第146話 詳細設計からのモジュール分割
リーシェン灯台の扉を魔法で施錠し街道へと向かう。
時間は昼の三の鐘が鳴ったころで、自宅から転移して来ただけなので疲れもない。
最初は朝出発しようかと思ったんだけど、朝の早くにリーシェンに入ろうとしたら不審がられるよねって気がついて良かった。
「ミシャってたまにそういうこと気づかないよね」
「だな。いつも細かいところまで気に掛けていると思っていたが」
二人に指摘されて気づいたのでぐうの音も出ません……話題を変えよ。
「それにしても、ロッソさんとナーシャさんに息子がいるなんて驚きだったよ」
「だよね! でも、ちょうど良かったじゃん」
ウォルーストの北にあるドワーフの国。そこにロッソさんとナーシャさんの息子さんがいるらしい。まあ、あれだけ仲の良い——どつき漫才的な意味で——夫婦なんだし、不思議な話でもないんだけど……
***
また旅に出るよということをエリカに伝えに行ったらお小遣いをもらった。金貨四枚。
「え? どういうこと?」
「ルルに稽古つけてもらっただろ? あれで二人とも妙に上達してな」
「おー! 良かったじゃん!」
その給金ということらしい。
なんだかんだ、二人で延べ十日ぐらい来てたし、それくらいの相場なのかな。ま、遠慮する額でもないのでもらっておこう。
「こいつが悔しがってたぜ」
とニヤニヤしながらシェリーさんを見るエリカ。
「あー……」
公務中は当然エリカの側を離れるわけにいかないし、もちろんお休みの日もあるんだろうけど、だからといって王都を出たりはしないよね。いつ緊急の呼び出しがあるかもわからないわけで。
「別に休みの日ぐらい、行きゃ良いのにな」
「そういう訳にはいきません」
ピシャリとシェリーさん。
なんか可哀想だし、今度の旅から戻ってきたらルルに出張させるかな。
でも、それやるとエリカも参戦しそうだしなあ……
「ま、大丈夫だとは思うが気をつけてな。土産話、楽しみにしてんぜ」
とまあ、エリカとの話はさくっと。
次にソフィアさんにも一応伝えて、あと質問を。
「秋に咲く花ってなんだっけ? ディーが庭にって言ってるんだけど」
「そうですね。やはり
すごっ! スラスラ出てくるとか女子力高っ!
ディーがふんふん頷いてるけどわかってるのかな。かなり不安だ……
で、その日はルルのお父さんの屋敷に泊まったんだけど、そこでさっきの重大発表をされた。
ルルのお母さん——ルーナさん——が、
「あなた。そういうことならあの話を……」
「う、む。これはロッソさん、ナーシャさんには内緒で頼むよ」
との前置きがあって二人の息子さん、ルルのお父さん——ワーゲイさん——からすれば従兄弟にあたる人がいることを告げられた。
もちろん、ルルも全く知らなかったらしい。ルルのお兄さん——ワイルさん——にも内緒でいてくれとのこと。
「えーっと、バレるとなんか問題が?」
「問題というわけでもないんだが、二人の息子であるローラッドは家を飛び出した身だからね」
えええー……
まあ、喧嘩したっていうか、鍛冶をやっていくにあたって、ロッソさんと意見が合わずに飛び出したらしい。その理由がベルグだと希少鉱石を扱うことが少ないからだそうで。
「とーさんはそのローラッドおじさんがウォルーストの北にいるの知ってるの?」
「ああ、年に一度ぐらいだけど、手紙をやり取りしてるからね」
年も近く従兄弟ということで仲も良かった二人は、離れてからもこっそり近況報告などの連絡を取り合っているそうだ。
で、そこに行くつもりならと手紙を書くので渡して欲しいということになった。
「じゃ、そのローラッドさんに会いに来たという名目なら問題なさそうですか?」
「そうだね。ただ、ディアナ君は少し用心した方がいい。かなり古い考えを持ったドワーフもいるかもしれない」
「わ、わかりました!」
んーむ、これは気をつけないとなのかな。
ディーはそんなとこで普通のエルフっぽい態度なんてしないだろうけど……
「ボクがついてるからだいじょーぶ!」
ルルがそう宣言するのを見て、ルルのご両親が私を見る。
できるだけ頑張らさせていただきます……
***
昼の四の鐘が鳴る頃、前に来た温泉があるお高い宿で問題なく部屋を取れた。
夕飯が出る前に一風呂。豪華な夕飯を食べて……すぐはちょっと辛いかな。まあ、寝る前にまた入りに行こう。
「明日は一日ぶらぶら?」
「うん。またお米買って、あと海苔でしょ。昆布も探したいし……」
そういえば魚醤はあるのかな? あれって魚を塩漬けして凝縮したものだよね? 自分で作ると確実に腐らせそうなんだよね。
山田舎だったから魚のことはよくわからない。どの魚を使えばいいのかもさっぱりだし。
「ミシャ、米の種の件を忘れないでくれ」
「あ、うん、そうだった」
米の種……米が稲の種なんだけどややこしいよね。
ソフィアさん曰く、特に種苗の輸入制限などはないって話。ただ、いきなりたくさん作るのは無理だろうし、ソフィアさんが自領で実験的に栽培してみたいということで、少し買って帰る予定。
まあ、今すぐ買って戻っても時期じゃないし、秋になってからでもいいんだけどね。
「ねえねえ。ミシャは北に行くのにこれって目的ないの?」
「ん、私? うーん、そうだなー……」
前世の世界に手紙を送る手掛かり、次元魔法については今のところ『運良く』狙い。
あとは単純に知らない土地の景色を楽しみたいって感じだけど、その他の目的……
「北が関係あるかはわからないけど、私が着てるローブの生地って古代魔導具? 魔導布? ともかく、それの手掛かりがあれば知りたいかも」
「そうなんだ!」
「それは初耳だな」
そいや、ロゼお姉様に聞いただけで話してなかったかな。ごめん。
でも、ディーがクラリティさんに譲ってもらったマントもそれっぽいんだよね。
そのことを話すと、ディーが「えええ!?」みたいな顔をする。いや、クラリティさんだってすごい人だったじゃん。
「エリカにローブ返すため?」
「まあ、それも確かにあるんだけど、ルルだってマントあった方が良くない? 身体魔法だって魔素を使うわけだし」
「欲しい! ミシャとお揃いのがいい!」
お揃いって。ルルが私みたいなローブ着たら、戦うときに邪魔になると思うんだけど……
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