番外編:もしフラ 〜夢の続き〜

フラグは突然やってくる

【はじめに】

 この話は前話の馬車で寝落ちしたミシャの夢ですので、本編以外に興味のない方はスルーしてくださって結構です。(本編へと絡む予定はありません。今の所(^^;)


【今までのあらすじ?】

 真琴とのフラグが立った美沙はブラック企業での死亡転生を無事回避し、真琴の実家である佐藤建設に社内SEとして転職したのでした。


【登場人物】

山崎美沙:ミシャ

 佐藤建設総務部保守課課長。社内SEやってます。


佐藤真琴:ルル?

 佐藤建設会長の孫娘。美沙の同期でパートナー。


森由香里:ディアナ?

 保守課唯一の課員。派遣だったのを引き抜いた。


丸井麻里:マルリー?

 総務部部長。ゆるふわ永遠の十七歳。


————


 カラーンコローン♪ カラーンコローン♪


 お昼を告げるアナウンスが鳴って、総務の皆が一斉に席を立つ。


「美沙さん、お昼行きましょう」


「うん。今日はどこにしようかな」


 そんな選べるほどでもないんだけど、昨日は中華、一昨日は定食屋だったし、今日はイタリアンで良いかな。パスタ食べたい。

 というわけで、会社を出て小洒落た方の商店街へと歩いていると……


「引ったくりだ!」


 という叫び声が前方から聞こえて来て、あからさまに怪しいおっさんがこっちに向かって走ってくる。小脇には女性もののバッグを抱えてて、間違いなく犯人です。本当に……危ないこれ!


「真琴ちゃん!」


 巻き込まれて怪我でもしたら洒落にならないと思って、真琴ちゃんと脇に避けようとしたら……


「えっ? ちょっ!!」


 スッと前に歩み出た真琴ちゃんが、走って来た相手に正対する。


「どけぇ!」


「はっ!」


 おっさんが繰り出したパンチを絡めとった真琴ちゃんが、流れるようにそれを巻き取って関節を決め……


 ビシッ!


「うわー……」


 骨折れる音ってそんな感じなんだ。っていうか、強すぎない?


「えーっと、真琴ちゃん?」


「大丈夫ですよ。美沙さん、警察に連絡を」


「あ、うん、そうだね」


 慌てて一一○番して警察に事情を話していると、向こうから背の高いスーパーモデルっぽい美人さんが走って来た。


「おおっ! お前が捕まえたのか!?」


「ええ、あなたがこのバッグの持ち主ですか?」


「ああ、そうだ。助かったぜ!」


 めっちゃ美人なんだけど口調が酷い。と思ってたら、


 ゴスッ!


 尖ったパンプスで思い切り犯人の脇腹蹴ったんですけど……

 犯人はそれで白目剥いたようで、真琴ちゃんが立ち上がってスカートの汚れを払っている。


「真琴ちゃん、強いんだね……」


「おじいさまから合気道を習ってますので」


「マジかよ! すげーな!」


 結局、お昼ご飯どころではなくなり、午後は現場検証やら事情聴取やらいろいろあるそうで、公的休暇をもらうことになった。

 うん、由香里さん頑張って。そろそろ一人でもやれると思うから……


***


 そんなことがあった一週間後。

 総務部に急に真琴ちゃんのお爺ちゃん、つまり佐藤建設の会長が現れた。


「真琴! お前、六条のご令嬢といつ知り合いになったんじゃ!」


「会長ー、声が大きいですよー。うるさいですよー」


 相手が会長だろうが、言うことはちゃんと言う総務部部長、丸井麻里さん。永遠の十七歳。


「六条? うーん……。ああ、美沙さん。この間の引ったくりの!」


「え? 引ったくりの?」


「あのときの背の高いお姉さんですよ。すごい美人だった」


「あ、あーあー……。確か名刺もらった気がする」


 あの時は警察署でもらったから、すっかり忘れてた。確かバッグにしまったような……あった!

 そいや、名刺管理システムもそろそろ導入したいんだよね。クラウドサービスを使っても良いんだけど、個人情報が漏れた時に怖いから自社内で閉じてる方がいいよねえ……


「はい、これですね」


 改めて見ると、六条コーポレーションって書いてあるや。

 本人は受付嬢をやってるとか言ってて『まあ、美人だもんねー』とか思ってたんだけど。


「おお、確かに。六条のご令嬢、絵理香嬢じゃ……」


 名刺を持ってプルプル震えてる会長。

 でもまあ、それもわかる気もする。この県どころじゃないレベルの企業というか東証一部上場のゼネコンだもんね。

 犯人に追撃で蹴り食らわしてたけど、その程度で済むなら安かったのかもしれない。


「この間、引ったくりを捕まえたときの被害者が、その六条のご令嬢、絵理香さんだったというだけですね。まあ、知り合いといえば知り合いですけど」


 真琴ちゃんが努めて冷静にそう言っているが、警察署内で二人して盛り上がってたのを私は知っている。あの二人は感性が近い。つまり同類。


「その絵理香嬢がお前と山崎くんを食事にと」


「え? いつですか?」


「今日だそうだ。定時ごろに迎えの車を寄越すと」


 さすが天下の六条といったところなのかなあ。アポなしで来いっていうのもすごいけど、迎車まで出してくれるのね。


「はあ、断れそうにないですね。行きましょうか」


「ん、了解」


 今日は冷蔵庫に何も無くて、帰りにスーパー寄らないとだったし、ちょうど良いかな。

 いや、待って。なんかすっごい高いお店とかに連れて行かれるなら、ドレスコードの問題とかありそうなんだけど……


***


 迎えの車はリムジンでした。マジか。

 真琴ちゃんはさすがというか、ちゃんとイブニングドレスを持ってるようでそれを着てるんだけど、私にはリクルートスーツぐらいしかなく……


「美沙さん、似合ってます!」


 午後半休扱いで大きいスーツ量販店に行き、とりあえず恥ずかしくないレベルのカジュアルスーツを買いました。安物買うわけにもいかないので高いのを。くっころ。


 で、どこへ行くのかわからないけど、確かに六条の襟章をつけた運転士さんなので、有無を言わさず乗り込むしかない。これで誘拐されたら洒落にならないんだけどなあ。


 もうすぐ初夏っていう季節。夕日が沈み、辺りが暗くなった頃にリムジンは停車した。どこかのホテルの最上階みたいなのを想定してたんだけど……日本料亭だここ!


「うわぁ……。私、こういうとこ初めてなんだけど大丈夫なのかな?」


「料亭なら個室ですし、高級レストランよりもずっと気楽ですよ。さあ、行きましょう」


 真琴ちゃんがそう言いつつ私の腕をとる。

 うーん、政治家御用達の料亭って感じで、外からは「ここ何?」って感じだったけど、門を潜ると石畳に日本庭園がある感じ。石灯籠からの灯りでうっすらと照らされているのが『わびさび』ってやつなのかな……


 仲居さん(でいいんだっけ?)に先導されて石畳を進み、玄関もその人が開けてくれるというVIP待遇。中に入ると多分女将さんらしい人が正座して深々と頭を下げる。


「佐藤様、山崎様、いらっしゃいませ」


 うわーうわー、本物だー……

 私の心臓がバクバク言ってるんだけど、真琴ちゃんは慣れてる感じ。育ちの差かな。

 案内されるままに進み、中庭が見える縁側を一番奥まで進んだところで、


「こちらでございます」


 女将さんがまた正座してからスーッと障子を開ける。

 するとそこには、


「おう、来たな!」


 とても六条のご令嬢とは思えない口調。

 間違いなく引ったくりの被害者だった六条絵理香その人だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る