第171話 放置してたツケが回ってきた

 翌日の昼の三の鐘の頃。私たちはこの自治区の入り口で空を見上げていた。

 申し訳ないけど、長代理のローラッドさんにも来てもらっている。


「すいません。関係のない話に巻き込んでしまって」


「ははっ、気にすんな! 俺は親父と違って、ここに篭りきりだからな。たまに刺激があった方が楽しいってもんよ!」


 ガハハと笑ってそう言ってくれる。ルルも気にしすぎだよとかどうとか、うん、小心者なので。


「む、あれではないか?」


 目が良いのはルルだと思うけど、ディーが気付いたのは風の精霊のおかげ?

 指差した方向から豆粒のように見えていたものがどんどんと人型に見え始め……


「ケイさんだ!」


 ルルがわーっと両手を上げると、ケイさんが羽を大きく広げて減速姿勢をとり、スーッと下降して着地した。何それ、かっこよすぎなんですけど……


「皆、すまない。急な話で」


「いえ、それはいいんですけど。っと、先に紹介しておきますね。ここの長代理でルルの親戚でもあるローラッドさんと、アミエラ領の領主様の娘さんでエイミー嬢です」


 まずは責任者に挨拶。これ大事。

 面通ししておけば不審がられることもないからね。


「ローラッドだ。よろしくな!」


「エイミー=アミエラです。ウォルケルでお噂は聞いたことがあります」


「ケイです。見ての通り翼人よくじんですが、今はラシャードで白銀の槍というギルドのギルドマスターをしています。エイミー嬢の言う通り、ラシャードからウォルーストへ伝令のようなこともしています」


 それぞれと握手するケイさん。伝令のことは私たちには話してくれてなかったけど、まあ政治が絡みそうなことだったから、あえて言わなかった感じかな。


「さあ、立ち話もなんですし、屋敷の方へ」


「だね」


「ありがとう」


 さてさて、ケイさんの持ってきた話とは一体……


***


「朝からずーっと飛んできたの!?」


「うむ」


 リュケリオンで朝食を取った後、すぐに出立したらしい。で、昼の三の鐘まで飛び続けたと。

 陸路で来るとしたら、リュケリオンから一旦東にテランヌへ入り、北上した後に西へ進んでウォルケルへ。そしてまた北上……

 一週間以上は掛かる行程を一日で来たってことだよね。


「さて、さっそくだが要件を話して良いだろうか?」


「うん、オッケー!」


「お二人にも聞いておいていただきたい。ただ、あまり口外はしないで欲しい」


 ケイさんがそう告げると、ローラッドさんとエイミー嬢が頷いた。

 ふーむ、他言無用ってほどでもないのかな。まあ、ともかく話を聞こう。


「では、まず私がラシャードからウォルーストに伝えに来た内容から話そう……」


 ………

 ……

 …


 ケイさんがラシャードからウォルーストに飛んできた理由。それは『重要な人物』が療養に訪れていたラシャードを離れることをウォルーストに伝えるためらしい。

 元々、ウォルーストで療養の予定だったが、とある理由でラシャードまで来ていたとのこと。


「とある理由って?」


 ルルの素朴な質問がケイさんを襲う! うん、まあ、気になるよね。


「希少な薬を作れる薬師がラシャード、王都ラシーンの近くに住んでいた」


 ケイさんの視線が私を見た。あ、ああ……ロゼお姉様が薬を作ってた? そういや、最初にノティアの森で保護された時にそんなことを言ってたような。


「えーっと、ロゼお姉様ですか?」


「ああ、その通りだ。ミシャには話していたのだな」


「はい。ノティアで会った時にそんなことを言ってました」


 エイミー嬢から怒涛の質問責めでも始まるかなと思ってチラ見したけど、育ちの良さから来る理性によって自重している模様。えらい。


「うーん、ロゼお姉様がリュケリオンから戻らないから、帰るってことになったんです?」


「いや、処方自体は終わっていて、しばらく暖かい場所で療養を続けていたと聞いている」


 確かにラシャードは温暖なとこだし過ごしやすいのかな。リーシェンには温泉もあったし。


「じゃ、その方は快気したのでウォルーストに戻られたってことですか」


「いや、違う。戻るのは来年の春の予定だった。そして、ウォルーストではなく竜の都に戻られた」


「「「「ええっ!」」」」


 私たちだけでなく、エイミー嬢まで一緒になって驚く。

 ローラッドさんは真剣そうな顔で腕を組んだ姿勢のままじっとしていて、歳の差というか貫禄があるなあと。

 ん? 竜の都……私に竜貨を渡したロマンスグレーのイケオジって!


「待て待て、嬢ちゃん。先に話を全部聞いた方がいい」


「あ、はっ、はい」


 ローラッドさんが既に気付いているようだけど、まずはケイさんの話を最後まで聞くべきだよね。


「私はウォルケルに伝えた翌日にはラシーンに帰ってきた。だが、ロゼ様にも伝えておくべきだろうと考えて屋敷の方へ向かった」


「今、あそこのお屋敷にはいないよね?」


「ああ、だが、シルキーに頼める」


 なるほどー。あそこにいるシルキー(姉)はカルデラ屋敷とリュケリオンの塔の部屋を行き来できるんだよね、多分。


「それを伝えて終わりかと思ったのだが……ディオラに泣きつかれた。スレーデンの遺跡を再調査するメンバーが足りていないと」


「ああ、なるほど……」


 魔術士ばっかりだもんね、あの国。で、前衛のための傭兵を雇うにも不人気ダンジョンだし、衛兵を駆り出すわけにもいかないしって感じかな……


「ボクたちに頼めばいいのにね?」


「いやいや、ルル。伯母上にも面子というものがあるだろう……」


 ディオラさんとマルセルさんはベルグ派として議員の席についたわけだけど、かといってベルグの戦力を好き放題リュケリオンに使うわけにもいかないよね。


「まあ断る理由もないので、ラシャード側に連絡だけは入れてリュケリオンに向かった」


 ケイさん曰く、余震も起きてないので、さっそくスレーデンのダンジョンへと向かったそうだ。

 メンバーはケイさん、マルセルさんと志願した衛兵、魔術士、神官戦士が一人ずつ。


 地震で発生した崩落で、枝葉な通路の一部が塞がっていたりしたそうだが、第一から第四階層までに魔物の存在はなし。おそらくこの辺りの魔物はリュケリオンに流れてきたのだろうと。


 その次の第五階層には、私たちが塞いだ大穴へと続く道があり、そこから第七階層までも魔物はいなかったそうだ。多分、あのオークやウルクがいたんだと思う。そして……


「第八階層に入った瞬間から濃厚な瘴気が漂っていた。このメンバーでは無理だろうと判断し、ロゼ様の指示を仰ぐべくリュケリオンへと戻った」

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