第137話 結論が出る会議をしたい

 結局、その後も何度か話し合いをして、一週間後に王都から出発ということになった。

 話し合いはエリカの……皇太子ご夫妻のお屋敷で行われたんだけど、マルス皇太子も出てくるわ、若手官僚っぽい人も出てくるわで、ホント、私に任せていいの? って感じ。


「それでは出発いたします」


「よろしく!」


 王都からまずはゲーティアまで。

 私たちの乗る豪華な馬車の御者は、前にエリカが連れてきてた女性騎士の二人だ。エリカなりの気遣いだと思ってありがたく頼りにさせてもらおう。


 車内はルル、ディー、私とクロスケ。

 ゲーティアで一泊し、ゼノンさんと一緒にリュケリオンに向かうことになる。ゲーティアにはまだ騒動の対応に騎士たちが残っており、それを護衛に加えての出発だそうで。


「そういえば、ロゼ様はもうリュケリオンにいないのだろうか?」


「うーん、どうだろ……」


「ロゼ様がちゃんと席にいれば、エリカだってもっと楽なのにね」


 ルルの正論が痛い。まあでも、ああいうところでずっと座ってるとイライラするからなあ、私も。

 リュケリオン様とロゼお姉様の二席が空席なのは驚いたけど、結局それはフェリア様が認めないから空席のままらしい。賢者の席を継げるのは賢者の承認が必要だそうで。


「結局、ロゼお姉様がリュケリオンを追い出されたってのは、席を奪われたわけじゃなくて、うるさく言われて帰る気が無くなったってことだよね」


「そのようだな。ルルだって、そんなところに居たくはないだろう?」


「うっ、まあ、そうだね……」


 結果として、全体で七席になって三席持ってるテランヌ公国とヴァヌ公国が、半数以上を取れるあと一席をどうにかしたいって線かな。馬鹿馬鹿しい……


「それで二つの国から席を奪うことは可能なのか?」


「ん、まあその辺は任せて」


 いろいろと材料はもらった。正直、なんでそんなことまで知ってるの? ってレベルの情報まで入ってて笑うしかなかったけど、そんだけ脇が甘いってことなんだよね、リュケリオン。


「ミシャがそういうので活躍すると、エリカが喜びすぎるから程々にね?」


「はいはい」


 ルルがちょっとむくれてるので程々にしよう。程々に。

 実際、それぞれから二つずつ奪えそうだけど、それは無しになった。

 マルス皇太子様曰く、責任を押し付けられても困るし、北部諸国に目をつけられるのも程々にしておきたいらしい。


「あんな面倒な土地はいらないので、ベルグが安全ならいいですよ」


 と。リュケリオンにはいいクッションのままでいて欲しいってことだよね。

 エリカもそうだけど、王族って血筋に地政学の才能が宿ってるのかな……


***


「さすがに入国にお金取られなかったね!」


「はっはっは。我々は国賓ですからなあ」


 そう笑うゼノンさんとはゲーティアで合流。そこで一泊。街道の真ん中で野営して一泊。そして問題なくリュケリオンに到着した。

 野営もなんかこうでっかい天幕が立てられたりして、うわーって感じだった。出てきた夕飯もすごかったし……


 門を潜って大通りを北上。先触れとかいうのが出ているのか、通りは私たち専用となっているようで、見物客が左右に列をなしている。

 真っ直ぐ進んで北区への門のところで馬車が止まる。パターンとしては、向こうの高官が出迎えてくれるってやつだと思うけど……誰が出てくるんだろ?

 馬車の扉が開かれ、ゼノンさんとクロスケが先に降りた。ディー、私、ルルと順に降りたんだけど、ちゃんと手を取ってくれたりするので自然と淑女然としてしまう。


「皆、元気そうで何よりだわ」


 懐かしい声の主は間違いなくディオラさん。その隣にはすごく背の高い美青年マルセルさんがにこやかに微笑んでいる。

 この二人が迎えてくれるってことは、フェリア様も気を使ってくれたのかな?


「お久しぶりです。あ、えーっと」


「ゲーティアの守備隊長をしております、ゼノンと申します」


「これはご挨拶が遅れました。私はリュケリオンの高等魔術士ディオラ、こちらが弟子のマルセルです」


「よろしくお願いします」


 穏やかに挨拶を終え、握手し合うゼノンさんとディオラさん、マルセルさん。こっちでも握手は挨拶なんだね。

 その後、私たちの護衛の人たちと段取りなどを整え、私たちとゼノンさんだけが北区へと入った。他の皆さんは東側にある大きな宿へとご案内らしい。

 私たちはフェリア様と挨拶程度のご対面だそうで。さてさて、気合を入れて行きましょうか。


「これが有名な魔術士の塔ですか……」


 ゼノンさんがその高さに驚いている。ルシウスの塔よりもさらに高いもんね。

 塔に入ると、職員のみなさんが起立して迎えてくれていて、ちょっと圧がですね……

 あ、受付のお姉さんだ。手振っと……ルルにガチッとキャンセルされた。


「フェリア様のいる階まで転送装置で飛びますので」


 例のエレベータは結構広いので全員入っても問題はなし。マルセルさんだけ、頭と天井が近くて窮屈そうに見えたけど。


「先生は転送って経験あるの?」


「ええ、ありますぞ。四十年近く前にルシウスの塔に挑みましたのでな。まあ、その時は十五階層止まりでしたので、ルルお嬢様には抜かれてしまいましたなあ」


 そう言って笑うが、かなりお強い方ですよ、それ。ダッツさんぐらいは強いんだと思う。

 ルルが戦闘技能を習ったとか言ってたけど、ベルグって結構しっかりしてるよねえ……


 誰にも話せない、私だけがわかるアナウンスが流れて二十九階に到着。この気持ちを誰かに共有したい。

 そうだ! 今度、ソフィアさんに話そう!

 そう意気込んだところでエレベータの扉が開き、そこには……ロゼお姉様とその肩にフェリア様が居た。


 軽い挨拶の後、ロゼお姉様の部屋へと通される。

 あっちは綺麗にしてあったし、多分、シルキー(姉)も来てるんだろう。


「どうぞ。掛けてください」


 ロゼお姉様が勧めるままに、私たち三人が長ソファーに。ゼノンさんは一人掛けに座る。クロスケは私たちのソファーの裏に。

 向かいにはロゼお姉様とその肩にフェリア様。ディオラさんが隣に座り、マルセルさんは体が大きいのもあって、別の大きな椅子に浅く腰掛けた。


 スッと現れたシルキー(姉)がお茶を出してくれる。ふと目があってニッコリされたのは、妹に大きな屋敷を任せたことが伝わってるんだろうなあ、とか。


「さて、わざわざご足労いただき感謝する。先の地震による被害も一段落し、本来ならば我らがそちらに伺うべきところであるが」


 フェリア様がそう外交辞令ってやつを切り出した……

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