第166話 セキュアな接続を確立

「竜貨?」


 なんかすごいんだよね。竜って言うぐらいだし……

 エイミー嬢を見ても、首を横に振るだけ。ディーはまあ……知らないよね。


「ここから北の山脈に白竜がいることは、さっき長から聞いたよな?」


「え、ええ」


「が、いるのは白竜だけとは言っとらん」


「え、じゃ……」


「北の山脈より向こうは竜が住う地なのよ」


 えええー……って、竜が住う地があるのは良いとして、そこに貨幣経済が成立してる街があるってこと? そんなたくさん竜がいるの?


「住んでるのは竜だけじゃないわよ」


 ガーラさんが察したように教えてくれた。

 あのロマンスグレーのイケオジさんもそこに住んでる人だったってことかな? で、思わず渡してくれたのが竜貨だった、みたいな?


「その竜以外というのは……」


翼人よくじんや獣人がそれなりに住んでると言われているわ。太古に人から迫害された種族である彼らは竜の庇護下にいるのよ」


 うわー、全然知らなかった……

 あれ? でも、ケイさんは普通に暮らしてたような?

 とディーが同じことを疑問に思ったのか、


「白銀の乙女にケイ殿という翼人よくじん族の女性が居られ、私たちもラシャードではお世話になったのですが」


「ウォルーストやラシャードでそういった迫害が起こることは無いわね。でも、だからと言って、竜の庇護下を抜けて来るというのは限られているわ」


「なるほど……」


 ケイさんは加護の件もあって居づらかったところをロゼお姉様に拾われたとか言ってたけど、そうでなかったら苦労してたんだろうなあ。


「その馬車には他に誰かいなかったのか?」


「ディーの話では、馬車の中に一人居たんじゃないかという話です」


「ん、ああ、あの時は馬車が急に倒れたりしないよう風の精霊に見てもらっていただけなので、一人というのは推測だが」


 ちょっと照れ気味のディーもなかなか可愛い。私が下敷きになったりしないように、ちゃんと見ててくれたってことだよね。

 んで、その貴重な?竜貨だというのはわかったけど……


「これ、どうすれば良いんでしょう? 返しに行くべきなんでしょうか?」


「いえ、それはずっと持っておいた方が良いわ。もし、あなたたちが竜の住う地に行くことになった時、それが必要になるから」


「これ一枚で二、三日泊まれる感じなんでしょうか?」


「違うわよ。そもそもそれを持ってないと竜の都には入れないの」


 え? ってことは貨幣じゃなくて通行証ってこと?

 いやいや、それよりも『竜の都』って何? すっごく行きたくなるんですけど!


「ミシャ! 竜の都行きたい!」


 ルル、タイミング良すぎ。ちょうど良いところを聞かれてしまった……


「あー、行きたくなる気持ちはわかるが、今からは行くのはやめとけ。もうしばらくしたら雪が降り始めるぞ」


「なるほど……」


 ガーラさん曰く、ここウォルーストのアミエラ領ドワーフ自治区から、さらに一週間以上も北に進んで、やっと関所があるらしい。しかも、その間には宿場町なども一切ないので野宿前提。

 行ってすぐ帰るぐらいなら良いけど、下手すると帰りは春を待つみたいな感じになりかねないよね。行くなら春ぐらいからの方がいいか……


「竜の住う地は北の山脈の裏側を東へと続いていて広いと聞くわ。旅をするにしても、ちゃんと計画を立てないとダメよ」


「ガーラさんは行ったことあるの?」


 その問いにちょっと寂しそうに首を振る。


「亡くなった主人も竜貨をもらって旅したことがあるのよ。希少な鉱石を探しに行ったそうよ」


 その答えに少し落ち着きを取り戻すルル。

 だが、ナタリアさんがルルの背をばんっと叩いた。


「父ちゃんはおっきな神金オリハルコンの塊を持って帰って来たんだよ! ルルちゃんも見つけられると良いね!」


「うん! よーし、ちゃんと準備して行こうね!」


「いいよ。でも、ちゃんとエリカにも許可をもらってからね」


 ディーもそれに頷いてくれる。

 とりあえずは今回の旅を無事に終わらせるのが先かな。

 あと、寒い間はせっかくもらった自宅でぬくぬくしてたいです……


***


 その日はローラッドさんとナタリアさんをアミエラ領の別荘に呼んで夕食会となった。

 ガーラさんも誘ったんだけど、長の役目もほとんどローラッドさん夫婦に譲ってるのでと丁重にお断りされてしまった。


「お母ちゃんはルルちゃんを見ると、ルシアさんを思い出しちゃうのかもね」


「うーん……」


「気にしないで良いよ! さ、おいしいもの食べさせてちょうだいね!」


 そんなわけで、こっちが話すのはだいたいルルの父母の話とか、ロッソさん夫婦の話がメインなんだけど……


「ここから先にあるっていうダンジョン、見に行っても良い?」


 くっ、ルルちゃんと覚えてたっぽい。

 危険じゃなさそうなら行ってみたいところではあるけど、さて……


「んー、まあ行っても良いが、鉱夫連中の邪魔はせんでくれよ?」


「え? ダンジョンの中で採掘してるんです?」


「あら、知らなかったの?」


 不思議そうなローラッドさん夫妻だけど、それに対してバツが悪そうにエイミー嬢が解説してくれた。


「すいません。私から説明するのを忘れていました」


「いやいやいや、聞かなかったし」


 というわけで、エイミー嬢から改めて説明を受ける。

 ここからさらに北に鐘一つほどのところに入り口があり、管理はここのドワーフ自治区となっているらしい。ウォルースト的にはアミエラ領の一部だけど。

 そのダンジョンには各階層に採掘箇所があって、そこから各種鉱石を掘り出してるそうだ。で、これが不思議なんだけど……


「掘った後が塞がる!?」


「ああ、そうだ。ドワーフが長くここに住む理由もわかるだろ?」


「確かに……」


 鉱石を掘り出すと当然その分は空間ができる。けど、一年ほど放っておくと、その空間が元に戻ったように埋まるそうだ。なので、各階層を年ごとにローテーションしながら採掘しているらしい。

 不思議すぎるけど、なんとなく納得もできる。多分、そういうダンジョンなんだろう。

 もし、ダンジョンコアに出会えたとしても、下手にパラメータいじったりしないように注意しとかないと……


「希少な鉱石もそこから採れるの?」


「そうだな。まあ、ほとんどが魔銀ミスリルだ。十数年に一度、神金オリハルコンの原石が塊で出て来ることがあるんだがなあ」


 五年前にその神金オリハルコンの塊が出て来たらしいので、しばらくは出ないだろうとのこと。残念だけど、先約——多分、ウォルーストの王族とか?——があるし、ちょっと無理そうだよね。


「じゃ、やっぱり鎧は魔銀ミスリルで新しくしてもらうのが良いんじゃない?」


「むー」


 腕を組んで考え込むルル。ま、本人の希望優先で……

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