第157話 適正価格をご提示ください
「なんだか勝手に話が進んでますけど、傭兵の魔術士はお金もらわないと仕事しないですよ?」
曲芸師じゃないので、芸を見せてから対価を貰うとかは無しで。
契約前に気を利かせて作業して、見積もりに「こんな感じですね」って添付して渡したら、それだけ取られたことあったからね!
「ほら、所詮はそんなものです!」
エイミー嬢の言い分がどうこうよりもルルを抑えるのが大変で困るのでやめてほしい。
このジジイも導師とか言われてたし、ナーシャさんを知ってるぐらいだし、リュケリオンにいたことだってありそう。ひょっとしたら、ロゼお姉様やフェリア様だって知ってるかもしれない。
「はいはい、そういうことで良いので失礼しますね」
「くっ、待ちなさい!」
あ、裏返ってしまった。んもー、面倒臭いー……
「すまんのー。ちょっとだけ付き合ってもらえんか」
「すいませんが、所属しているギルドの方針でタダ働きは無しなんです」
「私が払います! 勝負なさい!」
マルリーさんからタダ働きはしないように言われてるから、これは絶対。適当にやって負けるのがいいかな。でもなー、手抜き仕事はプロとしては許されないというか……はあ。
「じゃ、金貨一枚で」
「ぐっ、私の月のお小遣いが……。ただし! 手を抜いたら払いませんからね!」
月のお小遣いが金貨一枚ってどんなお嬢様なんだか。
「で、何をすれば? 危ないのはやめてくださいね」
「すまんのー。まあ、簡単なことにしておくかの」
ジジイがすたすたと湖の近くまで移動するので、皆でそれについていく。肉串はもったいないので、ルルとクロスケにちゃんと食べてもらうことにした。
「さあ! 導師様!」
「ふむ。では、水球の魔法を打ち合って、先に当てた方が勝ちということでいいかのー」
ジジイがそういうとエイミー嬢はもはや勝ったと言わんばかりの表情になる。
ここまでお嬢様キャラを体現してるのは、ある意味すご過ぎて負けそう。
「じゃ、いつでもどうぞ」
十歩ほど歩いて距離を取り、特に必要もないんだけど、
で、エイミー嬢がどれくらいの腕前かは見たいので、まずは待ちましょうか。後の先って感じで強そうに見えるし。
「行きますわよ!」
そう叫んでから詠唱を開始するエイミー嬢。素直な娘だなー。
と、なかなかいいスピードで水球が飛んでくるが、形がいびつなのは減点対象な気がする。いや、別にどんな形でもいいのかな。
「よっと」
前にディオラさん相手にやったことがある、二重の魔素膜での水球の対処。一枚目で相手の魔素を消して、二枚目で包み込んでこぼさない奴で奪取成功。
そのままエイミー嬢に打ち返す。
「なっ!?」
驚いてるけど、これぐらい出来ないと火球打ってこられたらどうするつもりなんだろ?
とはいえ、ちゃんとそれを左に避けるエイミー嬢。で、
「や、やりますわね! 次は……」
バシャッ!
『避けた水球が戻ってこないと誰が言った?』的な感じで後頭部にぶつけてみた。
ドリルツインテは天然なのか、濡れても真っ直ぐにならずにロールを保っていてすごいなー、とか思ってたら。
「ミシャ、やり過ぎ」
「ミシャはもう少し手加減というものをだな」
「ワフワフ」
なんで責められてるんでしょう? 本気出さないと失礼じゃない? 金貨一枚分の仕事なんだし。
「見事じゃのー。ミシャ殿の勝ちじゃなー」
ジジイ嬉しそうですね。っていうか、この娘の鼻っ柱を折るつもりだった感じだよねえ。
で、そのエイミー嬢は髪からぽたぽたと滴を垂らし、俯いたまま。うん、ごめん、やり過ぎたかもしれない……
だが、
「参りました!」
俯いたままだが、はっきりとそう言った。いい娘じゃん。
「うん、ごめんね。やり過ぎたかも」
「いえ、私の未熟です!」
そう強く言ってキッと顔を上げ、さらにこう続けた。
「私に魔法の指導をお願いします!」
***
「ミシャはもー!」
ルルがお冠で困っています。助けて。とディーを見ると、
「本当にしょうがないな……」
「ワフ……」
味方がいない……
とりあえず「魔法の指導」の件はいったん置いて、ずぶ濡れになってるのを乾かしてあげたところで、ジジイ……もとい、ライオネル導師から、
「学園の方を見ていかんかねー」
と誘われた。それに、
「金貨一枚をお支払いいたしますので、ついてきてくださいませ」
とエイミー嬢に言われてしまい、逃げるタイミングを完全に失ってしまった。
さらには、どうやらさっきの模擬戦っぽいものを見ていたギャラリーがいて、そこから伝わったのか衛兵さんたちまで来てしまう始末。
「ライオネル導師。お戯れが過ぎます……」
「すまんのー。年寄りになると、若い才能を見ることだけが楽しみでのー」
「皆さまには申し訳ありませんが、場所を移していただけますか」
衛兵さん、普段からこのジジイに手を焼いてるのか顔に疲れが出ていて、とても断れそうになかった。これ以上、目立つのもなんだしと渋々了承したところで、
「さあ、参りましょう!」
とエイミー嬢に腕を取られた。次の瞬間、ルルに反対側の腕を取られた。
うん、助けて……
両脇をガッチリと固められたまま、先ほどの大聖堂に戻ることになり、順路からは入れなかった右側の学園へと通された。
内側はいくつかの教室っぽい部屋と屋根付きの運動場があり、なかなかにすごい設備。
「そういえば、エイミー嬢は歳いくつなの?」
「十三です。学園は卒業しましたが、魔法を極めるために残っております」
そいや、ルルもベルグの王都では学校だか学園だかに通ってたんだっけ。ということは、このエイミー嬢もまあ貴族なんだろうなあ、ウォルーストの……
「こちらでお待ちください」
エイミー嬢がやっと腕を離してくれたのは、その屋内運動場の一角。オープンテラス風のテーブルと椅子があり、ひとまずそこでお茶をすることになった。
「いやー、すまんのー」
そうニコニコしながら言うライオネル魔導師だが、
「最初からこうなる可能性も考えてましたよね?」
「はっはっは、ま、そうだのー」
笑いながらあっさり認めるあたりが油断ならない。まあ、いざとなったらルルに印籠……じゃなくてベルグのメダルを出してもらうしかないかな。
いつの間にか現れたメイドさんがお茶を出してくれ、それを皆でいただいているとエイミー嬢が駆けて戻ってきた。
「授業料含め、お受け取りください!」
そう言ってテーブルに置かれたのは金貨ではなく白金貨だった……
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