第165話 スターノードへの経路

 とりあえず、今のルルの装備を隅々まで見たいと言うローラッド夫妻の要望に応えることになり、場所を作業場に移すことになった。

 そこに行くまでの間に、ルルの円盾ラウンドシールドはローラッドさんに渡り、ローラッドさんはその円盾を穴が開くほど観察している。


「くそっ、親父のやつ、好き勝手してやがんな。うらやましいぜ……」


 そんな呟きが聞こえてきた。確かにここで次期長として鍛治以外のこともやってるのに比べたら、自由気ままにやってるんだろうなとは思うけど……


「あんた、私と別れようってのかい!?」


「そ、そんなことは言ってねえよ!」


 まーた夫婦漫才始まってるし。

 長のガーラさんはそんな二人を微笑ましそうに見ている。


「ワーゼルやロッソ、ルシア、ナーシャが出て行った時はこの村も終わりかと思ったけど、なんとかやってきたかいがあったわね」


「うわ、全員がここの出身だったんですね……」


「ええ、しかもこの村の上から四人が抜けたのよ。五番目の私がどれだけ苦労したか……」


 それはまた……

 プロジェクトの上から数人が急に交代になったりしたことはあったけど、不在のままってことはなかったかな。それに比べたら……いや、交代して仕様が全面的に変更になった方が酷いな、うん。


「まあ、そこにお座りよ」


 ナタリアさんが作業場に無造作に置かれている、岩の上を削っただけのような椅子?に座るように促す。

 ルルは座る前に、鎧を外し、後ろ手にぶら下げていた戦槌ウォーハンマーも外して、それを作業台のような場所に置いた。


「あんた!」


「おう! こっちはもう見たから良い。この戦槌ウォーハンマー見せてもらうぞ」


 円盾ラウンドシールドをナタリアさんにパスし、戦槌ウォーハンマーの方をじっくりと眺めるローラッドさん。

 まあ、それはダンジョン産なのでロッソさんの面影なんかは微塵もないと思う。


「こいつはダンジョンで拾ったのか?」


「拾ったっていうかもらったかな? ルシウスの塔の一番上まで行った時にもらったんだ」


 その答えにローラッドさんがなんとも言えない表情になる。

 ナタリアさんはそれがよくわかっていない感じ? ルシウスの塔はベルグにあるし、行ったこともないから当然なのかな?


「ワーゼルの伯父貴の戦槌ウォーハンマーと同じか?」


「ロッソさんはほぼ同じだって言ってた。でも、ボク用にちょっとだけ違うみたい」


 まあ、手の大きさとか違うしね。あと、多分だけど魔素の色に対する反応なんかワーゼルさんのとは違う気がする。ルルはお婆ちゃんに似てるっていうし。


「そうか。まあ、大事にしな。こんなもんを作れるのは紅緋べにひ神様ぐらいだ」


 そう言って戦槌ウォーハンマーをナタリアさんに渡すと、今度はその視線が私の杖に……

 気になりますよね。知ってた。


「これはマルリーさんたちが昔ダンジョンで見つけたけど、使えなかったっていう長杖ロッドです。マルセルさん、マルリーさんの弟さんが保管してたのを売ってもらいました」


 長杖ロッドを作業台の上に置くと、ローラッドさんがそれを……


「ぬおっ! なんじゃこりゃ!」


「へへー、それはミシャしか軽くならない長杖ロッドなんだ!」


 得意げなルルだけど、私は軽く苦笑い。もうちょっとちゃんと説明しないとね。


「その長杖ロッドなんですが、青色の魔素を持ってると軽くなる魔法が付与されてるらしくて」


「お、おう……」


 ローラッドさんが理解したのか、手だけでなく腰を入れて長杖ロッドを持ち上げる。

 まあ、鉄の長杖ロッドでもかなり重いだろうけど、その三倍ぐらい重いもんね……


「こいつはすげぇな。ほぼ全部が虹銀アイリスでできとる。重いはずだ」


虹銀アイリス?」


「ああ、この辺でも採れん。空から落ちてきた鉱石だと言われてる奴だ」


 空から? ああ、隕石? ということは確か……イリジウムだった気がする。

 前世で『恐竜が絶滅したのは隕石が落ちて氷河期がうんぬん』のその隕石がイリジウム満載だったとかどうとか。本当なのかわからないけど。

 うーん、今ここで私が元素魔法でイリジウムを作れてしまう可能性が。多分、唱えるとできてしまいそうな気がする。けど……


「むー、ミシャの長杖ロッドと同じので鎧とか良いなーって思ったのに」


「鎧や盾に虹銀アイリスは重すぎるわね。ミシャちゃんみたいに魔法で軽くなるなら話は別だけど」


 とガーラさんから聞けたので、イリジウムの生成は帰国後にこっそり試すだけにしましょ。

 で、鎧の方を熱心に見ていたナタリアさんが、


「ルルちゃん、新しいのを作るかどうかは置いといて、今のこの鎧の皮の部分は張り替えましょ。このままじゃ、戦ってる時に切れるかもしれないし危ないわ」


「うわっ、そんなに!?」


 ルルの覗き込んだ先に、ナタリアさんは右肩の接続部あたりを見せる。だいぶ無理してきたし当然かな。

 ノティアに戻った時にロッソさんにちゃんと見せとくべきだったよね。うーむ、反省。


「あんた。ちょっと合わせしてくるから、あとは頼んだよ」


「おう、行ってこい」


 ナタリアさんはそう言うとルルを引っ張って奥へと消えていった。まあ、任せておけば大丈夫かな。で、それを見計らったように……


「ローラッド」


「あ、ああ、わかってる。その、なんだ……親父とお袋は元気か?」


 ああ! ナタリアさん、気を利かせてくれたんだ。


「二人ともとても元気です。ロッソさん、だいたい怒られてますけど」


「ふっ、そうか。そいつは良かった。あんたはお袋の弟子だそうだが、その、あれだ。二人を呼んだらこっちに来ると思うか?」


 あー、うん、そりゃそうしたいよね。でも……


「少なくとも私が伝えるぐらいではノティアから動かないと思います。ローラッドさんとナタリアさんお二人で呼びに行けば、あるいは、ですかね?」


「そうか。いや、いい。すまんな」


「やめておきなさい。ワーゼルが寂しがるわ」


 とガーラさん。

 ああ、そうか。それもあってノティアから動かないのか……

 少し重苦しい空気になったのをディーが察したのか、私がまた忘れそうになっていたことを言ってくれた。


「ミシャ、例の妙な銀貨の件を聞いたらどうだ?」


「あ、ああ、あれね。えーっと……」


 慌ててサイドポーチをあさり、謎の銀貨を取り出すと、それを作業台の上に置いた。


「これ、ウォルーストに来る途中で手に入れたんですけど、何かご存知ですか?」


 ローラッドさんがそれを手に取って眺めた瞬間、


「おい! これをどこで手に入れた!?」


「え、いや、実は……」


 馬車のトラブルで困っていたロマンスグレーのイケオジを見かけて、そのトラブルを解消したらお礼とか言って渡されました。それだけなんです、本当に。

 

「ミシャちゃん。これは竜貨と呼ばれるものよ」

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