第172話 与えられた役割を着実に
「じゃ、今からボクたちが協力しに行けばいいの?」
新しい鎧を早く試したいだけでしょ、ルル……
というか、
「それだったら、私たちがリュケリオンに行けば良かったはずだし、何か別のことを?」
「ああ、それについて話そう」
ケイさんたちがスレーデンの遺跡から撤退したのは、多分、私たちがコーマの洞窟でダム見学してた頃だと思う。それから二週間は経っているので、その間はケイさんたちで頑張ったんだろう。
瘴気ということはアンデッド。アンデッドには神聖魔法。神聖魔法なら神官戦士ということで、教会の神官を総動員してアンデッドをじわじわと浄化していくことになったらしい。
危険度が高いこともあって、ロゼお姉様も同行したんだとか。
「そして、この間ついに第十階層、最深部に到達した」
「え、あそこって……」
「ああ、ミシャがフェリア様と飛ばされた場所だったそうだな」
あそこには洒落にならない相手、ドラゴンゾンビがいたと思うんだけど……
「二人が見たであろうドラゴンゾンビだが……まだ理性が残っていた」
「なんと……」
ディーが思わずそう溢す。
私とフェリア様、クロスケが強制的に転移させられた時も妙に大人しかったけど、あれは理性で堪えていたんだろうか。
「ロゼ様がそれを察し対話を試みた。なんとか戦闘を回避できないかと」
「そ、それで?」
ルルの問いかけにケイさんは目を瞑って首を振った。
でも、何か一縷の望みがあって、私たちのところまで来たんだよね?
「ロゼ様からミシャに依頼だ。竜の都で白竜姫ルナリア様、銀竜シルバリオ様に会って、転移でリュケリオンに連れてきて欲しいと。彼の竜の古き友人らしい」
「それは……」
「ああ、可能なら友と会ってから逝きたいそうだ。未練が無くなれば浄化も抵抗なく終わるだろう」
そっか、そうだよね……
「そのルナリア殿とシルバリオ殿は竜の都で探せば会えるのだろうか?」
「ああ、そこで最初の話に繋がる。竜の都から療養に来ていたのは白竜姫ルナリア様、その従者が銀竜シルバリオ様だ」
あのロマンスグレーのイケオジ! 出会ってた! でも、すごい入れ違い!
「え、じゃあ、そのルナリア様とシルバリオ様が竜の都に帰ったのって」
「おそらく地震の崩落でウルクが通った穴が空いた時に察知したのだろう。かつての緋竜カーネリアン様の気配を」
行方不明だったんだよね。ずっと長い間……
それでやっと気配を感知したと思ったら……
「ミシャ、行こうよ」
「ああ、私も賛成だ」
「ワフワフッ!」
私の返事は決まってる。
「行くよ。竜の都へ!」
「「「おお!(ワフッ!)」」」
………?
「おい。ミシャの嬢ちゃん。竜貨のこと忘れとるぞ」
「あっ!」
鬨の声を上げた後に、なんとも間抜けなツッコミをされた。
うん、忘れてました……
「ミシャ。竜貨を持っているのか?」
「あ、はい。えーっとですね……」
ラシャードからウォルーストに向かう途中、馬車のトラブルを解決して上げた相手からもらった竜貨を取り出し、その時のことを話す。というか、まず間違いなくシルバリオ様だよね。
「というわけでして、多分、馬車に乗ってたのが白竜姫ルナリア様なのかな、と」
それを聞いたケイさんは思わずため息をついてこう言った。
「君はヨーコが言っていた『持っている者』なのだな」
「えええー……、どっちかっていうと、持ってない方だと思うんですけど」
前世でも宝くじとか当たったことないし! ソシャゲのガチャなんかは全然当たらないから沼に落ちなくて済んだけどね。
「ボクを最初にゲットしたんだから持ってる方だと思うよ?」
「う、まあ、それは否定できない」
ロゼお姉様に拾われたのは幸運だったけど、ほっぽり出されたからプラマイゼロ?
マルリーさんの白銀の盾にお世話になって、いきなりルルっていうSSRを引いた感じなのかな。
ギュッとしがみついてくるルルをなでなでしながら、そんなことを考える。
「あっ、あの、ミシャ先生! 私も同行できませんか?」
「えっ? あー、うーん、うーん……」
さすがにちょっと無理かな。連れて行ってあげたい気もするけど、竜の都って人間もエルフもドワーフもいないんだよね?
チラッとケイさんに目をやると、首を横に振られた。
「ごめん。安全を確保できないから無理かな。その代わり、今ここで話したことを領主様、お父さんに伝えてもらえる?」
「はい……」
うう、しゅんとされると心が痛い。でも、ケイさんが無理っていうからには危険も伴うんだろうと思うし。
「エイミー嬢。すまないが、これをアミエラ子爵に渡してもらえるか」
ケイさんがそう言ってくるっと巻かれた羊皮紙を取り出した。
「これは?」
「ロゼ様から諸々の説明と詫びが書かれている。子爵から王家にお伝え願いたい」
そうだろうと思ってたけど、ロゼお姉様はウォルーストの王家とも繋がりがあるのか。おそらくラシャードとも。
まあ、そうでもなければ、竜の姫様?を療養とはいえ他国に出したりしないよね……
「わ、わかりました! 責任を持って父上にお伝えいたします!」
それの重要性を即座に理解したエイミー嬢が起立し、胸に手を当ててそう告げる。そういう礼儀作法でもあるのかな。覚えとこ……
「それで出発はいつに?」
「明日の早朝でお願いしたい。私も少し疲れが……」
そりゃそうだよね。今朝からずっと飛んできたわけだし。
「わかった。長への説明は俺からやっとこう」
ローラッドさんはそう言って屋敷を後にした。
残された私たちは、明日以降の予定を確認する。
「竜の都までは歩きだと四日かかる。が……」
「うちの馬車を使われますか?」
「いや、それはエイミー嬢が乗って帰るべきだし、別のもっと早く着く方法がある。ミシャ、大穴を塞いだときの方法を頼めるか?」
あ、あー……ケイさんが飛んで先行して、そこまで転移ってことですね。わかります。
魔法での転移のこと……エイミー嬢にはバレてもいいか。現状だと私以外に使えそうな人いないしね。
「わかりました。これ、ケイさんに渡そうと思って用意していたので」
マルリーさん、サーラさん、ディオラさんには既に同じものを渡してある。腕時計になってる腕輪——空間測位機能付き——をケイさんにも渡す。
「ああ、ありがたい。これでディオラ経由で連絡も取りやすくなるな」
ケイさんが腕に巻いたのを確認し、動作テストをちゃんと行っておく。
腰から抜いた
《起動》《転送:ケイさん》
スッと消えた
そして、それをキラキラした目で見つめるエイミー嬢。明日の出発まで時間あるし、ちゃんと説明するよ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます