第181話 セーフモード
「
「あ、お疲れ様です? 私?」
私の目の前にいるのは……私だよね?
いや、美沙でもないし、ミシャでもないけど、私だと思う。
「私は私が誰だか忘れちゃった? まあ、私だからしょうがないんだけど」
「うーん、この辺まで思い出せてる感じ?」
そう、お腹の辺りまで手を持っていく。
「全然じゃん!」
「うん、私だ」
グッとサムズアップすると、向こうもサムズアップで返してくれる。
「楽しいけど、話が進まないのでいい?」
「あ、うん。どうぞ」
「こほん。ウォルーストの大聖堂で見たでしょ。私」
大聖堂で? ああ、そういうこと?
「
「ピンポ〜ン」
そっかそっか。私が
前に『
で、それはいいとして、
「
「おけ。ざっくり言うと、
「私は
「そうそうゴースト。囁く方のね」
「そのゴーストの私が今なんでここに?」
「緋竜カーネリアンの浄化をしてたことは覚えてる?」
ん? カーネリアン? ……ああ!
浄化しようとしてたら、なんかドス黒い魔素の塊が出てきて……
あれ? じゃ、私、死んだの? 神様がいるところに来てるんだし、そっか。
「あー! ミスったー! 本番環境でミスるとか最悪!!」
「いやいやいや、失敗してたら魂が壊れてゴーストになってるから。幽霊の方の」
「んん? じゃ、なんでここに?」
「あの黒い魔素……ヘルト=ゲフナーは
うげ、システムファイルを強制上書きしようとしたのか。バッファオーバーフローの脆弱性でも突かれたのかな?
ああ、それで……多分だけど、あいつの過去の出来事だったり、私が絶望するような光景が再生されたのか。
「結局、上書きはされなかったってことだよね。自分で言うのもなんだけど、よく上書きされなかったよね」
「そりゃ、ちゃんと
「そりゃね。ついてないなーって思うし凹むけど、それを八つ当たりする意味がないもん」
彼の過去?を見せられて、かわいそうだなとは思ったよ。
でもなあ、復讐を誓い糧にしたとはいえ、自力で宮廷魔術士としての地位を築けるなら、普通に幸せな人生を送れた気もするんだよね。
どっちかというと、その後の美沙の悪夢の方がきつかったよ……
「うんうん、そうだよね。じゃ、他に質問は?」
「
「この世界の運営のための研修に行ってもらったんだけどね。そっちにも暗黒神の介入というか、まあわかるでしょ」
そっか。あの超ブラック企業、ダイクロシステムズが暗黒教徒だって言われると納得かも。
うーん、今まであんまり実感がなかったけど、かなり許せない相手に思えてきた。
「でも、研修って……魔法プログラミングの研修? ダンジョン運営の研修?」
「その二つもそうだけど、あの世界は大きな崩壊もなくまともな世界だからね」
「えー、そうかな? でっかい世界大戦を二回もやってるのに?」
「いやいや、人口の七割を失ったこっちの世界よりはよっぽどだと思うよ」
ええっ!? 人口の七割!?
「どうやったら人口の七割も失えるの……」
「
「あっ! ああー……」
むしろ七割で済んでマシだったって感じなのかな。
うーん、魔法の技術継承がまともに行われてないのもそのせい? もしくは、そういう魔術士は全部いなくなったか……
「じゃ、今は残りの三割で世界を再構築中ってことであってる?」
「そそ。データが七割吹っ飛んだ世界だけど、バックアップもないし、サービス終了もできないから、修正パッチ当てつつ運用みたいな?」
「その言い方は不謹慎」
「うん、ごめん、言ってて思った」
そう悲しそうな顔をする
しかし、修正パッチねえ……。私も修正パッチなのかな? いや、私は分け身だから運営する側だよね。そのための研修だったんだし。
「あ、修正パッチってダンジョン?」
「イエス。さすが私」
「いや、それは良いけど初期パスワードのまま放置はないでしょ。
「ごめんごめん。だから、
うっ、そっか。ダンジョンっていう『とりあえずパッチ』を当てたのも私だよね。
何もせずに放置したままだと問題があるから、パスワード問題は棚に置いて後から……ううっ、わかるけど。わかるけど!
「うん、まあ、それはいいや。あとはミシャの依代だった女の子って? というか、なんで美沙からここを経由せずにミシャになったのかの説明プリーズ」
「それね。本当は美沙として天寿を全うしてもらって、ここでちゃんと説明をしてから転生してもらう予定だったんだけどね」
「ソフィアさんみたいに?」
「そうそう。けど、向こうでの暗黒神の介入と、パルテームの黒神教徒の勇者召喚であの依代に入っちゃったの」
うーん、なるほど。ん、じゃ、やっぱり……
「ロゼお姉様にそれをお告げとして伝えて回収した?」
「そそ、
うわー、危機一髪ってとこだったのね。こわっ!
「で、あの女の子は?」
「えーっと……」
明後日に目をやる
まあ、だとしたら、あまり気分が良いものじゃないけど……
「……魔導人形です」
「は? …… はああああ!?」
「パルテームの王族と黒神教徒は、文字通りあなたを操り人形にしようとしてね? あなたがインストールされたら洗脳調整して黒神教の聖女扱いしようと……」
目をそらしたままそう話す
こっちの世界では人ですらなかったのね……。別に良いんだけどさ。
「でも、ちゃんと食べたり飲んだり……できるんだね」
「この世界にはもう数体も残ってない代物だからね。まあ、希少な魔導人形も奪えたわけだしプラスと思って?」
「うう、その考え方も私だ……」
最初にあった擦り傷とかもそういう風に作られてるのかな。あの高さから落ちて擦り傷だけなのも今考えると変だ。
「さて、そろそろ戻ってあげないとかな?」
ぱったりとTポーズで仰向けに倒れている
「あーあー、ルルもディーも涙でぐちゃぐちゃだし、クロスケも耳ペタだし……」
そいや、クロスケも私と一緒に運ばれてたのかな。まあ、なんとなくそうかなって気がしてきた。ウィナーウルフを従えた聖女として、どこかに戦争でも吹っかけるつもりだったんだろう。
「
「まあね……。じゃ、帰るけど、一つお願いしていい?」
「うん、大丈夫。聞かなくてもわかるよ。私だから」
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