第138話 瑕疵責任と再発防止策
「都市の被害の方も早々に復旧されたようでなによりです」
私もそう外交辞令風に答える。
今回のことに関して、ルルもディーもゼノンさんも基本的に口を出さないことになっている。これは前もって決めていたこと。
「スレーデンの遺跡の崩落はこちらとしても予想外であった。街道方面にも多大なご迷惑をおかけしたことを、改めてお詫び申し上げる」
「謝罪はすでに受けておりますとマルス皇太子様からの伝言です。それよりも、原因についての調査が進んでいるようでしたら、是非、その結果をお聞かせください」
先に謝って
それに引っかかってズルズルしてしまうと、今回の目的がはぐらかされそうなのでスルー。
「う、む。ディオラ」
「は、はい!」
ディオラさんが慌てて手にしていた資料、ちゃんと紙にまとめてあるらしいそれを読み上げてくれた。
要点としては、
『地震自体の原因は不明。純粋に天災だと思われるが調査は続行中』
『スレーデンの遺跡が崩壊した原因はその地震だが、それにより魔物が外に出やすくなるような仕掛けが行われていた。それが何者によるのかは不明』
この二点。
何者によるのかは不明と言いつつも、黒神教徒の残党なりだろうという推測は私とフェリア様で共有している。おそらく他の皆もそうだろう。例の転送陣の件もあったしね……
「なるほど。それにしても、出てきた魔物が多かったと思うのですが?」
エルフの里に押し寄せたオークは五十体以上、ウルクとかいうのもいた。
そして、リュケリオンにも同数程度のゴブリンと、オーガまで押し寄せたと調べはついている。
いわゆる内偵済みってやつだけど、ベルグがすごいのかリュケリオンが甘いのか……
「ダンジョン内の魔物をあまり間引きできずにいたのは確かだな。それゆえ、多くの魔物が外に出てしまうこととなった」
フェリア様がそうあっさりと認める。
「なるほど。それで、今後はどうされるおつもりですか?」
「急ぎ、合議にて対処を検討するつもりだ……」
苦々しい顔をするフェリア様だが、こっちだって胃が痛いんですよ、ホント。
さて、じゃ、バッサリやらせてもらうかな。
「リュケリオンが被災中にも関わらず、本国へと戻ったままの人にそれが務まるとお思いですか?」
地震で本国に戻った連中、テランヌの二名とヴァヌの一名はまだ帰って来てないらしい。なんだかなあ……
ちなみにこれも内偵済み情報。
「ミシャ、ベルグとしての要求は何なの?」
そこで初めてロゼお姉様が声を発した。フェリア様に任せるつもりだったんだろうけど、我慢できなくなったっぽい。
「現状でリュケリオンを守る気がない方々の解任と、その後任を決めさせてください」
「……断った場合は?」
「特に何も。明日、帰国します」
私とロゼお姉様のやりとりに、ディーとディオラさんがハラハラしてるんだけど、それがそっくりで笑いそうになるからやめて欲しい。逆にルルとゼノンさんはなぜか自信満々な顔。
マルセルさんがニコニコしてるのは、いかにもマルリーさんの弟だなあ。そして、フェリア様は……
「もうよかろう、ロゼよ。我らの負けだ。そもそもの非が我らにあるのだ」
フェリア様がふわふわと飛んできて私の肩に座って告げる。
それを見たロゼお姉様はぷいと横を向いた。
「こんな生意気な子だと思わなかったわ……」
すいませんね。中身は三十路だし、酷い修羅場も潜ってますから。仕事的な方のね!
「それで具体的にはどうしたいのだ?」
「テランヌとヴァヌから酷いのを一人ずつ首にしてください。ディオラさんとマルセルさんに代わりに入ってもらいます」
その言葉にディオラさんとマルセルさんが思わず席を立った。
「ちょっと! なんで私が!」
「そうですよ! 僕たちはベルグとは関係ありませんよ!?」
「ナーシャさんからの推薦です。震えてください」
ニッコリ笑うと二人が天を仰ぐ。はっはっは、震えるがいいさ!
***
リュケリオンの議席は九つ。賢者三名と高等魔術士六名。
その席を失するのは、後任を決めて引くか、寿命で亡くなるか、賢者二名から罷免されるかという話を事前に聞いていた。
今日もしロゼお姉様がいなかったら、多分あのカルデラ屋敷にいるだろうから呼びに行くつもりだったんだけど、その辺は察してたってことかな。まあ、二人の優しさだと思おう。
「で、これは現在の高等魔術士の公金横領に関する調査書です」
私はゼノンさんに合図し、取り出してもらった書類をローテーブルに乗せる。
「これ……どうやって!?」
ディオラさんがわなわなしてるけど、それくらいのことは準備してますよ。
特にあのおっさんは許さないので。
「今の状況で戻ってきてない人に未来を託せるかどうか、それを彼らにコケにされてた人が真面目に考えたらこうなりますよ」
どうにもならないから黙ってるしかなかったけど、どうにかなるなら内部告発するよね。
特に今回はロゼお姉様が帰って来たのを見たわけで、「あ、今なら」ってなったと思うし、そう考えてエリカに手を回してもらった。
「もう、あなたが代わりにやってよぉ……」
ディオラさんが頭を抱える。
「それはダメー」
「あの皇太子妃がミシャを手放すわけがなかろうに」
「ま、まあまあ、私も頑張りますので」
フェリア様の追い討ちに頽れるディオラさんをマルセルさんがなだめる。
他の白銀の乙女の皆さん、特にサーラさんあたりは腹を抱えて笑いそうだなーとか。
「ミシャ様、あれをルルお嬢様から」
ああ、そうだ。忘れてた。
二人の就任に際して、ベルグからの心付けを渡しておかないとね。
「あと、ベルグから被災見舞いということで」
「はい、これね!」
取り
その大きさにロゼお姉様もディオラさんもマルセルさんも驚いている。ゼノンさんは最初に見たときに目を剥いてたもんね。
「これはあの時のウルクのものだな?」
「ええ、結局、ベルグにお屋敷を買う代金としてエリカに渡したんですけどね」
ベルグとしても予想外すぎる大きさの魔石。突発収入は嬉しいけど、おいそれと外に出せないレベル。それならいっそのことリュケリオンに恩を売っとこうという、マルス皇太子様の判断だそうだ。
私たちのお屋敷も、実際はうまく問題物件の処分ができて、私たちも囲えて万々歳って感じだったろうし、抜け目ないよねえ。
「こんな大きな魔石を持つ相手が出てたの!?」
「はい、っていうか、エルフの里で戦ったときはフェリア様もいたんですけど聞いてないんですか?」
ディオラさんがギギギギギと視線をフェリア様に……。あ、逃げた。
「おー、クロスケ、久しぶりだの。我と散歩にでも行くか!」
「ワフッ!」
じゃ、私たちはこの辺でー……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます