第164話 弱い紐帯の強み
今回、改めてベルグから旅に出る前にちょっといろいろと考えることがあった。このままのんびりした生活も悪くないんじゃないかな、とか。
けど、第一にルルがそれを良しとしないと思うし、そうなったら一人でもどこかに行ってしまいかねない。そしたら、やっぱり心配だから付いていくしかなくて……一緒だなーって。
旅に出る目的というか、優先順位もちゃんと考え直した。
第一は安全に楽しく旅をすること。ロゼお姉様や白銀の乙女の皆さんにも釘を刺されていることだし、ルルやディー、クロスケが危険な目に合うのは純粋に嫌。
第二は『次元魔法』についての手がかり探し。これは自分が手紙を送りたいっていうよりも、ヨーコさんの遺骨を返したいっていう気持ちの方が大きいかな。今は。
第三はダンジョンの管理。これは単純に『初期パスワードのままのダンジョンが気持ち悪い』のでなんとかしたいだけ。あとカピューレの遺跡みたいな変なことになってても困るし。
最後に地政学的な意味で国を見て周っておきたい。エリカや皇太子様、ルルのお爺ちゃんやクラリティさんはベルグを大事にしてるし、私にとっても大事だ。だから、いろんな国を見ておきたい。
この世界、観光目的で旅に出るというのは、国内はまだしも国を跨いではすごく珍しいらしい。あって隣までぐらいが普通だとか。
ちょっと道を外れて奥へ行けば魔物が出てきたりするし、自動車も電車もなく、馬車での移動が標準な世界で遠くに旅に出て戻って来ようとは思わないよね。
私たち三人は女だし、しょうもないトラブルに巻き込まれることだってあると思う。
ダンジョンを見かけたなら入らずにはいられないだろうし、徒歩での旅なら道中で魔物に襲われる可能性だってあるだろう。
だから、できるだけ自衛できるようになっておきたい。勝てそうにないなら、逃げられる手段を確保しておく必要がある。
そう考えると、魔法で転移ができるようになって本当に良かったと思う。
でも、転移どころではなく負傷してしまったら? 私がなんらか魔法を封じられたら? ルルやディーには、私がいなくても勝てる……ううん負けないようになって欲しい。
私から見て、マルリーさん、サーラさん、ディオラさん、ケイさんはそれができる人たち。そんな人に私たちもなりたい。
白銀の乙女のようになるには、それこそ日々の努力が必要なんだと思う。けど、手っ取り早く近づく方法がある。それは武器や防具。
形から入るのかとか言われそうだけど、良いキーボードとマウス、速いマシンに潤沢なメモリ、二画面ディスプレイがあって、初めてプログラマはその性能を百パー発揮できるんだから……
………
……
…
「あなたたち、白銀の乙女を知ってるのかしら?」
長のガーラさんがちょっと驚いたように尋ねる。
ローラッドさん、ナタリアさんも顔を見合わせているところを見ると、やっぱりマルリーさんたちその筋では有名人っぽい。
「うん! マルリーさんはボクたちが所属してるギルドのギルドマスターだよ」
「他の白銀の乙女の人たちにもあったことがあるんです。というか、かなりお世話になりました」
いや本当に。なんなら現在進行形でお世話をかけている気もする。ディオラさんとか。
「まあ、そういうことなら話していいんじゃねーか?」
「私も賛成だわ」
娘夫婦?でいいのかな。促された長は柔和だった表情を少し固くする。
というか、私が思ってたよりもずっと大事なんだったら、別に話さなくてもと思ったが、もうそれを言える空気じゃなくなってしまった……
「エイミーちゃん。これは領主様も知っていることだけど、基本的にあなたの家しか知らないことだから注意してちょうだいね」
「は、はいっ!」
「もちろん、あなたたちも」
「はい!」
ルルがはっきりと返事をし、私たちも深く頷く。
「マルリーの持つ鎧と盾には白竜姫様の鱗が混ぜられているの。それは随分と昔、森の賢者ロゼ様がここより北の霊峰で交わした約束で得られた鱗。だから、それと同じものを作ることはできないわ」
えええええ……
私は、いや、ルルもディーもエイミー嬢も信じられないといった顔をしてしまう。
けど、信じられなくても本当のことなんだろう。なんていうか、ロゼお姉様なら竜と話していても不思議でもないかな。あと、竜って話せる存在なんだ……
「その、森の賢者ロゼ様が白竜姫様と約束したことについては教えていただけますでしょうか?」
エイミー嬢、当然というかロゼお姉様のことを知ってるのね。三賢者って魔術士なら誰でも知ってるって感じなのかな。
そして、長はゆっくりと頷いて続ける。
「それは霊峰に黒き輩を近づけないことよ」
ああ、黒神教徒か……
白竜姫様っていうぐらいだから、
「なるほど。白銀の乙女の防具としてはそれ以上のものはないということか……」
メイン盾としては格別の逸品ってことだよね。マルリーさんに神聖魔法のバフが良くかかるのもそのせいなのかも?
「うう、ボクにはまだ無理な感じだね」
ルルがちょっと凹むが、どっちかというと向き不向きって問題じゃないかな。メイン盾って感じでもないわけだし。
「ルルちゃんが相応しくないという話じゃないからね。それと白竜姫様の鱗自体はもうロゼ様もお持ちではないと思うわ。マルリーのために全て使ったから」
長が柔らかい眼差しに戻ってそう告げる。
ひょっとしたら余ってないかな? ロゼお姉様に聞いてみようかな? とか思ってたけど、その線も無くなっちゃったか。
ロゼお姉様はわりと「今使えるものは最大限使う」人だもんね。私みたいにゲームクリアしてもエリクサーを残してるタイプとは正反対……
「どうする? 私としては、
ディーは『今より強い装備にはすぐ買い換える派』かー。私はコスパとか考えちゃうんだよね。で、苦労するみたいな……
「うーん、ミシャはどう思うの?」
「えーっと、
よく知らないけど
が、長ではなくローラッドさんが首を振って答えてくれる。
「稀に
「あ、それは当然ですね。すいません」
予約があってそれに割り込むようなことはしたくない。ルールとかマナーとか言う前に人として当然でしょ。
「まあ、今日のところはゆっくり考えてみたらどう? いつでも作れるように今の鎧を見せて欲しいし……その盾はロッソさんが作ったものよね? その
「待て、盾は俺が先に見る!」
とまあ、夫婦漫才が始まったようなので、今日はここまでということで……
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