第162話 複雑ネットワーク

 領主様の奥様も紹介してもらい、時間もちょうど良いということで夕食をご馳走になった。で、そのまま食後のティータイム。


「美味しかった!」


「アミエラの料理を気に入っていただけたようで何よりです」


 奥さんも優しそうな人で、エイミー嬢のお母さんだなーって美人だ。縦ロールじゃなかったけど。

 ルルが絶賛してた料理……ドイツ料理っぽかった。まあ、日本で食べたドイツ料理の記憶しかないので、本当のドイツ料理と比べたわけじゃないです。


「さて、少し真面目な話をよろしいかな」


 領主様が目配せし、メイドが食堂から出ていく。

 まあ「何しにきたんだよ、お前ら」ってのはあるだろうから、正直に話しておかないとね。


 ………

 ……

 …


 エイミー嬢にも話したことだけど、改めて領主様にもルルの親戚がドワーフ自治区にいるので会いに来たことを伝えた。ルルのお父さんの従兄弟にあたる人で、ローラッドさんっていう人。

 手紙を預かっているのは隠しておくべきか悩みかけたところで、ルルがあっさりバラしてた……。まあ、それがダメってことにはならなかったので良かったけど。


「ところで、ベルグでルシウスの塔を踏破したというのは、皆さんで間違いありませんね?」


「あ、あー、はい。その話、ウォルーストまで伝わってるんですね……」


 領主様はそれを聞いて嬉しそうだが、エイミー嬢はルシウスの塔のことを知らないようで、頭の上に『?』マークが浮かんでいる。

 領主様が可愛い娘にルシウスの塔のことを説明すると……


「すごいです!」


「いやいや、あれはエリカとシェリー殿もいたのでな」


 ディーがぽろっとこぼすと、


「エリカというのは、ご結婚された皇太子妃様ですかな?」


「ええ、そうですね。まあ、やんちゃな姫様なので……」


 領主様がすかさずそれを拾った。ま、別に隠すことでも無いし、少し武闘派なのは知っておいてもらった方がいいくらいだと思う……


「では、リュケリオンの件もやはり皆さんが?」


「あー……そこまでバレてましたか……」


「ドワーフ、エルフ、魔術士と、聞こえてきた話と同じですからな」


 領主様ちょっと嬉しそう。言われてみると変な組み合わせだし、目立たない方が不思議だよね。

 で、エイミー嬢がまた良くわかってなくて、


「お父様! 説明してください!」


「あ、ああ、よろしいですか?」


「ええ、あれは公式な事ですし」


 テランヌとヴァヌがリュケリオンの議席をそれぞれ一つずつ失い、その二つがベルグにゆかりのある人物に渡った事を説明する領主様。

 私からもフォローというわけではないけど。


「その二人、ディオラさんはここにいるディアナの伯母で、マルセルさんは私たちがいるギルド『白銀の盾』のギルドマスターのマルリーさんの弟ですね」


「えっ、そのお二人の話ってライオネル導師にされていた……」


「うん、そう。ちなみにライオネル導師が言ってたナーシャさんっていう魔術士は私やディオラさんの師匠で、ルルの大叔母にあたる人」


 エイミー嬢が完全にぽかーん状態になってしまう。うん、ごめん。私も結構ひどいなと思った。


「とはいえ、リュケリオンの議席の話をまとめたのはミシャ嬢ではありませんか?」


「そう見えるかもですけど、私は単に窓口だっただけですから……」


 うふふふふ……

 うん、ロゼお姉様とかフェリア様とかとまで繋がってるのはさすがに内緒。とはいえ、領主様もそれ以上は追求はしてこなかった。


「ウォルーストとしても異論は特にありませんよ。平和が一番ですからな」


「ええ、ベルグも同じですね」


 この話はこれでおしまい! というところだけど、一応、ライオネル導師にしたエイミー嬢の留学の件も話しておいた。

 これに関しては純粋にリュケリオンで一番できる魔術士——賢者を除く——がディオラさんだと思うので、それもしっかりと伝えておく。

 奥様は乗り気だったけど、領主様はちょっと寂しそうというか、まだまだ目の届く範囲にいて欲しいんだろうなあって感じ。

 焦る必要は特に無いと思うし、リュケリオンがしっかりと落ち着いたら考えてみてもらうという事でいいんじゃないでしょうか。地震の件とか、スレーデンの遺跡の奥にいるアンデッドも気になるしね……


***


 翌日は朝食をいただいてから出発。ドワーフ自治区にはアミエラ領の別荘もあるらしいので、そこに泊めてもらう予定。宿はまあ……らしいので。

 常に使用人がいるような屋敷ではないらしいので、執事さん一人とメイドさん三人が別の馬車で同行することになった。うん、貴族すごいね……


「大掛かりになってしまってすいません」


「ううん、全然。じーちゃんとベルグの王都に行く時もこんな感じだもん」


 ああ、ルルはこれが普通なのか。そりゃそうだよね。

 だからこそ、私たちと気ままにふらふらしたくてたまらなかったんだろうけど。


「ワフ〜」


 エイミー嬢にすっかり懐いてしまったクロスケが彼女の膝に頭を擦り付ける。

 励ましタイミングをちゃんと把握しててかしこい。かしこかわいい。


「ありがとう」


 そう言ってクロスケを撫でるエイミー嬢を羨望の眼差しで見るディー。あなたはもうちょっと大人になりなさい。


 そういえば、例の謎銀貨は領主様も知らなかった。奥様も。で、やっぱりドワーフに聞いた方がいいという話なので、ちゃんと忘れないようにしないとね。


 馬車はゆっくりと北へと進んでいく。


 ウォルーストの北から北東にかけては高い山脈が連なっていて、クラリティさんやサーラさんが言ってたワイバーンが住んでいるらしい。ただ、大分上の方にいるという話で、今のところ被害とかは出てないそうだ。

 で、ワイバーンは家畜を襲ったりすることもあるらしい魔物。喋れたりするわけではないけど、いっぱしの知恵は持っているようで捕まえるのは大変なんだとか。


 目的のドワーフの自治区は北西にあり、そこから東に見える山を掘って鉱石を集めて鍛治をしているそうだ。人口は三百人程度でほとんどが鉱夫兼鍛治職人らしいが、食料なんかはアミエラ領とやりとりしてるので問題ないらしい。


「ローラッド殿は次の長だという話だそうだが、かなり偉い方なのではないか?」


「そうなのかな?」


「どっちかっていうと、めんどくさいからって押し付けられてる可能性が……」


 鍛治仕事じゃない取りまとめだったりとか、やりたがらないタイプが多そうだよね。なんとなーく現場大好きダッツさんの顔を思い出してしまう。


「ダッツ殿は元気だろうか……」


「「ぶっ!」」


 ディーの呟きにルルも同じことを思っていたのか一緒になって吹き出してしまう。ってエイミー嬢が置いてけぼりだ。ちゃんと説明してあげないと!

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