第176話 脅威と脆弱性とリスク

「よし、行くぞ」


「「「「おー!(ワフッ!)」」」」


 と鬨の声をあげたは良いけど……これは大変そうだなーって斜度の山ですね。

 とはいえ、獣人さんたちが白竜姫様に会いに行くことがあるのか、人一人分の道がつづら折りに続いている。

 うん、これはヤバい。


「はーい、私はズルします!」


「えー!」


 私が長杖ロッドを掲げて『飛ぶ』ことを宣言すると、ルルが抗議の声を上げる。

 どう考えても足手まといコースに違いない。飛んでついていく方がルルやディーもペースを落とさなくて済むだろうし。


「そうだな。ミシャ、ルルとディアナの荷物も持ってやれるか?」


「あ、そうですね。バックパックは私が運ぶよー」


「今回は仕事だからな。早く行ける方を選択すべきだ」


 ディーがむくれてるルルのバックパックも回収して渡してくれる。

 自分の分もまとめて長杖ロッドに通し、さっさと無重力をかけて浮き上がった。


「はいはい、行きましょー」


「もー、今回だけだよ?」


 ぷりぷりしつつも先行したケイさんの後を追うルル。

 私がその後ろに続き、ディー、クロスケの順で山道を登って行く。


 しばらくは雑草や草木が生い茂る山道だったが、小一時間も登ると周りも高山植物っぽい感じになってきた。

 ケイさんの話だと、翼人よくじん族は中腹にある平らなところに住んでいるらしい。で、そこまでおよそ鐘三つは掛かるそうだ。


「少し休憩しよう」


 鐘二つほど進んだところの曲がり角で、そう声をかけてくれるケイさん。

 ルルもディーも私という足手まといが無いせいかペースが早くて大変そう……


「ミシャ、冷たいお茶〜」


「すまん、私にも……」


 はいはい、お安い御用ですよー。

 無重力状態のバックパックからコップを二つ取り出して、すいーっと二人に送る。


「ケイさんもどうです?」


「ああ、いただこう」


 というわけでもう一つ。

 飛んで行ったコップはキャッチされると魔素が対消滅して重力を取り戻す。

 それを確認して、魔法でお茶を入れてから冷却して注ぐ。


「ミシャの魔法はいつ見ても見事だな……」


 ケイさんが少し呆れたように呟く。

 魔素のコントロールはエイミー嬢に説明したみたいに、プリミティブとかポリゴンで考えれば楽なんだけどね。

 ディオラさんも今はもうこれくらいできると思うし、この方法が一般的になれば、魔術士の価値もまた上がるのかな。


「んー、美味しい!」


「ワフワフ!」


「っと、クロスケもね。ちょっと待って」


 クロスケ用の平皿を出してすいーっと飛ばすと……フリスビードッグ? フリスビーウルフかな?

 ジャンプキャッチしたクロスケがそれを地面に置いたのを見て、適度に冷やしたお茶を入れてあげる。


「もう鐘二つ分進んだあたりが翼人よくじん族の里だ。その先に白竜姫様の居城へと続くダンジョンがある」


「了解です」


 聞いてはいたけど、居城とダンジョンかー……ドラゴンらしいというか。

 テイルゲート側の入り口がダンジョンになっていて、転移魔法陣で居城の近くまで行けるらしい。

 裏口側にあたるそうで、ヘッドゲート側からはちゃんと城までの道があるとのこと……見たい。


「ワフッ!」


「うん、行こうか」


 カップを回収し、清浄をかけてバックパックにしまう。

 みんなしっかり休憩できたかな?

 さてさて、翼人よくじん族の里はどんなところだろ。穏便に休憩させてもらえると良いんだけど……


***


「もうそろそろ見えてくるはずだ。頑張れ」


「う、うん、大丈夫!」


 ルルの返事は空元気成分が高め。肩で息してるし。

 ディーは……頷くので精一杯って感じかな?

 ケイさんが平気そうなのは鍛えてるから? 飛んでても良さそうだけど、ちゃんと歩いてるっぽいし、持久力に優れてる感じなのかな。


「ワフワフッ!」


「え、クロスケ?」


「何かあるようだ。見てくるからペースはそのままで追って来てくれ」


 ケイさんがそう言い残して飛んでいく。


「ミシャ、行こう!」


「うん。でも、ついた先で息切れしてたら意味ないから、ちゃんとペース守ってね?」


 とは言ったものの、ルルもディーもほぼ駆け足みたいな状態で進む。

 まあ、しょうがないんだけど……


「あ、あれ!」


「あれは……ワイバーンか?」


 進んだ先でケイさんが戦っていた。空中戦。

 で、怪我をしてるっぽい翼人よくじん族の男性が膝をついてうずくまっている。


「ミシャ、ポーション!」


「わかった!」


 無重力を解くと荷物が乱暴に地面へと落ちるがしょうがない。

 サイドポーチからポーションを取り出して、その男性の元へと駆け寄る。


「大丈夫ですか? ポーションかけます」


「す、すまぬ」


 二の腕にざっくりと爪痕があるのが痛々しいが、ポーションをかけると綺麗に塞がっていく。

 けど、出血した分の血は戻らないからか顔色が悪い。少なくとも、すぐに戦線復帰は出来なさそう。


「うう、手が出せない〜」


 ルルは戦槌ウォーハンマー円盾ラウンドシールドを構えているものの、戦いが空で行われているのでどうしようもない。

 ディーも弓を手にしてはいるが、ケイさんに当たったら洒落にならないしって感じ。

 私は参戦できるんだけど、ケイさんの号令が来ないことには動きづらい。


「ミシャ! やつを落とせるか!?」


 白銀の槍でワイバーンのヒットアンドアウェイをいなし続けるケイさんから声がかかる。

 クラリティさんからワイバーンの話を聞いた時、出会った際にどうするかは考え済み。


「落とせます! 合図したら行きます!」


「頼む!」


 一応、ベルグでまったりしてる時に試して上手く行くことは確認済み。本番でも上手くいくと良いんだけど……というか、効き目があるって信じてる。


 旋回したワイバーンが再びケイさんに向かってくる。

 私が狙う先はケイさんの頭上十メートルほどのところ。


「みんな、少し下を見てて! ……撃ちます!」


《起動》《閃光》


 閃光粉——硝酸カリウムと粉末マグネシウム——を燃やすという原始的なフラッシュ。

 一応、黒い魔素膜をボウル状の遮光板にし、ワイバーン以外には直接見えないように対策済み。

 ボンという音と共に、真っ白な眩い光が数瞬……


「グギャアアァ!」


 その閃光に驚き、視力を奪われたワイバーンが墜落して悲鳴を上げる。


「ルル!」


「任せて!」


 まな板の鯉ならぬ、地に落ちたワイバーン。頭をガツンと一発殴って終わりでした。

 さようならワイバーン。君は多分、この世界で初めて閃光弾を食らったワイバーンだと思うよ。


「よくやった。ミシャ、ルル」


「ミシャ。今のはいったい……。光の精霊ではないようだが」


 うん、ただの化学反応です。

 光を指定方向に強烈に照射できれば良いんだけど、それを魔法で実現できなかったんだよね。


「説明は後でね。それより……」


 翼人よくじんの男性はホッとしたのか意識を失った模様。とりあえず里まで運びましょ。

 私たちも休憩できると良いんだけど……

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