第178話 しっかりと準備してから対応を

「うわ、すっごい部屋!」


 ルルが思わずそう声をあげる。私も唖然というか、こんな豪華な部屋に転移してくると思わなかった。

 エリカっていう王族と付き合いがあるけど、エリカは質素倹約というか、派手なの嫌いっぽいんだよね。

 まあ、エリカは素で派手な方の美人なので、わざわざ着てるものや周りを華美にするよりも、シンプルな中にいた方が良さが際立つ感じもあるんだけど。


「こちらへ。お茶にしながらお話を伺いましょう」


 シルバリオ様に案内され、その転送部屋を出たところで、


「シルバ、こんなところに居たのね。あら、ケイじゃない。それに……お客様かしら?」


 思わず目を奪われる真っ白な美少女が立っていた……


***


 場所をリビング……というには豪華すぎる部屋に移し、シルバリオ様が淹れたお茶をいただく。

 私もディーも緊張でガチガチだが、ルルとケイさんは至っていつも通りだ。


「ルナリア様、シルバリオ様、改めて三人を紹介します」


「ワフッ」


「ああ、すまない。君もな」


 ケイさんがにこやかにそう告げるんだけど、私としては『クロスケ〜〜!』って感じです。

 まあ、ルナリア様もシルバリオ様も思わずニッコリなので結果オーライで。


「ベルグの伯爵家令嬢のルル、ロゼ様の弟子のミシャ、ディオラの姪のディアナ、ミシャの相棒のクロスケです」


「「「「よろしく(お願いします)(ワフッ!)」」」」


「お姫様ひいさま、ここへ戻る途中に馬車のトラブルを解決してくれたのが、この方々です」


「ああ、そうだったのね。まさかロゼの知り合いだとは思わなかったわ。

 私は白竜姫ルナリア、こっちは銀竜シルバリオ。馬車の件もそうだし、ロゼにはそれなりに世話になっているから、何かしらお願いがあるなら考えてあげてもいいわよ」


 うん、エリカよりずっとお姫様だ。パンがなかったらケーキを食べれば良いじゃないとか言いそう。


「今日はお願いがあってきたわけではありません。ロゼ様から伝言を預かっていますので、こちらを」


 ケイさんがそう言って丸めた羊皮紙をシルバリオ様に渡す。


「そうなの? ロゼのおかげで体の調子は良いけど、ちょっと問題があって忙しいのよねえ」


 そうため息を漏らすルナリア様。美人って何やっても絵になるからずるい。

 で、シルバリオ様は羊皮紙を延ばして中身を改めて……あ、固まった。


「お姫様ひいさま、カーネリアンが見つかったそうです……」


「なんですってっ!」


 シルバリオ様が差し出した羊皮紙を受け取り、それを読むルナリア様。

 その目から大粒の涙がこぼれ落ちる……


「なんてこと……。ああ、可哀想なカーネリアン……」


 私たちが掛けられる言葉なんてなかった。

 ただただ、涙するルナリア様、シルバリオ様を見ているしかできない。

 二人は一頻ひとしきり涙したあと、気を取り直し、居住まいを正した。


「お姫様ひいさま、すぐに出立の準備をします」


「ええ……。ミシャ、だったかしら。ロゼの話だと、あなたは転移が使えるそうだけど」


「はい。人数が多いとちょっと不安はありますが……」


 何せ運ぶ相手が竜だし、魔素の対消滅が洒落にならない気がする。

 でも、ロゼお姉様が頼んでくるってことは、多分大丈夫なんだろうと思うけど。


「魔素の対消滅なら気にしなくて良いわ。私の魔素は、ほら」


 と詠唱もなくルナリア様の魔素が視覚化されたんだけど、ほぼ透明と言える輝ける白。白竜姫にふさわしい高貴な白だ。


「ワフ」


 クロスケが……ああ、そういうことか。クロスケと同じで対消滅しない魔素ってことっぽい。


「ふふ、その子は随分とお利口さんね」


「わかりました。今から向こうに転移することを伝えますので、出立の準備を進めてください」


 私はあらかじめ預かっていた羊皮紙をケイさんから受け取り、それをディオラさん宛てに転送した。

 それを見届けたシルバリオ様が、


「お姫様ひいさま、準備を進めますゆえ、少々外します」


 と一礼して部屋を出る。

 それを見送ったルナリア様は改めて私を見てこう言った。


「空間魔法はロゼに習ったの?」


「あ、はい。習ったというか、魔導具だけ渡された感じです」


「ロゼらしいわね」


 そう言ってうっすらと笑う。


「その杖は虹銀アイリスね。それを持てるということは青の魔素、そして重力魔法も扱えると」


「はい」


「あとは結界魔法だけど?」


「フェリア様に教わりました」


 そう答えると、ルナリア様は今度はクスクスと笑い出した。


「あれが人にものを教えるなんて珍しいわね」


「あ、あはは……。まあ、押し付けられた感じですけど」


 言い方は酷いけど、親しいからって感じかな。まあ、意外と気が合いそうな二人な気はする。


「ねえねえ、ルナリア様ってフェリア様とも知り合いなの?」


「ええ、そうよ。私があなたぐらい小さい頃からの悪友ね」


「すごい!」


 相変わらず自分のペースで話すルルだけど、ルナリア様も気を悪くはしてないようでホッとした。

 ディーは未だにガチガチだけど……


「それにしても、ロゼもフェリアもリュケリオンにいるなんて珍しいわね。カーネリアンのこともあるのでしょうけど、一体どうして?」


「えーっとねー……」


 ルルがカルデラ屋敷にフェリア様が転移してきたあたりからを説明してくれる。

 ルナリア様も大きな地震があって、あのウルクが出てきた穴のせいで、カーネリアン様の気配を察知できたのだろうと推測する。

 ただ、それがどこかは分からなかったので、慌てて竜の都に帰ってきたのだけれど……と。


「その……何年ぐらい会われていないので?」


 ディーがおずおずといった感じで質問する。

 ルナリア様は薄く笑みを浮かべながら首を傾げると、


「かれこれ千年近いかしらね。ちょっと散歩になんて言って出て行って、数年もすれば帰ってくると思っていたのだけれどね」


「私がフェリア様と最下層に飛ばされた時に気づいてれば……」


「それは言っても詮無き話ね。フェリアはカーネリアンに会ったことはないし、貴方が見たときにはもう……だったのでしょう?」


「はい……」


 あのドラゴンゾンビ、緋竜カーネリアン様はいつからあの状態なんだろう。

 暗いダンジョンの最下層でずーっとずーっと独りで……


「お待たせしました」


 シルバリオ様がでっかいトランク? スーツケース? を持って戻ってきた。二人の着替えが入ってるのかな? というか、変身するときに服どうなってるんだろう。ロゼ様もそうだよね……

 と、腕輪が光り、羊皮紙が届く。ディオラさんからの返信だろう。


「準備が整ったようです。リュケリオンのロゼお姉様の部屋が転送先ですけど良いですか?」


「ええ、いいわよ」


 よし。じゃ、頑張って転移しましょうか。目標はディオラさんの腕輪。ロゼお姉様の部屋に置かれているはず。

 ルルはいつも通り私の腕を抱き、ディーは反対側に立つ。クロスケも定位置の足元に。

 ルナリア様、シルバリオ様は私のすぐ前に立ってくれた。さっきもそうだけど、転移の仕組みのことを完全に把握してるんだろう。


「では、行きます」


《起動》《転移:ディオラさん》

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