、めちゃくちゃ顔を舐められた。
さて、これは私が何か言わないと落ち着かない感じ?
「どれくらい気を失ってた?」
聞いてはみたものの、ルルもディーも答えられそうにないなあ。
とりあえず体を起こそう。
「はいはい、とりあえず座らせて」
それはちゃんと聞こえてるのか、二人して私をゆっくりと座らせてくれる。
あ、ロゼお姉様とルナリア様とフェリア様だ。
ロゼお姉様までぺったりと座り込んでて、両脇のディオラさんとマルセルさんがそれを支えている。ちょっと気を失ってた程度かなと思ってたけど、もっとヤバかった感じ?
「どれくらい気を失ってました?」
その問いかけに、ルナリア様がフェリア様を肩に乗せて近寄ってくる。ロゼお姉様は座り込んだまま立てない?
「鐘半分ぐらいだが……」
「気ではなくて魔素を全て失っていたのよ。あなたは……」
こわっ! 下手したらダンジョンに回収されてたじゃん!
半鐘だけにおじゃんに……多分通じないから言わないでおこう。
うーん、あのドス黒い奴……ヘルト=ゲフナーだっけ? そいつを消すのに魔素をごっそり持っていかれた?
「さて、帰りましょうか」
「
「うーん、ちょっと寝てたぐらいの感じです。悪霊も払えたっぽいし、スッキリ?」
その答えにルナリア様が呆れ顔に。美少女でもそんな顔したら……絵になるなあ。
「ヘルト=ゲフナーは貴方を乗っ取ろうとしたのだけれど……」
「ああ、それで変なもの見せられたんですね。まあ、同情の余地はあるけど、関係ない人間まで巻き込んでる時点で無理です」
あいつの半生とか、前世の悪夢とか見せられたのは最高に気分が悪かった。『恨みはらさでおくべきか』ってやつなのか知らないけど、関係ない人間を巻き込まないで欲しい。
「その程度の気構えで勝てるとは思えんのだがな」
とフェリア様。
いやいや、逆だと思うけどなあ。妙に硬い心ほどぽっきり折れると思う。柳に雪折れなしという諺があるぐらいだし。
ん、魔素も元に戻ったかな? クロスケがわけてくれたみたいだし。ローブのお陰で……はないか。ルルもディーもひっついたままだしね。
あ、ああ、このローブがヨーコさんのだったから守ってくれたのかも? うん、それが一番綺麗な気がしたのでそういうことにしよう。
「あれ? ケイさんとシルバリオ様は?」
見回すと二人がいない。シルバリオ様、カーネリアン様の最期はちゃんと看取れたんだよね?
「二人なら神官を呼びに行ったわ。貴方のためにね」
「ああ、そっか。なんだかすいません」
「いえ、いいのよ……」
ルナリア様はまだ信じられないという表情なんだけど、フェリア様がそれを見て笑っている。
「くくくっ、白とかげにもまだ驚くべきことがあろうとはな」
「うるさい羽虫ね。これが驚くことでなくてなんだというのよ」
「ふふ、良いことを教えてやろう。これは『ミシャだからしょうがない』というものだ!」
それ得意げに言うことですか……
まあ、これ以上ここであーだこーだ話しててもしょうがない。もうそれでいいです。
「さて、そろそろ帰りましょうか」
私が立ち上がろうとすると、ルルとディーがそれを支えてくれる。
「大丈夫大丈夫。もう全然平気だから」
「ダメ……」
うう、ルルが怖いよう……
「まあ、待て。しばらく休んでいても問題ないし、白とかげに少し時間をやってくれ。その間に我がケイたちを止めてこよう」
あ、ああ、私がぶっ倒れたせいでフリーズしてたのか。すいません……
フェリア様は返事も待たずに、ケイさんの腕輪目掛けて転移してしまう。
ルナリア様はそれを見届けると、私の後ろ、部屋の奥へと歩いていく。
あれは……一人にしておいた方がいいよね。
「ミシャ、本当に大丈夫なの?」
どうやら立ち直ったっぽいロゼお姉様がディオラさんとマルセルさんを従えてやって来た。
なんかもう、私よりも顔色が良くない感じなので「そっちが大丈夫なんです?」って感じ。
「ええ、全然。やっぱりこのローブですかね。ヨーコさんが守ってくれたんだと思います」
「そう。それで……会ってきたの?」
「はい?」
三途の川は見なかったし、お花畑も見なかったしって、それは前世の方だっけ。
ああ、こっちだと
「いえ、なんでもないわ。あなたは本当に……」
そう言っておでこに手を当てて首を振る。
問題児っぽくてすいません。
「私からあなたに頼むのはもうこれきりにするわ。私の方が持たないから」
「えー、それはそれで傷つくんですけど……」
頑張りすぎて出禁というか、設計に問題があるのを指摘しすぎて「うるさいから、もう来るな」はあるんだよね。
あの時はまだダイクロじゃなかったから怒られなかったし、結局、あのプロジェクトはコケて終わったから間違っては無かったと思う。……そういう話じゃなかった。
「ルル。これを受け取りなさい」
「えっ?」
そう声がかかり振り向くと、ルナリア様がA3サイズぐらいの赤い……カーネリアン様の鱗?
ルルもようやっと落ち着いたのか、私の腕を離し、それを両手で受け取った。
「ボクがもらって良いの?」
「ミシャを危ない目に合わせてしまったお詫びよ。それに、カーネリアンも貴方たちと一緒に旅をしたいはずだから……」
そっか、ずっとこんなところにいたんだもんね。
「うん、ありがとう……」
「ウォルーストの北のドワーフに頼めば加工してくれるわ」
アッハイ、知ってます。
なんだかめっちゃ硬そうだけど加工できるのかな? あ、でも、マルリーさんの盾も鎧もルナリア様の鱗が混じってるとか言ってたっけ。
と、遠くから足音が聞こえて……ケイさんとシルバリオ様かな?
「ミシャ!」
「あ、ケイさん。すいません。ちょっと気を失ってただけです」
そう答えると、ケイさんはディオラさんの方を見て……ディオラさん、そこで苦笑いはやめて欲しいんですけど! あと、ケイさん、握ってるフェリア様がキツそうなので緩めてあげて欲しい。
で、シルバリオ様は一礼してくれたあとにカーネリアン様のところへ。朽ちた遺体から牙を拾い上げた。竜の都に持って帰るのかな。
「お
もう帰っても良いのかな? というか帰りたい。
けど、面倒なので転移しようという私の提案は「体を大事にしなさい!」と却下され、歩いてとぼとぼ帰りました……
***
「で、リュケリオンからも普通に戻って来たってことか?」
「うん。私はホントになんともないんだけど、ルルとディーが魔法使わせてくれなくて……」
用は済んだし、報酬がわりにカーネリアン様の鱗ももらったし、後はよろしくで帰らせてもらった。
ルナリア様とシルバリオ様、竜の都に帰るのめんどくさいんじゃと思ったけど、カーネリアン様の件で竜の都に戻ったんだし、ラシャードでの療養に戻るかも?
まあ、ロゼお姉様が良いようにしてくれるよねってことで。
「ほどほどにしてくれよ。お前らがつえーのは知ってるが、それでもな?」
「うん。気をつけるよ。ルルにもディーにもクロスケにも随分怒られて、やっと許してもらえた感じだし……」
目をやる先にはシェリーさんと手合わせ中のルル。
シェリーさんも頑張ってはいるけど、やっぱりルルの方が上かな。サーラさん仕込みの体術も加わってるしね。
その奥、生垣の方ではディーとクロスケが樹の精霊とキャッキャウフフしてる……
「じゃ、しばらくは旅には出ねーんだな?」
「そうね。もうすぐ寒くなってくるんでしょ。年が明けて春になるまではゆっくりするよ」
春になったらルルがもらったカーネリアン様の鱗を加工してもらいに行かないとね。
やっぱり右肩につけてもらってレッドショルダーにしたい……
その後は竜の都かな。獣人さんたちにお礼も言いたいし、ルナリア様のところへ行って、ワイバーンの戦利品を回収しないと。
あと、古代魔法都市に入らせてくれないかお願いしてみよ。次元魔法の手がかりがあるかもしれないし。その辺、ベルグに書物とかないのかな?
「こっちにいる間、また書庫に行かせてもらって良い?」
「おう、いつでも使ってくれ。で、実はいろいろと相談してーことがあってな?」
エリカは休ませてくれないのね……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます