第143話 開封の儀は心がおどる
クロスケへのご褒美はもうちょっとかかるらしい。
なんかかなり気合いの入ったものが送られそうで心配ではあるんだけど、
「エリカ様にはもう少し市井にお金を回していただかないと……」
と伝えにきた女性騎士——この間来てたうちの一人——が言ってたから気にしないようにしよう。確かに着飾る感じでもないもんね、エリカって。
晩餐会とかも「たまにはやれ」とか言われてたとからしいし、普段から質素倹約という感じ? いや、趣味にお金がかからないタイプ?
「あとこれは個人的なお願いなのですが……」
なんかルルと手合わせしたいらしい。エリカの許可も「ルルがいいっつーんならいいぜ」ってことらしいので、
「ルルは?」
「いいよ!」
まあ、皇太子妃の近衛騎士だし、シェリーさんぐらいの強さはあるんだろうなー……一瞬でした。ルルの圧勝。
「そりゃ、マルリーやケイとやってたんだから当然でしょ。私が教えて、さらに動きも良くなってきたし」
とサーラさんのお言葉をいただく。
一応、彼女らもゼノンさんの教え子らしく、かつ、腕を見込まれて近衛騎士になってるわけだけど、実戦経験が圧倒的に違うもんね。
「鍛え直します……」
とか凹んでたので励ましておく。あなたの仕えてる皇太子妃様もルルと同じくらい強いですよ、と。シェリーさんはどうかな? やっぱりルルの方が強いよね。
ともかく、空いてる時に手合わせに来てもいいですよってことになった。ただ、シルキーを知ってる二人だけね。ここが目立つのはちょっと困るというか、正直めんどくさい。
そんなまったりした日々が二週間ほど続き、とうとうクロスケへのご褒美ができたとの連絡が入ったのだった。
***
呼ばれた日は生憎の雨模様だったが、エリカが馬車で迎えを出してくれたおかげで濡れることもなく。
「来たぞー!」
「おう、呼びつけてすまねーな」
いつものハイタッチはリビングで。
で、それは良いんだけど、
「やあ、見にきたよ」
とクラリティさんとマルス皇太子様が……
「かしこまらなくて良いですよ。ここでは親友の旦那ぐらいでお願いします」
「はーい」
ルルはそれで納得できるのが強い。まあ、私もディーも今さら感はあるので苦笑するだけで。普通の礼儀があれば大丈夫だと思っとこ。
さて、偉い人からご褒美をもらうからには、クロスケもちゃんとしないとね。
ということで、クロスケのスカーフと今の首輪を外す。当然、その金毛があらわになり……つよかっこいい姿に戻る。もちろんかわいい。
「やはり神々しい……」
一番喜んでるのがクラリティさん。エリカの結婚式の時も見てるはずだけど……クラリティさんもエルフだもんね。
「伯父貴、例のものを」
「あ、ああ、そうだね」
クラリティさんが冷静さを取り戻し、なかなか豪華な箱を一つ持ってくる。
それを開け、マルス皇太子様が取り出したのは……
「「「おおー!」」」
私たちは思わず声を上げる。
すごく手の込んだ細工がされた湾曲したプレート。手帳サイズのそれに彫り込まれているのは樹と狼と女神様。女神様はこれ
それに繋がるチェーンにも細工が施され、所々に小さいが緑色の宝石が埋め込まれている。まさかエメラルド?
なんだっけ、これ。古代エジプトの王様がつけてたアレに似てる。アレ……名前がわからない。ペクト……。ダメだ、出てこない。
「よし、クロスケ!」
「ワフッ!」
するするーと歩いて行って、くるっと振り向いてお座り。かしこかわいい。
エリカがしゃがみ込んでよしよしと頭を撫で、マルス皇太子様がその首輪というか、ペクトなんとかをつけてくれる。
「うわあ、かっこよすぎる……」
思わず声に出てしまう。ルルもディーもうんうんとうなずき、クラリティさんは満足そうだ。
あれ? ひょっとして……
「これ作ったのクラリティさんなんです?」
「うん、そうだよ。マルスからこの話を聞いた時に立候補したんだよ。是非やらせて欲しいってね。これを他人に、ましてやロッソに作られでもしたら、今度会った時に何を言われるか!」
隣でディーがうんうんと頷いている。エルフちょっとウィナーウルフ崇めすぎじゃないかな……
「ミシャ、クロスケのギルドカードを」
「あ、うん。どうするの、これ?」
ギルドカードというかドッグタグなんだけど、エリカはそれを受け取ると、掛けられたプレートの裏に収納スロットが!
「うわあ、そこまでしますか。うわあ……」
「ふふ、褒め言葉として受け取っておくよ」
クラリティさんニッコリ。もちろん褒め言葉ですけどね。
それにしても、かっこいいのは良いんだけど、このままだと目立ちすぎるよね、これ。
「ミシャ、スカーフをくれ」
「着けるの?」
「伯父貴が気合入れすぎたからな。目立つどころじゃねーだろ」
あ、うん、同意見です。良かった……
クロスケのスカーフは成長して小さく見えるようになっちゃったので、シルキーが一回り大きくしてくれた。キルティングっていうかパッチワークっていうか、そういうのなので一回り大きくしてもデザインが損なわれないのが素晴らしい。
「ああ、残念だけど、あれを見せびらかしても良いことは無さそうだしね」
しょんぼりクラリティさん。
それを見計らってなのか、マルス皇太子様が苦笑いしつつ、
「それでですね。その前の首輪をお譲りいただけませんか。師匠がそれを貰えるならタダで良いと……」
そこまでか! っていうか、ディーも「その手があったか!」みたいな顔しない!
まあ、不要というか持っててもしょうがないし……毛色変化の魔法付与だけは消しておこう。
「はい、じゃ、これを」
「ありがとう!」
クラリティさんはそれを受け取って小躍りする始末。やっぱり里から出るエルフは変人しかいないんだね……
***
その後、皆で豪華な夕食をご馳走になった後のティータイム。
リュケリオンの方だけど、結局、テランヌもヴァヌも折れたらしい。折れたというか、やはり公金横領の件で厭戦派が勢いづき、国内の安定のためにも折れざるをえなかった的な。
「ミシャを勧誘したおっさん、貴族位を剥奪されたらしいぜ」
「やった!」
エリカがめっちゃ嬉しそうにそんなことを話してくれ、思わず私もガッツポーズ。
いやー、ああいう輩って無駄にしぶといから良かった良かった。気がついたら別の会社で役員してました、とか普通にあったもんね……
「ところで、皆さんはまた旅に出られるおつもりですか?」
「うん! もう少しサーラさんから稽古つけてもらったらね!」
「あたしの近衛たちをもうちょい鍛えて欲しーんだがなー」
あの二人もちょくちょく来て稽古を受けてるし、そこそこ腕も上がったと思うんだけどね。
ただ、そろそろまた旅に出たいのも事実。ケイさんにお礼を言いに行きたいのもあるし。
「今はまだ暑いから、もう少しして暑さも和らいできたらかな」
「わーった。まあ、気を付けてくれよ」
エリカも止めても無駄だとわかってくれているようだし、次も何かいいお土産を持って帰らないとね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます