第144話 アルゴリズムで勝利せよ
暑い時期が続いてる間は自宅でまったり。多少暑くても、魔法でどんと氷を出してタライにでも置いておけば涼しくなる。
シルキーのおかげで虫が入ってくることもないし、ディーのおかげで心地よい風が屋内を巡っているのも素晴らしい。
クロスケに新しい首輪——ペクなんとか——をもらった時に毛色変化の魔法を付与し直した。
その時に思い出したんだけど「これ、身体強化魔法じゃないよね?」と。確かシルキーから勧められた本の題名は『独学で学ぶ身体魔法』だったと思う。
身体魔法……確かに身体強化とは言ってない。実際には、元素魔法を使って見た目を変える魔法だったみたい。
まあ、それは良いんだけど……
「ミシャ、ボクの髪切ってー」
「え? 美容院とかないの?」
「びよういんって何?」
愕然としたんだけど、髪のお手入れというかヘアスタイリストみたいなのはなく、普通は親とか兄弟、もしくは教会でやってもらうらしい。
そいや、髪を切ったりって元々はお医者さんの仕事なんだったっけ? 赤と青と白のポールは動脈と静脈と包帯って本当なのかな? まあ、刃物を自分に向けられる以上、信頼される相手になるのは当然の流れかなとも思う。
こっちの世界に来てから奇抜な髪型——モヒカンとか——は確かに見なかったし、要するにナチュラルヘアーって感じだ。長い短いぐらいの差で、後は編み込んでるとかそういうの? 私、女子力が低いので……
「私、そういうの苦手だし……。あ、そうだ、シルキーお願いできる?」
「はい、かしこまりました」
この世界、ちゃんとハサミはあるんだよね。まあ、前世でもローマ時代ぐらい?からあったらしいけど……
中庭で椅子に座って後ろ髪をチョキチョキされてるルル。出会った頃は確かにもう少し短かった気がするね。
「やっぱり長くなると気になるの?」
「うん、首元がなんかムズムズする」
そんなことを話していると、シルキーがピタッとハサミを止めた。
「ミシャ様。サーラ様が来られたようです」
「了解。私が出るから続きお願い」
玄関の方に回ると、ちょうど門の前にいるサーラさんが見えた。また妙なポーズをして立っている……
「えーっと、どうも……」
「くっくっく、我のために冥府への門を開けよ!」
冥府じゃないよ! 楽園と書いてパラダイスだよ!
ともかく門を開けて中庭へとご案内。ルルがシルキーに髪を切ってもらっているのを見て、何か思い出したのか私を見る。
「あー、ヨーコは髪を切るのもできたんだよね」
「それはヨーコさんがすごいんであって、普通は出来ませんから」
看護師さんって髭剃ったりも出来たんだっけ? まあ、患者さんの身の回りの世話はほぼほぼ出来る感じだよね、多分。
そういう意味では、シルキーがそんな事までできるの? って感じなんだけど。
「もうサーラ殿が来られる時間だったか」
「ワフ〜」
庭の手入れに精を出していたディーとクロスケが戻ってくる。
ちょうどルルの散髪も終わって、まずはティータイムということになった。
「で、ミシャちゃん。私に水球当てられそうなの?」
「……お茶が終わったらお相手願います」
あれからいろいろと悩み、やっぱり「自分には複数の水球を同時に誘導操作するのは無理!」と言うことで発想の転換を図った。
それで思い出したのがゴーレムの操縦。あれに『目的地移動』と言うのがある。目印となる魔素を目的地に置くと、そこに向かって進むという便利機能。ゴーレムAIにはパスファインディングが組み込まれているあたりもすごい。
ちなみに『パスファインディング』っていうのは、字の通りで『道』を『探す』こと。ゲームとかでよく指定のポイントまで最短で移動する時に使われてる。
で、それを使えば目的の場所に対して魔素を自動で移動させることが出来るので、これで自分で一から操縦する手間を省こうという考え。今回使うのは障害物を避けるような賢いパスファインディングじゃなくてただの直線移動だけどね。
さて、うまく行くかな……
「くっくっく、戦いの
サーラさんがグイッとお茶を飲み干して立ち上がる。
ここは付き合ってあげるべきなのかな……
「今日こそ引導を渡してくれる!」
ルルとディーがキラキラした目で見てるのが辛い。やるんじゃなかった……
さて、距離を取ってサーラさんに対峙。
「ほい、いつでもいらっしゃい」
絶対の自信がある顔でそうどやられる。
サーラさんの場合、それも手の内っぽいから油断ならないんだよね。
「行きます」
《起動》《誘導水球》
良い名前が思いつかなかったので『誘導』ってつけちゃったけど、誘導ミサイルみたいな動きはしないです。単純に真っ直ぐ目標に向かうだけ。
「一個だけ?」
サーラさんが飛んできた水球を避ける……けど、
「うわっ!」
通り過ぎた水球が戻ってきてサーラさんを狙い、また避けられると反転して襲い掛かる。
この誘導水球、二点間を行ったり来たりする。当たるか魔素膜が尽きるまで。
「じゃ、増やしますね」
二個三個と水球を増やし、後は水球が目的とする二点を適当に移動させる。サーラさんを挟むように。
打った後の水球の面倒を見なくて良いし、適当に二点を動かしてれば四方八方から水球が飛んでくるようになる。それがサーラさんを狙ってなくても行動を制限するあたりもポイント。
シューティングゲームは苦手だったけど、弾幕アルゴリズムには興味がありました。
「ちょっ、これはキツいって!」
そんなこと言いながらもしっかり避けるサーラさん。
「増やしまーす」
さらに二個追加。
五個の水球が行ったり来たりする間を紙一重で避けてたサーラさんだけど、
「ちぇっ」
向かってきた水球を手刀で切って、それがはじける前に避けた!?
何それ……
「はい、終了ー」
「負けました……」
「切るってことは当たってたから引き分けね。ディオラとは違った攻め手で良かったよ」
サーラさんが拍手してくれ、つられてルルとディーも拍手してくれる。相手がサーラさんじゃなければ有効だと思うことにしよう。
「じゃ、これをルルちゃんが避けてね」
「えっ!? ボクがアレを避けるの?」
「最初からそういう話なんだもん。今の三個で避けられるようになったら、最後に見せたのを教えてあげよう」
そう言われたルルは初日のうちに二個は避けれるようになりました。
やっぱりすごいよ、ルル……
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