第151話 スタッシュ
「うーん、あいつらだけだったっぽいね」
「ここは奴らの居住区だったようだな……」
ディーが見下ろした先には散乱する野菜、農具っぽいもの、その他雑貨?
まあ、畑泥棒したりしてたんだろうなあ、この感じだと。
「これどうするの?」
「野菜は汚そうだし放置かな? ほっとけば土に還ると思うし。農具とか雑貨は帰りに回収しましょ。多分、盗られた人がいると思うから」
田舎育ちとしては畑泥棒の時点でギルティなので、
農具なんかはもう新しいのを買ってるかもしれないけど、予備にするなり、鋳潰すなり利用方法はあると思う。
「じゃ、帰りで!」
というわけで、放置して前進。
けど、特に分岐や部屋があったりもせず……
「まあ、おばさまもダンジョン自体は真っ直ぐ進んで、突き当たりに部屋があるだけだと言っていたからな」
「うーん、ダンジョンなのかなあ、これ」
ラシャードのリーワースの廃坑ダンジョンも、ベルグのゲーティアと転移で繋がる流通施設ってだけだったし、ここも単に鍾乳洞が神秘的だからダンジョンと間違われたとか?
「お! あそこが行き止まりの部屋っぽいよ!」
ルルが指差す先はここまでと違って明るく光が漏れている。何かいるかも?
「ディー、何かいるか調べられる?」
「うむ、風の精霊よ」
すぅっと爽やかな風が私たちを横切り、どうやら先の部屋へと行ったのかな? 光の精霊といい、なんだかディーの精霊魔法がずいぶん上達してるような……
「中には何もいないそうだ」
「よし、進もう!」
「ワフッ!」
ルルとクロスケがそう意気込み、でも慎重に前進する。
部屋の入り口からクロスケが中を覗き込んで……振り返って首をふりふり。魔物とかはいなさそう。
「奥の方に石像があるよ」
ルルが左側の方を覗き込んでそう伝えてくれる。石像……ゴーレムとかガーゴイルとかだとやだなあ。
「怖そうな魔物の石像だったり?」
「ううん。多分、
「なーんだ。じゃ、大丈夫そうだし、私たちも入りましょ」
入った部屋は天井が薄らと光っていて、左手奥中央にルルが見た石像があった。姿形からして
その足元は噴水の池のようになっており、綺麗な水で満たされてるんだけど、時々、天井から落ちる水滴が、計算し尽くされたように見事な波紋を描いては消えていく。
「なんだかすごく神聖な場所っぽいんだけど……」
「うん、なんか教会にいるみたいだね」
今までとは違った空気感っていうのかな。透明感があって気が引き締まる感じ。
「これは白銀の乙女の方々によるものなのだろうか?」
うーん……どうだろ?
確かにマルリーさんたち白銀の乙女は
「ねえ、ミシャ。この水の下に何かあるのが見えるんだけど」
「え?」
目を凝らして見てみると……って波紋で見づらい!
ぽたぽたを途中で止めてみようかと思ったけど、落ちてくる場所が予測しづらくて、完璧に止めるのは無理だよね。
「ディー、この波紋って静めることはできるかな?」
「ふむ、任せておけ。水の精霊よ」
「おー、すごい!」
ホントすごい。水滴がそのままスルッと水面に沈んでいく感じで気持ち悪いぐらい。
で、改めて水底を眺めてみると……
「あ、ダンジョンコアだ……」
結構な水深がありそうな感じの水底に白い球体が沈んでいる。
よく見ると台座もあるっぽいけど……どういう設置なんだか、これ。
「話せないの?」
「ん、そうだね。ちょっと待って」
頭の中でモードを切り替え、日本語を意識して声を出す。
『もしもし? 聞こえます? ダンジョンコア?』
返事がない。ただの……このダンジョンコアって稼働してるのかな?
「ダメ?」
「うーん、返事がないね。今までは返事があったんだけどなあ」
「私が水の精霊で水面を抑えているからだろうか?」
あー、確かにそれが変に作用してる可能性もあるかも? 振動を抑えてるってことは、音が届いてない可能性もあるかな。
いや、それなら……
「ディー、この水って別に毒だったりしないよね?」
「ああ、それはないな。毒性があるような水には水の精霊はいないからな」
へー、そういうものなんだ。じゃ、お酒とかにもいないのかな? いやいや、そうじゃなくて、ただの水なら手っ取り早いのは……
「ん、冷たくて気持ちいいね」
右手をそっと水につけてみる。
あれ? ノティアの時は幻影の壁に手をついただけで反応があったんだけどな。
うーん……
『もしも〜し? ダンジョンコア? 聞こえてる?』
『報告します。管理者権限アクセスを確認。言語コードjaを認識。パスワードを入力してください』
来た! さて例のでここも通るかな?
『パスワード』
『報告します。入力を確認。認証成功しました』
通って嬉しい反面、どこのダンジョンもこれなのかと思うとげっそりする。この世界にセキュリティーの概念ってないの?
まあ、それはともかくとして……
『えーっと、ログインの必要があるのかな?』
『回答します。そのまま水に体の一部が触れている状態でログインを実行してください。管理室へと転送されます』
む、それだと私だけ飛んじゃって、またルルたちが大騒ぎすることになるよね……
『私以外の人間は連れて行けないの?』
『回答します。管理者への身体的接触があれば同行を許可できます』
なんだ、スレーデンでフェリア様とクロスケを抱えた時と同じなのね。じゃあ、さっそく……あ、待った待った。
『ここに戻って来れるんだよね?』
『回答します。管理室からはログアウトを伝えることで、ログイン中の管理者および同行者がログアウトし、この部屋の中央へと転送されます』
おっけおっけ。みんなで行けるのなら行っておきたい。
どう考えても、このダンジョンは今まで出会ったのと違う別のタイプのダンジョンだし。
「ルシウスの塔の時みたいに、転送して管理室に行けるって」
「やった!」
「でも、私に触れてないといけないし、私は水に手をつけてないとダメだから……」
右手は水に突っ込んでるので、左腕を差し出してルルとディーに掴んでもらい、左手はクロスケの頭に乗せる。
うん、これで大丈夫かな? ま、ダメなら戻って来ればいっか。
「じゃ、行くけどいい?」
「うん!」
「ああ!」
「ワフッ!」
準備ヨシ!
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