防衛大国ウォルースト

白銀の乙女をフォーク

第147話 ステージング

「よっと」


 降り立ったのはカルデラ屋敷の中庭。

 ルルが米袋を背負ってたり、ディーが干物やら海苔やらが入った袋を背負ってたり、私もいろいろ背負ってたりと……ちょっと買いすぎたかも。


 昆布とわかめが手に入ったのが大きい。一応、両方とも海苔と同じ扱いなんだけど、あまり食べる人がいないらしく店売りとかしてないそうだ。漁師さんに声を掛けて良かった……


「来たよ!」


「皆様、ようこそいらっしゃいませ」


「うん、ありがと。ロゼお姉様はいる?」


「いえ、しばらくはリュケリオンで真面目にお仕事をされるようです」


 そりゃまあそうだよね。スレーデンの遺跡のダンジョンの調査ぐらいは終わらせてくれると信じておこう。


「何かお伝えしておくことはありますか?」


「うーん、ないかな。まあ、北に、ウォルーストに旅に出るからとだけ伝えておいて」


「かしこまりました」


 そいや、最初に分かれた時に「薬を作ってる」とか言ってたけど、あれはどうなったんだろう? 聞くのすっかり忘れてた……


「今日はお世話になるつもりだけど問題ない?」


「はい。皆様には好きな時に好きなようにと言われておりますので」


 良かった。家人がいないのに勝手するのもどうかと思ったけど問題なさそうね。


「に、荷物を下ろしていいだろうか?」


「ああ! ごめんごめん!」


 ルルは筋力があるからなのか身体強化なのか平気だし、私は重力を変えるというズルをしてるんだけど、ディーは重いよね。街を出る時に衛兵さんにちょっと心配された量は……買いすぎたかも?


 買ってきた米とかは今日の分を取り置いてから自宅の方へと転送。向こうでシルキーがいいように保管してくれるはず。

 あ、そういえば……


「糠床任せっきりだったけど……どうなってる?」


「一応、ご指示通りにしておりましたが……」


 微妙な顔をされた。怒ってないところを見るとカビてはいないと思う。見た目がアレなだけで。

 後で確認しがてら昆布を足しておこう……


 ディーはここの庭と湖の周りを探索するそうだ。シルキー(姉)についでに鳥か兎かを採ってきて欲しいと頼まれていた。一人だと心配なのでクロスケにも同行してもらう。

 私はロゼお姉様の書斎に入らせてもらって魔法についての本をあさる。

 ルルが一緒についてきて退屈しないかなと思ったが、本棚から身体強化魔法の本を引っ張ってきて読んでいた。意外というほどでもないけど、ちゃんと真面目に本読むよね。


「あ、これだ」


 思わず声に出してしまった本、それは『結界魔法と魔素構造』という名前。

 フェリア様からもらった結界魔法。どういう結界を張れるかはだいたいわかるんだけど、魔素がどういう原理で作用してるのかさっぱり。

 ノティアの森の館には参考になる本はなかったし、今さらフェリア様に聞くのもなーって思ってたから良かった。


 えーっと『遮音結界では魔素は音を吸収する層、遮断する層を作ることでそれを効率良く消している』と。なるほど、確か防音室とかもそうだったような……


 ………

 ……

 …


「ミシャ、質問していい?」


「あ、うん、何?」


「この本に書いてあった『作用反作用の法則』って何?」


 おっと、そんな話が書かれてるんだ。っていうか、物理法則ってこの世界だと経験則レベルだと思ってたんだけど、実はちゃんと調べてる人もいるの?


「えーっと、例えばルルが戦槌ウォーハンマーでゴーレムを殴ったときに、殴った方向に相手を押すのはわかるよね?」


「うんうん」


「でも、戦槌ウォーハンマーも殴った方向の反対側に押されるでしょ?」


「あー、そうだね。しっかり握ってないと飛んでっちゃう」


「それのことを『作用反作用の法則』っていうの」


 細かいところまであってるかどうかって言われると微妙だけど、概ね間違ってない……と思う。

 ルルがそれを聞いて……むむーと唸る。まあ、うん、難しいよね。

 どれどれとルルの見ていた本を覗いてみると、剣で切り掛かった時の力学的なことがアバウトというか適当に書かれていて、


『古代の魔術士はこれを「作用反作用の法則」と呼んだらしい』


 って書かれていた。

 は? えーっと……この本を書いてる本人もあまり理解してなさそうだよね。というか、


「ルル、なんでこのこと私に聞いたの?」


「だって、ミシャなら知ってそうかなーって」


 そのニコってするの可愛くてずるいんだけど……

 んー、それにしても『古代の魔術士』って『科学者』のことなのかな? 今までもどう考えても『前世の科学技術の名残』みたいなものがあったし。エレベータのアナウンスとか!


 まあいいや。全く違う世界じゃなかったことを喜んどこ……


 ………

 ……

 …


 夕食はシルキーにお任せしたらチーズリゾットが出てきた。ディーが狩ってきた雉子きじっぽい鳥を焼いたものも胡椒が効いててすごく美味しい。


「これはなんていう鳥なの?」


「フェズと呼ばれている鳥だな。ベルグの北側にある山の麓にもいるぞ。ノティアでも北の山間やまあいに行けばいるだろうな」


「あー、それで食べたことある気がしたんだ。でも、胡椒があるだけでこんなに違うんだね」


「そうだな。それに何か香草が隠し味に入ってる気がする……」


 ディーがなんか食レポタレントみたいなことを言い始める。そいや、前もそんなことあったっけ。エルフってそういうのに敏感なのかな?


 ………

 ……

 …


 翌日の朝食は炊き立てご飯のおにぎり、焼いた干物、浅漬け、わかめスープ。

 糠床は普通に大丈夫そうだったので、葉物野菜を漬けておいた。白菜の浅漬けみたいな感じになってたので問題なし。

 シルキー(姉)が「何が起こったの!?」みたいな反応して面白かった。ヨーコさん、漬物の話が書いてあったけど伝えてなかったのかな。

 で、後は味噌さえあれば味噌汁ができてパーフェクトだったんだけどなー。わかめスープは昆布と魚介出汁で作って、なかなかの味で好評だったのでまた作ろうと思う。


 さて、ここからラシャードの王都ラシーンまではそれなりに時間がかかる。廃坑を出たら下りになるので少し楽だろうけど、着くのは夕方前かな。


「じゃ、北から帰るときは、まずこっちに来るから」


「はい、皆様お気をつけて」


 ラシーン行ってケイさんに会い、一泊したら北へと向かう予定。

 ルルがケイさんに稽古をつけてもらうのは「帰りでいいかな」ってことになった。

 ルルのお父さんからの手紙も預かってるし、稽古で一月以上滞在ってのも申し訳ない。急ぐわけじゃないけど、穏やかな気候のうちに行っておきたいところ。


 というわけで、


「「「「いってきます!(ワフッ!)」」」」

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