スレーデン遺跡再び

安全性と利便性

第174話 アクセス権はほぼフルコン

 浮遊感が抜けて地面へと降り立つと、そこは細い街道を少し横にずれたところっぽい。

 正面には満足そうなケイさんが立っていて、無事、テイルゲートの手前へと到着したんだろうと思いホッとする。


「うむ。皆、問題は無さそうだな」


 ケイさんを信用してるとはいえ、知らない場所に転移するのは緊張する。転移のした先で何があるかわからないあたりが特に。


「ワフッ」


 クロスケが本来の姿へと戻り、私の足をすりすりしてくれる。かしこかわいいし、気遣いもできる。完璧。


「ケイ殿、これを」


 ディーがケイさんの腕輪を拾って渡した。こちらも優秀だ。今のところは。

 ルルはキョロキョロとあちこちを見回してるけど……


「どうしたの?」


「ううん、あんまり変わらないなーって」


「今の時期はまだな。後二月もすれば一面雪で真っ白になるだろう」


 ケイさんが腕輪を付け直しながらそんなことを話してくれる。

 ふーむ、私の前世の田舎は雪が積もるようなところじゃなかったから、ちょっと見てみたいかも。


「さて、行こう。しばらく歩けばテイルゲートの大門に着く」


「オッケー!」


 大門かー。ゲーティアの国境門みたいな感じなのかな?

 期待と不安が半々って感じで、私たちは街道を歩き始めた……


***


「あれが大門の入り口だ」


 街道を道なりに十五分ほど歩いたところで……あれが?


「なんか、ちょっと大きな洞窟?」


 ルルの言うとおり、岩肌に馬車一台がギリギリ通るぐらいの穴がポッカリと空いてるだけ。

 これが大門って言われると……違う気がするんだけど。


「まあ、こちら側が質素なだけだ。進もう」


 ケイさんがそう言って先へと進む。

 こっち側だけ質素ってことは反対側はすごいのかな。ともかく、入ってからだよね。


「ワフッ!」


 クロスケに急かされて穴へと入ると、天井がうっすらと光った。

 え、これって……


「これってダンジョンなんですか?」


「うむ。気付いたか」


「このようなダンジョンもあるのだな……」


 ディーが不思議そうに天井を見上げている。

 ドワーフの鉱山ダンジョンの天井はトンネルそっくりの明かりだったけど、こっちは全体に苔が光っていてかなり明るい。


「この先で入国審査がある」


 ケイさんの声が真剣な感じになった。道の先が開けていて部屋になってるっぽい。

 前もって注意されていたのが「嘘をつかない」こと。獣人は嘘に敏感だそうで、嘘を言うぐらいなら黙っておけばいいと言われた。

 受け答えは基本的にケイさんがやってくれるって話になってるけど……


「すまない。入国審査をお願いしたい」


 入った部屋は今までの道の三倍以上はあって、その広さのまま先へと続いているっぽい。

 その左手には受付のような小部屋があるけど……誰もいない?


「んー、なんだぁ?」


 その声とともに、窓口に現れたのは……狐人? おおおおお!?

 獣人族って聞いて、普通に人+ケモ耳系かと思ってたけど、ケモ顔系でしたか! この世界GJ!

 いいよね……犬○ームズ……


「入国審査を頼みたい」


「ちっ、めんどくせえ……。で、お前さんが翼人よくじんなのはいいが、エルフにドワーフに人だと? 何のようだ?」


 めっちゃやる気のない狐人さんが薄目で私たちを一瞥する。

 ケイさんは真剣、ルルはニコニコ、ディーはガチガチ、私は……普通?


「シルバリオ様に会いに来た」


「……本気のようだな。会えると思ってんのか?」


 その問いかけにケイさんが私を見る。あれを出せってことっぽいので、サイドポーチから銀竜貨を取り出して見せる。


「ちっ、しょうがねえ。ギルドカード出せや」


 ふう、どうやら通してくれるっぽい。招かれざる客ってのはどうも苦手……

 システマチックに拒否してくれる方が気が楽なんだけど。


「ワフッ!!」


「うおっ! なんだ!?」


 クロスケが怒ったのか急に大声で吠え、狐人さんが飛び上がってクロスケを見つけると……


「ひっ! し、神獣様!?」


「ワフ」


「は、はいっ! 今すぐ! ギ、ギルドカードをお願いします!」


 狐人さんが急に姿勢を正して敬語を使い始める。えええー……

 隣を見るとやっぱりというかディーがうんうん頷いてるし。

 まあ、クロスケもわざとやってるっぽいし、ここは私も当然って顔をしときましょ。


「よろしく!」


 ルルが私たちのギルドカードを集めて狐人さんに渡す。

 ああ、例のギルドカード読み取り装置はこっちでも使ってるんだ。


「確認しました。ど、どうぞ、お通りください」


「ワフ」


 クロスケが「ご苦労」って感じでスタスタと先行し、私たちは従者の如く付き従う。

 うん、獣人族の土地ではこのスタイルの方が楽な気がしてきた。


「ふう、どうなることかと思ったけど、クロスケありがとね」


 私たち、というかクロスケを見送ってた狐人さんが見えなくなったところで、私はクロスケの頭をなでなでしておく。


「ワフ〜」


 通路は先ほどの部屋の広さのまま先へと続いているが、明るさは増し、その先には……どうやら外が見えてきたみたい。


「一応、衛兵が立っているはずだ。クロスケを見ると驚くだろうが、気にしなくていい」


「オッケー」


 さっきの狐人さんの反応からして、エルフの里並みに崇められてるんだろうなとは思う。

 でも、土下座はしなかったよね。土下座はエルフの慣習みたいなものなの?


 どうでもいいことを考えているうちに出口が見えてきた。かなり広く、その先の道も石畳で舗装されているのが見える。

 さてさて、どんな風景なのかな?


「おおー! すごいね!」


 出口は少し小高い丘にあったようで、眼下には畑が広がっている。種まきをしてるのは大麦とかなのかな?

 ちらほらと見える家は木とレンガでできているようで、二階建てとかはない感じ。普通に広い農村って風景。


「し、神獣様!?」


 後ろから声が掛かって振り向くと、狼人?犬人?の衛兵さんが二人あわあわしてる。

 というか、それよりも……


「うわ! すごっ!」


 出口だった場所の周りにはゲーティアで見たような装飾が入った飾り柱が据え付けられている。

 そして、それ以上に驚きなのが、同じような門が左右にもう一つずつあること。計三つの門が並んでる姿が圧倒的。

 左右の門の奥を覗くと『シャッター』で閉まっていた。

 私たちが潜った門も多分そうなんだろうと思うけど、やっぱりここはゲーティアと同じ輸送施設っぽい。となると、どこに転送先があるんだろ?

 いやいや、今それは関係ないし。まずは依頼を優先しなきゃだよね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る