第170話 待機からの続報待ち
「せ、説明はちゃんとするから、先に手紙を読ませてね……」
エイミー嬢の圧をひとまず躱して、クロスケから手紙を受け取る。
送ってくる相手はほぼディオラさん一択なんだけど、ひょっとしたらフェリア様とかロゼお姉様かもしれない。
「誰から? 何が書いてあるの?」
「えーっと、やっぱりディオラさんからだね。どうしても頼みたいことがあるので、今どこにいるか教えて欲しいって。どこにいるかで、向こうもどう動くか考えるらしいから、とりあえず場所を教えてってことみたい」
「ふむ。しかし、こんな北にいるとは思っていないのではないか?」
いつの間にか立ち直ったディーがもっともな意見を述べるけど、かといって、今からリュケリオンに転移するのも……
「とりあえず場所だけ書いて送り返すね。向こうの頼みたいこともはっきりしないし……」
ルルもディーも頷いてくれたので、さくっと返事を書いてディオラさんに転送。まあ、しばらくすれば、また手紙が届くでしょ。
さて、エイミー嬢に説明しよ……
………
……
…
「とまあ、そういう魔法なんだけど、今のところはリュケリオンでしか研究されてないので、できれば黙っておいて欲しいかな?」
「わかりました。ですが、ベルグの魔術士もご存知ないのですか?」
「うん。空間魔法っていう存在を知ってるのは、王族とごく一部だけかな。ルルのお爺ちゃん、ノティア伯とかぐらい。空間魔法が付与された物も渡してないし、使える人はいないね」
「なるほど……」
今のところ、空間魔法が実際に使えるのは、リュケリオンのごく一部の人たちだけだと思う。しかも詠唱をミスりやすいので、まともに使えるってなると……ディオラさんぐらい? あ、フェリア様とロゼお姉様は別扱いで。
「エイミー嬢が空間魔法を学びたいなら、やっぱりリュケリオンに行くのが一番かな。スレーデンの遺跡で見つかった魔導具に付与されてるのを解析してね」
「ですが、ミシャ先生は使ってらっしゃいますよね?」
「まあ、それは……この腕輪に空間魔法を付与してあるから」
もう! これだから頭のいい子は!
「それを解析はさせてくれないんですね……」
と、しゅんとするエイミー嬢。ずるい。私がやってもそんな罪悪感が出るようなことにならないのに!(基本スペックの問題です)
「ミシャが教えてあげればいいのに」
「私もそう思うのだが?」
「こらこら。この魔法は便利なのと同時に危険なんだってば。それこそ、目の前にいきなり刃物が出現することだってあるんだよ?」
その例えを想像したのか、ルルもディーもエイミー嬢も軽く身を震わせる。
正直、自分の身を自分で守れるレベルの腕前があって初めて渡せる代物なんだよね。盗まれたり、悪用されたりしたら洒落にならないし。
「確かにミシャ先生のおっしゃる通りです。私、なんとしてもリュケリオンへ留学できるよう、頑張ります!」
「うん、その時はディオラさんにも話を通しておくし」
とまあ、なんとかエイミー嬢にご納得いただけたところで、また腕輪が光った。
手のひらを上に向けると、空中に同じような巻いた羊皮紙が現れ、
「ワフッ!」
クロスケがナイスキャッチする。かしこかわいい。
褒めてと言わんばかりのドヤ顔で手紙を渡してくれたので、遠慮なくなでなでしてからそれを受け取る。
さて、何が書かれているやら……
「どうなの?」
「ケイさんが飛んで来るから、そこでそのまま待ってろって……」
「は?」
ディーが間抜け顔になる。気持ちはわかるけど、その顔は残念すぎるのでやめよ?
それにしても、ケイさんが飛んで来るってことは、リュケリオンにいたってことだよね? 私たちが旅の最初に訪れた時は出た直後だったみたいだけど、リュケリオンに行ってたの?
「待ってろって、いつまでなんだろ? 一週間ぐらい?」
「うーん、どうだろ。ケイさん、ベルグとリュケリオンの街道を二……鐘二つぐらいで飛ぶっぽいから、もっと早いんじゃないかな?」
「すいません。そのケイさんというお方は……」
あ、エイミー嬢にちゃんと説明しないとだった。下手すると、しばらくこの館にお世話になり続けるんだし。
「ごめんごめん。ケイさんっていうのは……」
白銀の乙女のことまでは余計かなと思って、私たちのギルドのギルマス、マルリーさんの友人で、
この旅の最初に挨拶に行ったら、なんだか直前に重要な要件?で飛んでったらしいと付け加えておいた。
「ラシャードからウォルーストに緊急の要件を伝える際、
「あー、やっぱりそうなんだ。じゃ、なんでリュケリオンにいるんだろ? それかディオラさんがウォルケルにいるのかな。いや、それはないよね……」
「そうだな。今の時期に伯母上がリュケリオンを離れるとは考えづらい」
となると、何らかロゼお姉様に報告しないといけないような事態が起きたと考えるべき?
はあ、やだなあ。せっかくここまでのんびりと旅が出来て、さあ帰ろうって時に……
「クゥン」
私の気落ちを察したのかクロスケが頭をすりすりしてくれる。
はいはい、ディーは羨ましそうな顔で見ないの。
「ねえ、ミシャ」
「どうしたの?」
「ケイさんが来るかもしれないなら、ガーラさんとかローラッドさんに言っとかないとダメじゃない?」
ルルにもっともなことを指摘される。というか、ちゃんと伝えとかないと一悶着起きたりしたら大変だ。
「あ、そうだね。それと、もう少しここに滞在しなくちゃかもなんだけど……」
「はい、問題ありません」
エイミー嬢はにっこり。
「ミシャ。ケイ殿がいつ頃来られるのか聞けばいいのではないか?」
「あ、そうだった……」
うーん、ボケてるね。はあ……
ちょっと冷静になろう。クロスケをなでなでして心を落ち着ける。
今ここでケイさんが何をしてたのかを考えても仕方がない。ディオラさん経由で連絡が来て、ケイさんが来るってことはロゼお姉様が絡んでいることだろうなーってぐらい。来てから聞けばいい話だよね。
「うん。今あれこれ考えてもしょうがないし、ケイさんがいつ頃着くのかだけ聞こう。で、それがわかったら、ガーラさんとローラッドさんに報告で」
「ワフッ!」
うん、クロスケのおかげで落ち着いたよ。ありがとね……
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