第140話 構築したから後はおまかせ

「ただいま!」


「おう! ご苦労だったな!」


 いつものハイタッチを交わす、ルルとエリカ。

 リュケリオンへの親善訪問という名目での外交交渉を終えた私たちは、まっすぐベルグ王都へと帰って来た。

 リュケリオンはこれからテランヌやヴァヌとやりあわないといけないんだろうけど、それに力を貸せるのは私たち個人ではなくて国単位でになる。

 私たちと入れ替わりで外交官が赴任したので、諸々の細かいすり合わせなんかがされるんだろう。


 シェリーさんに促されていつもの中庭の東屋へ。

 ちょっとした旅行気分だったルルとディー、クロスケは元気だけど、私は無事に役目を終えてベルグに帰って来たことでどっと疲れが……


「ミシャ、大丈夫?」


「うん、体はね。でも、しばらくは働きたくない。お屋敷帰ってごろごろするよ」


「ワフワフ」


 ああ、クロスケのもふもふ癒される……


「で、うまくいったんだよな?」


「うん、っていうか知ってるでしょ? あんなタイミングで外交官が来るんだし」


「ま、外から知れる範囲はな」


 悪びれもせずそう答えるエリカ。

 おそらく、街道の中間地点で待たせておいて、連絡が来たら即応って感じだったんだと思う。


「失敗したらどうするつもりだったの?」


「そりゃねーな。あたしはこう見えて、人を見る目があるしな」


 ルルもディーも納得するんじゃありません!

 まったくもう……


「ミシャ様、お茶をどうぞ。クッキーもありますので」


 シェリーさんが気を利かせてくれたのか、エリカよりも先に私にお茶を入れてくれる。ホント、よくできた主従関係だよね。


「ありがとうございます。じゃ、全部話しましょうか……」


 ………

 ……

 …


「なるほどな。あとは様子見てって線か」


「うん。大丈夫だと思うけど、テランヌとヴァヌがどう出るかは気をつけておいて欲しいかな」


「心配すんな。もう手は回してあんぜ」


 デスヨネー。

 両方がごねて、万一、リュケリオンが攻められるなんてことになると洒落にならない。

 が、そんなことにはならないよう、手を打ってるんだろう。


「どういうこと?」


「何年も国境紛争なんか続けてたら『人同士争って何になるんだよ』って、まともな奴なら言うだろうぜ」


 ああ、裏から厭戦派を推してるのね。

 捕虜交換がうまくいってないのも、それを後押しするだろうし、リュケリオンに手を出すどころじゃ無くなるか。


「魔物の脅威だって馬鹿にならないというのにな」


「だよねー」


 土地に対して人口が溢れているわけでもないのに、なんでだろうね、ホント……


「よし! 改めて礼を言うぜ。何か欲しいものはあるか?」


「うーん、既にいいお屋敷もらってるし、これもルルの公務のうちだと思うけど?」


「そうだね。ボクも今回はミシャに付いて行って魔晶石渡しただけだしなー」


「それを言うと私は何もしてないのだが……」


 ディーは涙目になるのをやめなさい。残念エルフになるから!


「ワフッ! ワフワフ!」


「ん? クロスケ何か欲しい? かっこいい首輪とか?」


「「「それだ!!」」」


「ワフン」


 確かにクロスケに何もあげてない気がする。いや、熊皮のラグは買ってあげたけど。

 エルフの里の防衛戦でも大活躍だったし、ここはクロスケをよりかっこかわいくすべきかも?


「じゃ、エリカ……」


「任せとけ! クロスケに似合う最高のやつを用意するぜ!」


 あ、うん、あなたもクロスケ大好きでしたね……


***


 夕食のお誘いも頂いたんだけど、今日はまず自宅に帰ることに。ご馳走はクロスケのご褒美をもらうときにしてもらいました……


「ミシャ、大丈夫?」


「ちょっと疲れたかなー」


「屋敷に戻るまで仮眠しているといい」


 ディーがそう言ってくれるが、妙に気が立っている感じがして寝付けそうにない。

 この感覚も懐かしいなあ。必死になって間に合わせてリリースして、ぐっすり寝たいんだけどユーザーが気になる感じ……違うかも……


「うん、眠くなったらね」


 馬車は王都を出てセラードへの道を南へと向かう。

 右手に見える太陽がもうそろそろ夕陽と呼べそうな位置まで降りつつあった。


「一仕事終えたし、またリーシェンに行こうか」


「え、いいの!?」


「ルルの出国禁止も解けたんだし、あそこは平和だし、ご飯も美味しいし……」


 リーシェンの灯台に転移すれば一瞬で行けるってのもいいよね。

 そうだ! 今度は昆布を探さないと! ひょっとしたら捨ててるのかもしれないし、漁師さんとかに聞いてみようかな。


「そういえばリュケリオンにケイ殿がいなかったが……」


「あ、そうだね。ラシャードに帰っちゃったのかな? また、ケイさんにも稽古付けてもらいたいなー」


 そういや、穴を塞いだ後に別れてそのままだった。ちゃんと挨拶もできてない。

 フェリア様が転移して来て一気にいろいろあったから、あそこでの調べ物もほとんど出来てないし、リーシェンの帰りに寄ろうかな。


「リーシェン行ってゆっくりした後、ラシーンに行ってケイさんに会い、そのままウォルーストに向かうというのはどうだろう?」


「いいね!」


 確かにわざわざ一旦戻ってこなくてもいいかも。


 そいや、ウォルーストの北にはドワーフの国があるんだっけ? 国っていうか自治領? 特に治安が悪い場所ではないと思うけど、みんなで行くのなら調べておいた方がいいかな。


 あとなんだっけ。ワイバーンだっけ? ウォルーストの北の山脈に住んでるとかなんとか……近いんじゃないの、それって。

 そういえば、こっちの世界にはドラゴンっているのかな。いるのなら、ちょっと見てみたい気がする。

 ドラゴンも知能が高い系の良いドラゴンなのか、魔物みたいなただ暴れるだけの悪いドラゴンなのかどっちだろ……


「ウォルーストってどんな国?」


「うーんとね、旧グラニア帝国とずっと戦ってたって習ったかな?」


「ふむ。それは例の黒神教徒と対立していたからなのか?」


「ううん、その前かららしいよ。国ができてからずーっと国を維持してるんだって」


 それはそれですごいなあ。


「あれ? ラシャードってウォルーストから流れて来た人がとか言ってなかったっけ?」


「そうだよ! 南側を開拓したいって人たちに国を作っていいよって話だったんだって」


 なんという太っ腹。普通は植民地化したりするんじゃないのかな? リーワースからは銀とか出てたわけだし。

 いや、現状の関係を考えると隷属させるよりも正しかったと見るべきなのかな。やっぱりちゃんと調べてから行った方がいいよね。

 クロスケのご褒美が用意されるまでしばらくあるだろうし……また王城の書庫へ行って……その辺りをちゃんと……調べて……

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