第175話 枯れた方法が良いとは限らない

 獣人の人たちの村?を歩いていると、通り過ぎる人たちが皆クロスケを見て驚いている。

 まあ、エルフみたいに土下座して拝まないだけマシだと思おう、うん……


「クロスケすごいね!」


「ワフッ!」


 心なしか金毛もいつもより輝いてる気がする。いや、気のせい、気のせい……


 細いけど石畳の道を進んでいく先は、この獣人族の集落の族長宅らしい。

 ケイさんの予定では、族長から空き家を借りて一泊し、明日は早朝から南東に進んで登山の予定。かなり高い山を頂上まで。

 結構ハードなスケジュールになりそうだし、今日は早めにご飯食べてぐっすり寝て起きたいところだけど……


「ここだ。私が話すので後ろにいてくれればいい」


「わかりました」


 交渉ごとは基本ケイさんにお任せ。なんかあったら私がフォローって話だけど、多分フォローすることもないはず。

 結構大きな平家が見えてきて、多分族長の家なんだろう。門……というか生垣の間をズンズンと進んでいくケイさん。

 玄関前にいた使用人? 兎の人がビクッとしてこっちを向き……


「ひ、ひえっ!」


「急にすまない。族長に話がある」


「ワフ」


 クロスケを見た瞬間に耳がピーンっとなった。アニメみたい。

 そしてまたアニメのように、


「少々お待ちください!」


 ピューんと家の中へと消えていった。

 しばらくすると、ドタドタと足音がして現れたのは、


「おおお、神獣様じゃ!」


 すごい。真っ白な毛並みの狼人のお爺ちゃん? 歳がイマイチわからないけど、喋り方からしてそうなんだと思う。


「ワフ」


「は、ははっ!」


 クロスケに深々と頭を下げる族長さん。なんだこれ……(n度目


「ふむ。すまないが空き家を一つ借りられるだろうか。我々はシルバリオ様に会うために来た。明日にも白竜山に登るつもりだ」


「そ、それなら是非、この屋敷に!」


「いや、歓待は不要だ。急ぎの用なのでな」


 その言葉に露骨にしょんぼりする族長。犬耳がぺたーってなるのがかわいい……


「ワフワフ」


「あ、ありがとうございます!」


 なんだかクロスケと族長で話が通じてるんだけど……エルフも通じてた気がするなーってディーの方を見てみたら、


「ん。落ち着いたらまた来るというような感じだな」


 さいですか。まあいいけどね。歓迎してくれそうだし。

 さっきの兎人さんが呼ばれて、族長の指示を聞いている。明日登る白竜山に近いところにある空き家を紹介してくれるようだ。


「かたじけない。礼はいずれまた」


「はっ、お気になさらず」


「ワフワフ」


「おおお……」


 クロスケが族長さんの膝に頭をすりつけると、族長さんが思わず跪く。

 うん、もう、あまり気にしないことにしよう……


***


 空き家は本当に質素な一軒家だった。

 兎人さんは西側なら大きくて良い家がと言ってくれたが、一泊するだけなのでゆっくりと横になれるスペースがあれば良いのでと遠慮した。

 その代わりというか、毛布を人数分借りれたのはすごく助かった。板間に寝るのは体痛くなりそうだし。まあ、その時はディーに草のベッドを作ってもらう予定だったけどね。


「ふむ。やはりルルたちの作るスープは美味だな」


「美味しいよね!」


 はい。エルフの里のグレイディアのスープです。フリーズドライをお湯で戻しただけです。

 あとは同じくグレイディアの干し肉と堅パン。どっちも固いのでスープにつけて柔らかくしつついただく。

 野菜分が足りない気がするけど、今日はまあしょうがないかな。さっさと依頼を終わらせて、ちゃんとした食生活に戻さないと。

 食後のお茶はいつもの魔法で淹れ、ほっと一息。久しぶりに緊張感がある一日だった……かな?


「さて、寝る前に明日のことを詳しく話しておこう」


 ざっくりと白竜山を一日で登ることは聞いていた。

 さすがに途中で休憩を挟むだろうと思ってたんだけど、ケイさんの話だと翼人よくじん族の集落があるらしく、そこで休憩する予定らしい。

 またケイさんが飛んでいってから転移すればいいのでは? と思ったんだけど、その翼人よくじん族の集落のテリトリーなので飛ばないほうが良いんだとか。制空権?


「そこって、ケイさんの故郷なの?」


「いや、私の故郷の里は人が減って他の里に吸収されたと聞く」


 さらっと重いことをいうケイさん。


「理由を聞いて良いだろうか?」


「ああ。私がいた里はプライドが異様に高くてな。竜族の庇護下に入ることを良しとしなかった。結果、ワイバーンの被害が大きくなって四散したらしい」


 何それって顔を思わずしてしまう。ルルもディーもそんな顔。

 まあ、ケイさんはロゼお姉様に拾われて正解だったってことかな。


「明日行く里は大丈夫なの?」


「どうだろうな。白竜山にいるということは、白竜姫様の庇護下に入っているのだろう。妙なプライドなど無いと思いたいがな」


 苦笑するケイさん。

 ついでというか、この竜の都と呼ばれる国について聞いてみた。ここ以外にも街っぽいものがあるのかとか。


 まず、今いる西のテイルゲートとその付近で住むのが獣人族。豪雪地帯という話だけど、毛皮があるから平気なのかな?


 反対側、東にはヘッドゲートという大門があり、その付近には竜人族が住んでいて、立派な街もあるらしい。竜人族ってドラゴニュート? リザードマンはトカゲだよね?


 で、中央には誰も住んでいない古代魔法都市がそのまま残っているらしい。何それ、見たい! けど、白竜姫様の許可がないと絶対に許されないそうだ。ぐぬぬ。


 あと、南というかウォルーストとの間に挟まる山脈——白竜山脈——に竜族と翼人よくじん族が住んでいるとのこと。


「お隣さんなのに頼らなかったってこと?」


「そうだな。今思い返しても、なぜ長老たちが竜族の庇護下に入らなかったのか、全く理解できない」


「わけわかんないよ。竜の方がずっと強いじゃん」


「まあまあ。お年寄りになると、物事が正しく見れなくなるようになったりするんだよ」


 世の中が変わったことに対して、自分の意識をアップデートし続けられる人だと良いけど、そうじゃない人だとちょっとね。

 飛び込みで営業しろとか、そりゃ昔はアリだったかもしれないけど、今どきアポなし営業なんて出禁くらうだけでしょ、とか。


「ミシャのいう話とは少し違うかもしれないが、エルフの里も近い気はするな。うちの里長は理解がある方だとは思うが……」


「えー、そうかなー? 良い人だったと思うけど……」


 とルル。確かに理解がある方だとは思うけど、だからと言って、


「大きな変化を嫌うっていう意味では確かにそうかもね。あの長とか息子たちだって、ベルグの庇護下に入れって言われたら、かなり悩むと思うよ?」


「う、ううーん……」


 私が微妙な例えを出したせいでルルが唸り始めてしまった。

 でも、例えばあのウルクが常に出没するようになったら、あの里長ならベルグの庇護下に入って、里を移すことを考えると思う。息子たちも。


「いずれにしても明日だ。翼人よくじん族の里で休憩が取れないようなら、その先に進んでから休めば良いだけだ」


 ケイさんのシンプルな答えに、みんなが納得してその日は就寝となった。

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