時間があるときの過ごし方
第167話 モジュール分割は何度も練る
翌日の朝食が終わった頃、ローラッドさんがやって来た。
預けてあったルルの鎧の補修はあっという間に終わらせたらしい。昨日はかなりお酒飲んで帰った気がするんだけど、あれぐらいじゃドワーフは飲んだうちに入らないってやつかな?
「ミシャ! 訓練!」
「はいはい」
別荘には中庭がないタイプなので、玄関前のスペースを使って久々の訓練をやる。
サーラさんが教えてくれた水球を避けるやつ。ルルの訓練でもあり、私の訓練にもなるので一石二鳥です。
ディーとクロスケは別荘の裏手にある林の方へと散歩に行ってしまったが、エイミー嬢とローラッドさんは何が始まるのかと期待の眼差しをくれている。うん、生徒の前でかっこ悪いところは見せたくないね。
「行くよー」
「よし来い!」
水球がルルを狙ってびゅんびゅんと往復するが、それを身体強化の感知で避け続けるルル。一個から始まった水球は二つ三つと増えて四つ目に。
「くっ!」
一つの水球がわずかに掠ったのか、水球が割れて地面に水が飛び散った。
「ここまでかな」
「むー、なかなか五つ目にいけない!」
サーラさんに追いつくのは大変だと思うし、そんな短期間で追いつくとあの人拗ねるので程々で良いと思います。ルルには
「すごいです……」
「たまげたな」
二人が驚いてるのはそれぞれ別だろうと思う。
で、ローラッドさんが、
「こりゃ、
「そうなの?」
「軽くて魔素を阻害しづらい分、もう少し反応が早くなると思うぜ」
ああ、そうか。
「じゃ、お願いします!」
ルルもどうやら踏ん切りがついたようで、ローラッドさんにペコリと頭を下げた。
「任せとけ。それとちょいと試したいことがある。まあ、視察に向かいがてら話そうや」
ローラッドさんが何か考えがあるらしくニヤリとしている。そういうのは嫌いじゃないし、むしろ好きなので興味あります!
で、そっちはそっちとして、
「ミシャ先生、今の水球の動きは?」
エイミー嬢にはバレたか。天才だからしょうがないんだけど、これは人型魔法が絡むから、ちょっと教えられないんだよね……
「うーん、これはリュケリオンに行けるようになったらね」
「うう、頑張ります」
一応、ディオラさんには人型魔法は教えてあるので、あの人に弟子入りしてもらって後は任せよう。そうしよう……
「む、終わったところか?」
「ワフッ!」
っと、ちょうどディーとクロスケも戻って来たし、鉱石が採れるダンジョンに行きましょうか。
***
ローラッドさんが話してくれたルルの新しい鎧の構造はなかなか面白いアイデアだった。
通常というか、今のルルの鎧は胸部は一枚の鉄板を凸型に成型して出来てるけど、これを左右一枚ずつにわけ、中央の隙間をさらに覆う形にしたいという話。
他のパーツも同様にある程度の大きさのパーツに分けて繋いだ上で、繋ぎ目を覆う形にしてみたいということらしい。
そのまま鉄で作ると重さが倍近くなってしまうけど、
面白そうな試みだし、重要な部分からさらに良い素材——例えば
そんな話をしながら歩くこと鐘一つぐらい。
街の北側からゆるい山道を登り切った先は結構な広さがある場所。
その奥には目的のダンジョンの入り口があり、手前には何かしら作業中っぽい小屋がいくつも建っている。
そういや、リーワースの廃坑の入り口もこんなだったなーって。
「ちょっとした視察だ。気にせず作業を続けてくれ!」
「おう!」
ローラッドさんが作業中のドワーフたちから野太い声を返される。
私たちも邪魔にならないようにしないとね。とか思ってるんだけど……
「お、エイミーちゃん、大きくなったな!」
「隣のべっぴんさんは誰だ!?」
「おい、エルフがいるぞ?」
「あの杖はなんだ?」
「わんこかわいいな!」
といった声があちこちで。
エイミー嬢、何度か領主様であるお父上と来たことがあって、ドワーフたちも顔見知りらしい。
で、ルル、やっぱり美人だよねえ。エルフのディーが目立つのはしょうがないとして、私が杖だけ見られてるのはどうなんだろう。クロスケはかわいいので仕方ない。
「エルフの嬢ちゃんにはすまんな」
「いえいえ、ルルを私の里に招いた時も、最初は同胞が驚いていましたので」
慌ててそう返すディー。
ルルは全く気にしてなかったけどね。
「ははっ! エルフの里にドワーフが行くのは珍しいな!」
「そうなんだ!」
「こっちにエルフが来るのは二人目だろうからな」
ニヤリと笑うローラッドさん。ああ、そっか。
「一人目はクラリティさんなんです?」
「親父の話だとそうらしいな。クラリティの伯父貴はいきなり来て土下座したらしいぞ」
「なんと……」
えーっと……この世界のエルフは土下座するの習慣なんですかね?
あと、ディーも驚いてるけど、私たちに土下座したでしょ……
「さて、こっからダンジョンだ。魔物は出ないが、掘ってる連中の邪魔は勘弁してくれよ?」
「うん!」
思ったより広い入り口を潜ると、そこから先は石造りの通路となっていて、鉱山という感じは全くしない。ノティアの南にあったダンジョンに近いかな?
で、天井には一定距離ごとに光る石があって、それがうっすらと通路を照らしているので、なんだか田舎のトンネルを思い出させる。
「この先に採掘箇所があるが、今年は手をつけない場所だ」
ローラッドさんがそう解説して行き着いた先は、かなり広い部屋のようになっているが、左側に石壁がなく、ロープが張られた先はごっそりと掘られた後の状態になっている。
「この部分だけ、もともと石壁が無いんです?」
「ああ、その通りだ。で、二年もほっときゃ、あのロープの位置まで元どおりになる」
うん、完全にそういうダンジョンだ、これ……
「ここって何階層まであるの?」
「長に代々伝わってる話じゃ、第十階層まであるらしい。が、今行けるのは第八階層までだな。一階層ごとにこういう採掘できる場所が二箇所ずつあるんで十分だがな」
「第九階層には行けないんです?」
「第八階層の奥に扉があってな。そいつはお袋でも開けられんかったらしい」
あ、ナーシャさんが開けられない扉って、例のパターンですかね、これ……
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