第177話 固定観念は身を滅ぼす
「私は彼を運ぶが、そのワイバーンはどうする?」
ケイさんが意識を失った
ワイバーンを解体してる暇はないんだけど、かといって放っていくのもちょっとね。正直、もったいないって気がしててうーん……
「もう息絶えているなら、ミシャが運べたりしないのか?」
「あ、ああ、そっか。ちょっと試すから荷物はルル、お願いね」
「オッケー!」
《起動》《無重力》
っと、風に飛ばされる!
慌てて翼の端を持ってみたが、どうやらワイバーンが持ってた魔素は消えてしまってる感じ。これなら私でも運べるかな。
「風の精霊よ」
「ありがとね、ディー」
「これくらいはしないとな」
ディーのおかげで山風に煽られることもなくなった感じ。
ルルはみんなの分の荷物を抱えながらニコニコ顔。
「ふっふー、これでクラリティさんにワイバーンの皮を持って帰れるね」
そいやそうだった。そもそも例の
「さあ、急ぐぞ」
「はい」
道もなだらかだし、
ケイさんが早足で歩き始め、私たちも慌てて後を追いかけた。
***
「ヴァウ!」
クロスケが急に空に向かって吠えると、その先から……ちょっ!
《起動》《魔法障壁》
私が張った魔法障壁に弾かれた槍が地面に落ちる。
ルルは
「何者だ!」
かなり怒気のこもったケイさんの声が響き、槍を放ったと思われる
さらにその後ろにもさらに数人の
「我らが同胞を傷つけた者よ。容赦はせんぞ!」
「はあ?」
思わず間抜けな返事をしてしまう。どこをどう見たらそういう考えになるのか問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。
「我々はワイバーンに追われていたこの男を助けただけだ。何を証拠にそんなことを言う」
「その翼の色。お前は北壁の愚か者の里の出だろう。それだけで十分だ!」
え、なにそれ……
あ、だめだこれ。本気でキレそう。
私だけでなくルルやディーもヤバい。
と、その時、
「何事だ!」
大きな声とともに突風が吹き、私は慌ててワイバーンの無重力を切った。ケイさんもたまらず膝をついて怪我人を地面へと降ろす。
激しい砂埃が舞い上がって思わず目を覆いたくなるが、状況がやばいので皆を覆う箱型の魔法障壁を作ってそれを防ぐ。
しばらくして土煙が収まった後に現れたのは……大きな銀竜だった。
「シルバリオ様。貴殿に会うためにこの地まで来、途中でワイバーンに襲われていたこの者を助けました。だが、この里の者たちはそれも理解できないようです」
ケイさんの冷静さが余計に怖い。
「ふむ。その後ろのワイバーンか」
「はい」
銀竜の目がこちらを睨む。
すごい迫力というか威圧力なんだけど、不思議と怖くはない。
「その肩に担いでいる者は無事か?」
「ええ、腕を爪で切られていたようですが、ポーションをかけて塞いであります。出血で意識を失っているだけなので、早く安静にしたほうがいいでしょう」
「ふむ」
銀竜はそれを聞いて振り向くと、
「どういうことだ?」
こわ! こっわっ! さっきと全然違うんだけど!?
「こ、この
「だからなんだというのだ? 貴様らは同胞が助けられた礼も言えぬばかりか、確認もせずに武力に訴えたのか!」
その怒りをはらんだ声に、向こうの
「さて、改めてお礼を。それにいつぞやはお世話になりました」
そう優しい声とともに銀竜が変化し、あの時に銀竜貨をくれたロマンスグレーのイケオジとなった。というか口調まで変わるの?
で、いつぞやって私のことだよね? 馬車の車軸に石がはまってたの取ってあげたやつ。
「あ、いえいえ。今日はちょっとお伝えしたいことがあってお伺いさせてもらいました」
「なるほど。では、城へとご案内しましょう」
そう言ってニッコリ。
「君たち。さっきも言ったがこの男は無事だ。だが、血を失ったのでしばらくは養生させるといい」
ケイさんもだいぶ溜飲が下がったのか、いつもの声色に戻っている。
まあ、怪我してる彼は悪いことなんもしてないしね。
「ミシャ、このワイバーンどうするの?」
「あ、うん、そうね。仕事優先だからもう置いて行こうか」
「彼らにやらせておきましょう。魔石と爪、牙、皮あたりは持ち帰ると良いかと」
そう言って腰が抜けた連中を見る銀竜様。まあ、やれよって感じ。断れない圧のあるやつ。
「じゃ、お手数ですがお願いしますね」
「ちゃんとやっといてね」
「だな」
「ワフワフ」
まあもう皆も怒りは醒めたというか、怒るに値しない感じ。
銀竜様との話が進めばここに来ることもないだろうし、もうどうでもいいや。
***
「すみませんな。この里の者らは目的と手段を取り違えている節があって」
銀竜様について
ケイさんの里が竜の庇護を断って四散したことが疎まれてるの?
なんだろうね。
「いえ、私も若くに里を出ていなければそうなっていたかもしれません」
「森の賢者のおかげですか」
「まあ、それもありますが……」
と言葉を濁すケイさん。
まあ、ケイさんを決定的に変えたのはヨーコさんなんだろうなと思う。もちろん、ロゼお姉様に拾われてなければ、それもなかったわけだけど。
里を縦断した先にあったのは、ノティアの南のダンジョン入口に似た……洞穴? まあ、竜の姿でここを通ることはないよね。さっきも上からだったし。
「うわ、明るくなった!」
私たちが足を踏み入れると、真っ暗だった内部が明るく照らされる。天井が光るタイプのこれは……魔導具かな? さっきスイッチを押してたような気もする。
「奥に転送陣がありますので」
やっぱりこれもダンジョンの一部なのかな。すっごい気になるけど、今はそういうタイミングじゃないんだよね。残念。
五分も歩くとテニスコート半面ぐらいの部屋に到着。中央には転送陣が描かれていて……これは設置されてるやつかな。フォントっぽいし。
「それでは移動しますよ」
その声にルルが私の腕を抱く。まだスレーデンの時のトラウマがあるんだろうか。私もあれは二度とごめんだけど。
そういや、銀竜様を連れて行くことになったら、またあそこに行くことになるんだった……
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