第152話 プルリクエスト

「え?」


 目の前にさっき見た水底のダンジョンコアが……けど、息は出来てるし水中じゃないよね?


「ミシャ、上だ」


 とディーが天井を見ているので……おおー!


「さっきの場所だ!」


 ルルの言う通りで、つまり、さっきの場所の真下に空間があるっぽい。

 というか、あの彩神像の泉っぽいものは宙に浮いてるように見えるんだけど……

 ダンジョンの魔法装置か何か?


「えーっと……」


 ざっと見回すとさっきいた上の部屋と同じ広さ。違うのは彩神様さいしんさまの像と泉がある場所にダンジョンコアが鎮座しているぐらい。


『じゃ、パスワードの変更を』


『了解しました。まず現在のパスワードを入力してください』


 ということで、さくっとパスワード変更完了。


『えーっと、ここってどういうダンジョンなの?』


『回答します。私は水資源管理ダンジョン施設。管理番号D0016です』


 は? 水資源管理??


『水資源管理って……この上にある泉みたいなの?』


『回答します。そこも管理の一部ではありますが、主目的は本ダンジョン南東に位置する渓谷での貯水管理になります』


 ん? 渓谷で貯水? あっ!!


『あなた、ダム管理のダンジョンなの!?』


『回答します。厳密にはダムとは言えませんが、類似した機能を有しております』


 厳密には違うってどういうことなんだろ?

 それにしても、ここの住人たちは知らないよね、これ。古代文明の遺産か、創造主クリエイターのサービスなのか……


「ミシャ、どう?」


「あ、うん」


『ちょっと待っててくれる?』


『了解しました』


 別に断らなくてもいい気がしたけど、やっぱり言葉を話す相手だと気遣ってしまう。

 さて、ダムというものの存在をルルとディーにどう説明したもんだろう。


 ………

 ……

 …


「つまり、谷を使って大きな貯水用の池を作っていて、それをこのダンジョンが管理しているということか?」


「うん、だいたい合ってる。でも、多分それがすっごい大きいと思う」


 割と察しのいいルルも首を傾げている。まあ、想像しづらいよね……

 あ、そうだ。管理してるっていうぐらいだから、今の状況は見れるはず?


『その場所の今の状況を映し出せたりする?』


『回答します。現在の状況を投影することはできませんが、監視所であれば目視可能です』


 は? 監視所って……

 いや、そういえば前世でもダムって管理事務所みたいなのとは別に監視所みたいなのもあったかも? うーん、そこへ行けるとして……


『監視所って危ない場所だったりしないよね? ここに戻れるよね?』


『回答します。この部屋と似た構造になっており危険はありません。また、この部屋へと帰還することが可能です』


 ふむふむ、そういうことなら見てみたいかな。

 またちょっとダンジョンコアには待ってもらって、ルルとディー、クロスケにも説明する。


「行きたい!」


「ワフッ!」


 まあ、二人はそうだよね。で、ディーは、


「ミシャのことだから確認済みだろうとは思うが、危険はないのだな?」


「うん、ここと同じような部屋だって」


「了解した。では、私も行こうじゃないか」


 優秀モードのようで助かります。

 というわけで、念のため、また腕を持ってもらって、手はクロスケの頭に。


『じゃ、監視所へお願い』


『了解しました』


***


 ふっとした瞬間に視界が一変する。

 そして、眼下に広がるのは大自然。大渓谷いっぱいに満たされた水。

 っていうか、部屋の壁の一辺が丸々無いんですけど!


「すごーい!」


「ちょっ! 危ないって!」


 その壁がない方へと前進するルルを思わず引き留める。

 間違って転落したらどうするの!?


『ちょっと! 壁も手すりもないって危険だと思うんだけど?』


 と思わずダンジョンコアに怒ったら、


『回答します。展望可能部分は硬質クリスタルで覆われていますので、転落の心配はありません』


 えっ? すごく透けて見えてるけどガラス……じゃなかった、硬質クリスタルなんだ。


『ごめんなさい』


『回答します。謝罪は不要です。この状態には問題があると理解しました。修正を開始します……修正完了しました』


 と硬質ガラスの前に鉄柵っぽいものが作られた。いや、これステンレス? 万能だなあ、この水資源管理ダンジョン……


「おお、ミシャ、すごい!」


「いやいや、それ作ったの私じゃなくてダンジョンコアだから。で、その手すりの向こうは……ガラスだから手とかぶつけないように気をつけてね?」


「なんと、こんな大きくて透明なものが……」


 硬質クリスタルって説明するの面倒だから手を抜きました。

 こっちの世界、大きな板ガラスの製法がまだないみたいで、窓ガラスとかも切り出し一メートルぐらいが限界みたいなんだよね。基本くすんでるガラスだし……


「うわっ! 高い!」


 手すりを掴んで下を覗き込んだルルがそんな声をあげる。

 まあ、監視所だし、高いところにあるんだろうと思って、私も近づいて見てみると……


「怖っ!」


 この部屋、断崖絶壁をくり抜いて作られてるっぽい。この感覚、スカイツリーを思い出すなあ。


「ワフ?」


「ん、クロスケどうしたの? ってディー!?」


 手すりに捕まり、ペタンと座り込んでいるディー。

 あ、ひょっとして……


「高いところ苦手だった?」


「ず、ずまん。流石にこの高さは腰が……」


 あっさりと涙目残念モードに変わってしまったディー。

 怖いと思うよ、実際。この世界の人たちって、高いって言っても三階ぐらいだもんね。


「無理しなくていいからね? 部屋の真ん中にいていいから」


「そ、そうさせてもらう……」


 立てずにそのままずるずると後ずさっていく。


「ワフ……」


 こらこら、クロスケ。そんな目で見るんじゃありません。

 さて、そっちはともかく、視線を改めて大渓谷全体を一望する。うん、すごい。


『水は貯めてるだけ? どこかに流れてないの?』


『回答します。向かって右側の端をご覧ください。一部の水はそこよりメーヌ川と呼称される河川へと流れ込んでいます』


 なんか展望アナウンスな答えが返ってきたのでそっちを見ると……


「すっごい! ルル! ほら! あれあれ!」


「わあっ! 滝だ!」


 ここから見ると小ぶりに見えるけど、実際に近くで見ると大瀑布ってやつじゃないかな?

 あー、昔、社員旅行で行った華厳の滝を思い出すなあ……


『じゃ、あの滝から流れる水の量を調整してるの?』


『回答します。あの滝の部分だけではなく、北側の地下水脈へと流れ込む量なども本ダンジョンにて管理されております』


 どんだけ優秀なの、このダンジョン……

 ルルとディーにざっくり説明し、二人とも「へー」とか「ほー」とかの返事なので、そういう部分にはあんまり興味はなさげ。

 こういうのって理系だとワクテカなんだけどな……


『そういえば、困ってることとかはない? 可能な範囲で対処するけど』


『回答します。現状では問題点などはありません』


 よしよし。じゃ、ディーが可哀想なので帰ることにしましょうか……

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