六次の隔たり
第161話 ノードをたどろう
「忘れ物、ないよね?」
「ないよー!」
ウォルケルの街での一週間が過ぎ、今日からさらに北へ向かう。
厳密には北西で真北にある山の麓にあるドワーフ自治区が目的地。ただ、まずはその手前、エイミー嬢の故郷であるアミエラ領までの旅だ。
「では、出発してもらいますね」
同行してくれるエイミー嬢が御者さんに伝え、馬車はゆっくりと走り始めた。
日程は二泊三日。馬車だから二泊三日だけど、歩きだと四泊五日コース。
私たちだけなら、まあ徒歩移動になってたと思うけど、それにエイミー嬢を付き合わせるわけにもいかないしね。
「思ったよりも早くドワーフ自治区に行けそうだな」
「うん。ありがとね!」
「いえいえ、私の都合に合わせてもらってすいません」
さすがに察してるのかエイミー嬢が謙遜する。
とはいえ、私としても馬車移動はちょっとホッとした。二人とも、もちろん、クロスケも健脚だから、私が疲れたって言わないと休憩しないんだもんなー……
「ミシャ、こんぶちょうだい」
「はいはい」
さっき朝食をがっつり食べたばっかりだと思うんだけど、ルルは燃費が悪いっぽい。ひょっとして赤系魔素は燃費悪いとかあるのかな?
確かサイドポーチにいくつか取り分けてあったはず。えーっと……
「あ……」
「どうした、ミシャ?」
「忘れ物でしょうか?」
「いや、ごめん、忘れ物じゃないけど、これのことすっかり忘れてた……」
初めてウォルケルの教会に入る時気づいた模様の違う銀貨。
普通、硬貨には一枚の葉っぱが描かれていて、聞いた話では神樹の葉らしい。確かにカピューレの遺跡が育ててる樹の葉っぽい。
で、この馬車のトラブルを助けた時、お礼にともらった銀貨の模様は……波模様? とにかくよくわからない。
隣に座っているルルがそれを覗き込んだが、心当たりがないのかぷるぷると首を振る。
「エイミー嬢はこの硬貨知ってたりする?」
対面に座っているエイミー嬢に渡すと、それをじっくりと眺め、やはり首を振った。
「私も見たことがありません」
「偽物ということなのか?」
一緒になって覗き込んでいたディーがそう問うので、改めて鑑定してみたが……
「うーん、普通の銀貨と同じだけ銀が使われてるし、偽金ではないと思う」
「やっぱりあのおじさんが怪しいの?」
どうなんだろ。ロマンスグレーのイケオジだったけど、あからさまに怪しい感じではなかったと思う。
あと、今乗ってるアミエラ子爵家の馬車も上品な馬車だけど、それ以上の馬車だった気がするんだよね。記憶が美化されてなければだけど……
「あの……」
「ん? どうしたの?」
「この銀貨はどうやって?」
あ、ごめんなさい。そこの説明忘れてました……
***
アミエラ領までの旅路はつつがなく。
時折西側に海が見えることがあって、なかなかに風光明媚な旅でした。
ウォルケルでの一週間も含め、エイミー嬢ともすっかり打ち解けた私たちは、例の銀貨をもらった経緯や、今回のラシャードからの旅路がどんな感じだったかを話した。
さすがにコーマの遺跡とダンジョンコアについては伏せたけどね……
「少なくともウォルーストで見かける細工物というわけではないと思います」
エイミー嬢がそう断言してくれたんだけど、じゃあ、あの馬車は一体なんだったんだろう。ディーが確か一人乗ってるとか言ってたし、オウマに向かって急いでたけど、そのままウォルケルに行くはずだよねえ。
「リュケリオンが不安定だという話を聞いて、ウォルースト経由で大陸中央の国へと向かったのではないか?」
「私もそう思います」
普通に考えたらそうだよね。ただ……
「そっち方面にこの銀貨を使ってる国ってあるのかな?」
「それは……わかりません。ウォルーストの東に位置するテランヌではないことは確かですが……」
さらに東の方にある国については、ウォルーストもほぼ国交がない状態ということで分からずという感じ。まあ、ベルグだってウォルーストのこと何も知らないようなものだしね。
「ま、今度、リュケリオンに行った時にでも詳しい人に聞くかな」
ロゼお姉様とかフェリア様なら知ってそうな気はする。というか、確実に知ってるんじゃないかな。と、エイミー嬢が、
「ドワーフ自治区の長なら知っているかもしれませんね」
「おー、それだ!」
ナイスアイデアを出してくれる。ちょうど良いから聞いてみましょうか。
***
「すごい!」
馬車から降りた私たち。今日はエイミー嬢の父上であるアミエラ子爵が住むお屋敷に泊めてもらうんだけど、ルルが思わずそう言うぐらい大きい。
私たちがエリカから買ったお屋敷以上ありそうで「これで子爵なの? 伯爵じゃないの?」っていう感じだ。なんかきっと大人の都合があるに違いない。
「エイミー、おかえり!」
「お父様!」
玄関前で感動の再会が行われてます。エイミー嬢、半年ぶりぐらいの帰郷だそうで。
兄が一人いて、もちろん長男なんだけど結婚済み。姉二人も既に嫁いでいるらしい。うーん、貴族って感じだけど、その分、末っ子のエイミー嬢は甘やかされているそうだ。
魔法の才能があるのも確かだけど、それだけで女の子が魔術士として王都に残れるのも、おそらくはわがままを聞いてもらえたからだろうね。
「お父様。紹介させてください」
まあ、先に連絡は言ってるんだろうと思うけど、ここはエイミー嬢の仕切りに任せて、ルル、ディー、私、クロスケと紹介してもらう。
「ルル=ノティアです。よろしくお願いします!」
「エルセーク=アミエラです。こちらこそ、よろしくお願いします。『遠き国とは親密たれ』と言いますからな。ベルグとウォルースト、まずは我々から始めましょうか」
へー、こっちにもそういうことわざあるんだ。『
私とディーはあくまで『ルルお嬢様のお供』ということで自分からは挨拶しない。こういう場は貴族のルールに従いましょう。めんどくさいとかじゃないよ?
「もう、お父様! そういう外交的なお話はなしです!」
「ははは、わかっているさ。さあ、お入りください。家内を紹介します」
にこやかにそう話す領主様。大丈夫だとは思ってたけど、悪い人ではなさそうね。
エイミー嬢も多少キツい感じはあったけど、素直に負けを認められるし、ちゃんと謝れる子だったもんね。育ちが良いのは、きっちりとした親御さんだからなんだろう。
ん、ちょっと前の世界のことを思い出しちゃったな……
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