第168話 テストは何度やってもいい
「ミシャなら開けられるよね!」
そう来ると思ったー……
「本当ですか!?」
「前もナーシャおばさんが開けられなかった扉開けたもんねー」
エイミー嬢までキラキラした目になるのはちょっとどうなんだろう。流石にそれはまずいと思うので、ってところでディーが止めてくれた。
「待て待て、ルル。扉を開けた先に何がいるかわからないぞ。エイミー嬢に怪我などさせたら大変だ」
「私なら大丈夫です!」
「ダメだよ。エイミー嬢のこともそうだけど、ダンジョンの管理はドワーフさんたちとアミエラの領主様が決めていることなんだから。国際問題になったらどうするの」
そう嗜めると、ルルもエイミー嬢も渋々ではあるが納得したようだ。
それを見ていたローラッドさんが笑う。
「ミシャ嬢ちゃんの言う通りだ。扉まで行っても良いが、開けるのは無しだな。どーしてもってんなら、ちゃんと許可を取った上で準備してからだ」
「いえいえ、採掘してる場所を見せて貰えば、見学としては十分です」
第八階層の奥まで行く気は元から無いです。
今歩いてる通路と採掘箇所になってる部屋の繰り返しっぽいしね。
「じゃ、ここはさっさと進んで、次へ降りるか。今年は第二階層と第七階層を掘ることになってるからな」
年ごとに、一と八、二と七、三と六、四と五というローテで掘ってるそうだ。鉱石を持ってくる労力を均等にってことかな?
トロッコでも走らせればと思うんだけど、こっちの世界はそういう概念がないらしい。まだレールっていう概念がなさそうだしね。
代わりに荷車に鉱石を乗せたドワーフさんたちとはすれ違った。階層の登りが大変そうだけどどうしてるんだろう……
「ここが第二階層へと降りる階段だ」
なかなか幅広な階段の片側にあるのは……荷運び用のロープウェイみたいなものだが、手動で巻き上げているっぽい。
ああ、下で袋に鉱石を詰めてからぶら下げて、上に来て巻き上げるのか。なるほどー。
「この装置は作ったんです?」
「ああ、俺が作ったんだよ。これを奥までは背負って運んでたから、何してんだよってな」
そう言ってガハハと笑うローラッドさん。
ある意味、外から出戻り?的な感じで来た分、作業の効率化とかにアイデアは出やすかったのかな。
と、下で鉱石を積んだドワーフさんが一人上がってくる。
「ねー! これ巻いて良い?」
「おう、ええぞ! 助かる!」
ルルがうずうずしてたし、まあ良いかな。
自転車のペダルっぽいものを、手前側にぐるんぐるんと回すとロープにつられた鉱石袋が上がってくる。
「おおー!」
何か楽しいらしく、回す勢いをあげるルル……って、ちょっ、早すぎ!
「ルル! 早すぎるって!」
そう言われて、慌ててペースを落とすと、鉱石袋が前後に揺れつつも、なんとか中身をこぼさずに登り切った。
「ワハハハハ!」
ローラッドさん大笑いだけど、ちょっと怒ってくれませんかね。
で、階段を上がってきたドワーフのおじさんも、
「すまんの! 助かった!」
と声をくれ、肩に担いでいた荷車に鉱石袋をどんと積んで去っていった。
「ふう、驚かせないでよ、ルル……」
「ごめんごめん。なんだか楽しくなっちゃって」
「かまわんかまわん。この装置を設置した日、皆が面白い言うて何回も壊したからな!」
うっ、なんとなくそれはわかるかも。
新しい何かを手にしたときに、弄り倒して壊すところまでがワンセットなのは、ドワーフさんたちも理系なのかもしれない……
その階段を降りた先を進んだ最初の部屋は右側が広く、その先はいかにも「掘りました」って感じの穴が続いていた。
奥の方では採掘作業が続いているのか、カツーンカツーンというツルハシの音が聞こえてくる。
「ここは鉄鉱石が出る場所だ。何年か前に磁鉄鉱が出たことがあるぞ」
「へー」
「磁鉄というと……」
ディーがルシウスの塔のことを思い出したのかこちらを見る。
まあ、そうなんだけど、私が魔法で鉄を出せるのは内緒でお願いします。そんな感じの雰囲気がうまく伝わったのか、それ以上は何も言わないでくれた。
「階層によって出る鉱石が変わるんです?」
「うむ。今、第六階層の方は銀と
鉱夫と鍛冶で分担はしてないそうで、自分で注文を受け、自分で鉱石を掘り、自分で製鉄——製銀?——して、自分で製品にするそうだ。ドワーフすごい。
「第六階層も見に行くか?」
「ルル、どうする?」
「ううん、大丈夫。それより、早く鎧作ってもらいたい!」
そう答えるルルにローラッドさんもガハハと笑う。ってことで、ここまでで撤収。
ダンジョンコアに行くまでに、先に進めなくしてある扉もあるんだし、今回はパスでいいでしょう。変な挙動をしててメンテが必要ならともかく、正常に動いてるんだしノータッチで……
***
それから数日、ドワーフ自治区で過ごした。
私はエイミー嬢が退屈しないよう、彼女に魔法を教えることを優先。クロスケもそれに付き合ってくれた。
ルルとディーは二人してローラッドさんやナタリアさんのお手伝い。
ディーは最初ギョッとされていたが、本人が天然で気づかないうちに受け入れられたようだ。ま、変人だしね……
で、滞在六日目の朝、ローラッドさんがナタリアさんを連れてやって来た。ナタリアさんが手に持っているのはルルの新しい鎧だろう。
「さあ、お披露目だよ。ルルちゃん、こっち来な」
「はい!」
ナタリアさんの指導の元、
今まで一枚で作られてた胸部装甲が左右一枚と中央一枚になったせいか、やたらとかっこよく見える。
肩や腰回り、腕、脛と装着し終わると……
「さあ、どうだい?」
「すっごくいい!」
ジャンプしたり、屈伸したり、腕をぐるんぐるん回したりと、動きやすさを実感してる模様。より細かいパーツの重ね合わせになった分、可動域が広まった感じ?
前のはかなりシンプルな作りで飾り彫なんかもなかったんだけど、今回のは
これいくらぐらい払えばいいんだろ。白金貨五枚とか言われても納得の出来なんだけど。
今の共有財産にはまだ白金貨十枚近くあったと思うけど、足らなかったらエイミー嬢に借りる? いやいや、それはまずいよね。
よし、腹を括って聞こ。足りない分は……魔法で
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