第169話 アラートメールが飛んできた

「えーっと、それで……いくらぐらい払えば良いです?」


 ちょっと怖いが聞かないことには始まらない。最初にいくらまで出せるか言っておくべきだったなあと反省。


「おう。金貨十八枚だな」


「えっ?」


「すまんが、これ以上はまからんぞ? まあ、今すぐでなくても……」


「いえいえ、そんな値段でいいんですか? 正直、金貨五十枚以上は覚悟してたんですけど……」


 金貨五十枚。つまり白金貨五枚は最低でも必要だと思ってた。

 ディーも隣でうんうん頷いてるし、金貨十八枚ってのは安すぎる気が……


「ふーむ。親父の作った円盾ラウンドシールドはいくらだった?」


「金貨五枚だったよ!」


「なら、金貨十八枚で合っとる。使われてる魔銀ミスリルの量もそうだが、仕事量としてもだ」


 むむむ、そうなのかな。ルルのだからって身内価格になってないといいんだけど。


「ミシャ先生。その長杖ロッドはおいくらでしたか?」


「え、これ? これは金貨十五枚だったかな」


「え、そうなんですか? それは……」


「安すぎるねえ。ま、誰も持てなかったからなんだろうけど」


 ナタリアさんが呆れ気味にそう言う。

 あれ? マルセルさんは「ちゃんと儲けは出てるから」って言ってたから良いんだよね?

 で、エイミー嬢が続ける。


「その虹銀アイリスで出来ている長杖ロッドは、私の見立てだと金貨三十枚はします。大きく質の良いブルームーンストーンもついていますし。

 ルル様の新しい鎧も大変素晴らしい物ですが、素材の費用としては魔銀ミスリルと皮になりますし、その長杖ロッドよりも高いという事にはならないかと」


「うむ。さすがエイミー嬢じゃの」


魔銀ミスリルをここから運び出したりすると、運搬のための費用などもかさみますが、今回はそれもありませんし」


 ああ、なるほど、輸送料もないもんね。

 私もディーも納得。ということで、


「えっと、じゃ、お支払いしておきますね。ルル」


「はーい!」


 ルルが財布というか革袋から白金貨を二枚出してナタリアさんに渡し、お釣りの金貨二枚を受け取る。それと、以前の鎧を手にして、


「これって?」


 どうしよ。予備に置いておく……ってあんまり意味ないよね?


「良かったらワシらにくれんか? 親父の作ったもんだしな」


「うん! もちろん!」


 よし! これで今回の目的は達成!


「ミシャ! 訓練しよ!」


「ワフッ!」


 さっそく試してみたいってことなので、場所を玄関前に移した。

 ディーにクロスケ、エイミー嬢、ローラッドさん、ナタリアさんが見守る中、水球を避ける訓練を開始。


「行くよー」


「来い!」


 水球二個からスタートしたが、余裕っぽいので三個目。……問題なさそうだし四個目。


「今までより動きにシュッとした感じがあるな」


 どういう事なのそれって感じのディーのセリフに思わず笑いそうになる。

 ただ、確かに今までは四個目がキツそうだったのに、今回はきっちりと避けられている感じ?


「ミシャ!」


「はいはい、五個目行くよ」


 エイミー嬢やローラッド夫妻が唖然としている中、私は五個目の水球を追加。

 四個目でも随分とすごいと思ったけど、五個目はこれもうどうなのってレベルなんだけど……


「くっ!」


 さすがに避けきれなくなったルルが円盾ラウンドシールドで水球を受けたところで終了。でも、ちゃんと円盾で受けてるあたりがすごい。


「サーラさんに追いつけそうだね」


「うん! この鎧のおかげ! ありがとう!」


「そう言ってもらえると職人冥利に尽きるぜ!」


 サーラさんは指輪で身を軽くしてるズルがあるから、あれが無ければ良い勝負……ひょっとしたらルルの方が上かもね。言わないけど。

 と、ルルが爆弾を落とした。


「じゃ、この鎧、ロッソおじさんに自慢して良いよね?」


「い゛っ!?」


 うわー……。ルル、このタイミングで言うのね。

 ローラッドさん、どう答えたもんだかとまごまごしていたところで、バンっとナタリアさんに背中を叩かれる。


「しゃんとしな! 自信があるんだろ?」


「あ、当たり前だ! その、なんだ。親父に自慢してくれ。お前の息子がすごい鎧を作ったぞってな……」


「任せて!」


 ルルがにひひ〜っと笑顔で答え、新しい鎧の受け渡しは無事に終了となった。


***


 で、これ以上の長居もということで、そろそろ戻りましょうかということに。

 明日は朝食をいただいてから、長に挨拶に行き、その間に別荘の戸締りをしてもらって出発って感じかな?


「またアミエラで一泊させてもらっていい?」


「もちろんです! 皆さんからは学ぶことが多くて勉強になります!」


 そうなのかな? ちょっと自信がない。

 エイミー嬢、数学に抵抗がないので吸収が早いし、教えがいのある生徒なのは確かだけど。


「ミシャ、ウォルーストに戻ってもすぐ帰るわけじゃないよね?」


「うん、急がなくても良いよ。ただ、寒くなる前には帰りたいかな」


「なら、私はもう少しウォルケルの外側を散策したいがどうだろう?」


 地味に草花やその種を採集していたディーから提案が。

 かさばらない種なんかはディーが持ちっぱになってるけど、苗木なんかはこそこそと自宅に転送しているので、シルキーが管理してくれてると思う。


「賛成!」


「ワフワフ!」


 ルルもクロスケも賛成なら問題なし。一応、帰国の時期はエリカに知らせた方が良いかな?

 エリカ宛の手紙は自宅のシルキーに転送し、たまに非番の女性騎士が回収に来てくれるように頼んでおいた。ちょっと遠回りだけど、実際の移動よりも圧倒的に早いし。


「よし。じゃ、それで。しばらくはウォルケルにいるから、その間はまた教えられることがあれば……」


「是非、お願いします!」


 そろそろエイミー嬢には科学っぽいことを教えても良いのかも。

 温度の話とか……って、温度を教えるにはマイナスの概念を教えないとだっけ?

 うーん、まあ水の凝固点と沸点あたりから話をするかな……


「ミシャ! 腕輪!」


「へっ? ええっ!?」


 左手の腕輪——腕時計——が淡い光を放ち、ってこれは転送か転移の予兆だよ!

 またフェリア様が出て来るとか洒落にならないんだけど!?


「あっ!」


「ワフッ!」


 空中に現れたのは巻かれた羊皮紙。それをクロスケがジャンピングキャッチした。かしこかわいい。


「なーんだ、手紙か。びっくりした」


「そうだな。また……」


「ん、どうしたの、ディー?」


 急に口籠るディーを見ると、涙目になってて目線が……あっ……


「ミシャ先生。今のはいったい?」


 威圧感たっぷりでにっこりとエイミー嬢。

 うん、ごめん。これは空間魔法についてはバラさないと許してくれませんよね……

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