第155話 マイナーなのには訳がある

 翌日、ゆっくりと朝食を取り、朝の三の鐘が鳴る頃に出発。目指すは街の北側にある教会と大聖堂。道順はまあ……ディーとクロスケに任せれば大丈夫だと思う。


「やっぱり人多いね」


「うむ、活気があるな」


 道がどこも微妙な幅なので、それなりに人が歩いてるだけでも賑わってる感がすごい。

 私たちの宿は東側で、主に交易商が使うような宿が立ち並んでいる場所。道端でそれっぽいおじさんたちが商売の話をしていて「なんかプロっぽいなあ」と感心してしまう。


「ワフ」


「ん、行きましょうか。道順はディーお願いね」


「任せてくれ」


 ディーがそう答えると、ふわっとした風が私たちを取り巻いて抜けていく。ああ、風の精霊に案内してもらってるのね。それずるくない?


 エルフ、ドワーフ、人間(魔術士)、狼と並んで歩く様は、この辺りではさすがに少し目立つのかな。割と見られてる視線を感じる。まあ、後を付け回されたりしないかだけ注意しよう……


 宿からまっすぐ北側、教会の入り口へと進めるわけではなく、適度に曲がったり登ったり降りたりを繰り返す。これは城攻めしづらいように道を迷路にしています的なやつなの?


「そこを右に曲がれば教会の門が見えるはずだ」


 その言葉に皆が少し早足になり……


「おおー!」


「広っ!」


 思わず声が出てしまう。

 今までの二階建て、三階建てが並んだ場所から一気に視界が開け、目の前にあるのは大きな半円状の広場。その奥にかなり大きい門が開かれている。

 広場には出店のようなものまであって、なかなかに食欲をそそる香りが……


「あれが入り口なんだ」


「のようだな。だが、そこからさらに北東へと進まないと大聖堂は見えてこないらしい」


 そう言われると確かに、教会っぽい建物が門の向こうには見えない。

 門の向こうに見えるのは自然公園って感じで……なんかこう前世にもあった参道っぽい感じがする。有名な神社仏閣はだいたい、そういう参道を抜けると本殿みたいな。


「入るのにお金いるんだっけ?」


「うん。一人大銅貨一枚ぐらいらしいけど、全員で銀貨一枚でいいよね?」


「うむ、いいんじゃないか」


「賛成!」


「ワフッ!」


 滅多に来られない場所だし、教会なら多めに払ってもいいかなと。

 この間、馬車のトラブルを助けてあげた時にもらった銀貨が確かここに……


「ん? あれ?」


「どうしたの?」


 取り出した銀貨、なんか違う気がする……


「ごめん、ルル。銀貨一枚出してくれる?」


「うん。っしょっと、はい」


 それを受け取って、二つを見比べると刻まれてる模様が明らかに違う。なんで、あの時気づかなかったんだろ……


「ルル、ディー、この銀貨の模様知ってる? 昔のものだったりするのかな?」


 私はそれぞれを手に乗せて差し出すと、二人は穴が開くかのようにそれを見つめる。

 が、


「うーむ、わからん。エルフはあまり貨幣を扱わないしな……」


「ボクも全然かな。こんな銀貨見たの初めて」


 これは騙されたってやつなのかな? いや、でも、ちゃんと銀なんだよね。サイズも重さも同じだし。うーん、謎……


「まあいいや。このことは宿に戻ってからで! さっ、行きましょ!」


 宿の部屋に戻ってから鑑定魔法でも掛けることにしましょ。


***


 林の間に通っている道は、同じように大聖堂に向かう人が結構いるんだけど、道は石畳の道と砂利道の二つがある。

 お供を連れた貴族風の人たちは、ちょっと高い位置にある整った石畳をゆっくりと進んでいる。私たちや街の人は普通に下の砂利道をガヤガヤと歩いているので気が楽だ。

 まあ、ルルのことを考えたら石畳の方を歩くのが正解な気もするけど、追い抜きして良いやら悪いやらわからないしね。


 道は緩く右へと曲がっていて、どこまで続くのかなと思った頃に、ぱあっと視界が開けた。

 左右の林は芝生へと変わり、そこでは子供たちが遊んでいる。そして正面に見えるのが……


「大聖堂でっかい!」


「すごい広さだな。高さはベルグの王都の教会よりも低いぐらいだが幅が……」


「それより、手前にある池? そっちにもビックリだよ」


 横に広い大聖堂の前に同じサイズの池、いやもう湖っていうレベルのがあるんだけど、大聖堂が逆さに映っていて……平等院鳳凰堂だっけ?


 道は湖に当たったところで左へ折れていて、時計回り(この世界に時計ないけど!)に大聖堂へと近づくようだ。

 湖面の上には水鳥が気持ち良さそうに泳いでいる。あれは前にシルキーに聞いたリバーグースとかいう鳥なのかな? まあ、ここで捕まえるわけにはいかないけど。


 ぐるっと湖を迂回して大聖堂の入り口に到着。

 正面入り口前に来ると改めてその広さに驚く。首を左右に振り切ってやっと端まで見れる件。


「入ろ!」


 ルルがそわそわしてるので、さくっと中へ。

 まず私たちを迎えたのは……


「おー!」


「えーっと、これは紅緋べにひ神様だっけ」


「ああ、炎と肉体を司る女神だな」


 私の三倍ほどある大きさの女神像。短髪で胸もお尻もボリューム満点だが、ポーズはなんか仁王像っぽい。まあ炎を司るぐらいだし、荒っぽい女神様なんだろうと勝手に思っておく。

 それにしても短髪の女神って珍しいよね。……なんとなくルルに似てなくもないな。

 前の人たちは跪かずに手を組んで黙礼していたので、私たちもそれに習う。

 順路があるようで、そのまま左前に進んでいくと、次に見えたのが……


翡翠ひすい神様だね」


「うむ」


 大きさはさっきの紅緋べにひ神様と同じぐらいだけど、切り株に座っているので高さは半分ぐらい?

 草花や動物に囲まれた姿は自然を司る女神にふさわしい感じだ。ディーに似てるかも? というかエルフに似てるのかな。エルフが翡翠ひすい神様を信仰する理由もわかる気がする。

 順路は今度は右前へ。その先に現れたのは……


「うわー、ボク、蒼空そうくう神様って初めて見たよ」


「ああ、私もだ」


「私も当然そうだね」


 ノティアの神殿には月白げっぱく神様の像が中央に。で、脇に紅緋べにひ神様の像もあって、ロッソさんたち鍛治をするドワーフさんたちのためらしい。

 ベルグの神殿も月白げっぱく神様の像が中央。その隣に翡翠ひすい神様の像があって、狩猟や農耕を生業とする人たちのためらしい。ソフィアさんが毎週通ってたとか。

 リュケリオンもラシャードの街も似たような感じだったんだけど、この蒼空そうくう神様の像だけは無かった。というか、翼が生えてるのはまあ良しとしてですね……


『ミシャ、蒼空そうくう神様の手の上にある丸いの何か知ってたりする?』


 ルルが冴えてるのか小声で聞いてきたので頷いておくだけにする。

 蒼空そうくう神様がお腹の前、両手を掬うようにしたその手のひらの上に浮いている丸い球。おそらくはこの星なんだろうと思う。

 道理で重力魔法に制限が掛かるわけだよ……

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