第149話 コミットログ

 この世界、明確な国境線ってあんまりないらしいんだけど、ラシャードとウォルーストはそれがわかりやすくある。それはこの目の前にある大きな川。


「この川を渡った先はもうウォルーストだな」


 ディーの言う通り、この川の南がラシャード、北がウォルーストということになっているそうだ。


「すごい広い川だね!」


「だね。ノティアの十倍は川幅ありそう」


 前世なら一級河川とか呼ばれるレベルの広い川。そこに石造りの広い橋が二本並んで掛けられている。川下にあるのがウォルースト行き、川上にあるのがラシャード行きとなっていて、左側通行が守られているらしい。

 橋のたもとには衛兵さんが立っていて、間違えないようにとか揉め事が起きないようにとか見張ってるっぽい。すごいね。


「ミシャ、あそこに石碑があるぞ」


 ディーが指した先、道を左に少し外れたところにわかりやすい石碑があった。

 どれどれ……


「メーヌ大橋……この橋作ったのってリュケリオン様なんだ」


「ホントだ!」


「なるほど。さすがは土の賢者ということか」


 うん、納得感しかなかった。というかすごいね。この橋一本を一月で作ったらしい。

 私に同じことができるかと言われると微妙。多分、設計図があれば作れるだろうけど、そうでなかったら、大水で流されるようななんちゃって橋しか作れないと思う……

 実際、何度か大水はあったらしいけど、壊れることなく在り続けているらしい。うん、やっぱりすごい。


「さて、渡りましょ。今日はオウマの街に早めについて、観光する予定だしね」


「はーい」


「そうだな」


「ワフワフ」


***


 外から見るだけでも、オウマの街もなかなか大きい感じ。ノティアと同じくらい? ラシャードとの国境ということで、宿は豊富そう。


「おー、ベルグからとは珍しいね。女の子の宿は東側にある白銀のあかり亭がいいよ」


「ど、どうも……」


 白銀のあかり亭? 私たちは顔を見合わす。

 白銀の乙女の五人、ヨーコさんは他界してるけど、他の四人はノティア、ベルグ、リュケリオン、ラシーンにいる。実は幻の六人目がいるとか?


「マルリーさんたちにもう一人いたのかな?」


「さすがにそれはないと思うのだが……」


「まあ、せっかくだしそこにしましょうか」


 ただの偶然だとは思うものの、人の良さそうな衛兵さんに勧められたそこへと向かう。

 街の南北に二車線の大通りがあって、その左右にはいろんな店が並んでいて壮観。とはいえ、小売りというよりは問屋街なのかな? まあ、貿易の要衝地だし、そんなものかも。


「ワフッ!」


 っと、クロスケが「こっち」って言ってるみたいなので右へと折れる。確かに宿屋街っぽい。

 私たちはおのぼりさん状態でキョロキョロしながら歩き、ようやく白銀のあかり亭を見つけた。こじんまりした二階建てで見た目はシンプルだけど清潔感がある。


「すいませーん! 今晩泊まりたいんだけど、空いてますか?」


 時間は昼の二の鐘を過ぎた頃。前世だとチェックインにはかなり早い時間だけど……


「はい、いらっしゃい! あら、お嬢ちゃんたち三人だけなの?」


「ワフッ!」


 そう驚いた女将さんらしきおばさんにクロスケが抗議する。

 すると、おばさんは目を輝かせて小走りに近づくと、クロスケをもふり始めた。


「え、えーっと……」


「ああ、ごめんなさいね! 昔飼ってたロッキーに似てたもんだからついねえ。お嬢ちゃんたち三人とこの子でいいのかい?」


「はい!」


「じゃ、いらっしゃい」


 ルルの答えにおばさんは嬉しそうに部屋を案内してくれた。


***


「しかし、この街もラシャードとの中継地点なのだな」


「国境手前のルズベリーもこんな感じだったね」


 宿を取れたのでちょっと街をうろうろしてみたけど、これといって観光スポットも無く。

 一応、各種ギルドとか教会とかはあったぐらい? 強いて挙げれば、街の南北にある馬車の溜まり場みたいなところがすごかったです……


「明日はエリーズって街だっけ?」


「うん、でも、馬車は通り過ぎる街っていう話だから……」


 まあ、特に観光スポットもないかなと思う。

 東側に広がる小麦畑も大きく、ウォルーストの穀物庫って言われてるらしいので、のどかな街なんじゃないかな。


「お嬢ちゃんたちは都の方へ行くのかい?」


「あ、はい」


「お仕事?」


「いえ、観光です。この辺って何か見るとこあります?」


 夕食後のお茶を持ってきてくれた女将さんに聞いてみる。こういうのは住んでる人に聞いた方が早そうだし。


「急がないんだったら、ここから東にコーマって小さい村があるから行ってみるといいよ。そこにはコーマの遺跡っていう変な洞窟があるからね」


「遺跡? ダンジョンなの?」


「昔は魔物が住んでるダンジョンだったらしいけど、お嬢ちゃんたちみたいな子が来て、魔物を全部倒してくれたって話だよ」


 は? それってもしや……


「白銀の乙女?」


「そうそう、よく知ってるね! うちの店もそれにあやかってつけた名前なんだよ!」


 そ、そうでしたかー……

 なんでも女将さんはその村の出身らしい。この街から行商に来てた旦那さんを捕まえて、ここに店を構えているそうだ。


「その洞窟って、ボクたち入れるかな?」


「お嬢ちゃんたちが傭兵ギルドのギルドカード持ってるなら入れるはずだよ。村に共用ギルド詰所があるから、そこで許可をもらえたらだけどね」


 女将さんはそう言って、クロスケをひと撫でし、クロスケ用のお水を置いてくれる。

 そのコーマという村までは鐘三つぐらいで行けるらしい。でも、行ってダンジョンに潜るとなると日帰りは無理そうなんだよね……


「ミシャ!」


 うん、知ってた。ルルは行きたがるよね。


「まあ、行ってみましょうか」


「この宿のことを言えばいいよ。ま、そんなことがなくても、みな優しいけどね!」


 女将さんはそう言って笑うと厨房へと去っていった。


「むふふ、楽しみ!」


「白銀の乙女の足取りを追うわけだな」


 あー、そう考えるとなかなか面白い気がする。そいや、ヨーコさんの日記にこの辺りのことは書かれてるのかな? いや、ヨーコさんが合流する前かも?


「しかし、洞窟と言っていたが、ノティアのダンジョンのような場所なのだろうか?」


「うーん、ちょっと違うんじゃないかな。それだとマルリーさんたちが魔物を駆除したとしても、また湧いてくるだろうし……」


「ふむ。だとすると、また別の種類のダンジョンということか」


「じゃ、ミシャも楽しめそうだね!」


 ううっ、そう言われると……

 ま、まあ? 今まで出会ったタイプのダンジョンじゃないと嬉しいかも?

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