第134話 リリースタイミングの調整

「おー! 育ったね!」


 久々のカピューレの遺跡内部。私たちの目の前には神樹と言われる樹がそびえ立っている。

 以前は害虫に食われまくって散々な感じだったけど、ソフィアさんの加護で癒されたおかげで、本当に立派に成長してる感じ。


「じゃ、ディーとソフィアさん、よろしく。私たち、ダンジョンコアと話してくる」


「はい!」


「任せてくれ」


 専門分野は専門家に任せます。これ大事。

 なので、私は私にしかできないダンジョンコアとの会話を楽し……勉強しましょう。

 変更したパスワードでログイン。とりあえず状況報告でも聞こうかな?


『現状、どういう感じか教えてくれる?』


『回答します。本来の機能を百パーセント取り戻しており、神樹の育成状況も順調です』


 よしよし、順調そうね。


「ルル、サーラさんは何か質問あります?」


「ボク? うーん、そうだなあ。神樹ってどれくらいで外に出るのかな?」


「あ、そうね。調子良さそうだし、聞いてみましょ」


「私は特にないよー」


 ぺらぺらと手を振るサーラさん。完全に観客モードでいるつもりっぽい。


『神樹が外に出るのっていつぐらいになりそう?』


『回答します。今のペースを維持できる場合、百七十三日後に地上へと転移予定です』


 はやっ! そんなすぐに外に出せるとは思ってなかった……


「えーっと、半年後ぐらいだって」


「すごい!」


「随分早いね。でも、それだと冬ぐらいになるけど良いの?」


 あ、なるほど、サーラさんの指摘もごもっとも……


『えーっと、冬に外に出して大丈夫なの?』


『回答します。休眠に近い状態の方が都合が良いため、問題ありません』


 なるほど。寝てる間にってことね。

 あ、そうだ。外にってどこに出るんだろう?


『外に出す場所って決まってるの?』


『回答します。幾つかの候補があり、そこから選ばれます。管理者による優先順位を設定可能ですが設定しますか?』


 なんと! あ、でも、これは私が決めていい問題じゃないや。


『ちょっと相談するから待ってね』


『了解しました』


 ダンジョンコアの方に待ってもらって、これは相談しないとだね。


「冬の方が樹が眠ってるからいいそうです。で、外のどこに出すか、候補があって選べるらしいんですが……」


「あー、そういうのはソフィアさんのがいいね」


「ですです」


 神樹の方を見ると、森ガール二人は幹に手を当てて……なんか映画のワンシーンみたいでかっこいいね。

 二人のお仕事が終わるのを近くで待とうと歩み寄っていくと……


「ええっ!?」


 なんだか淡い緑の光が二人を覆い始め、それはやがて胸元で一つの塊となって消える。

 だ、大丈夫だよね? とサーラさんを見るが、彼女もさっぱりなのか、


「白銀の乙女は精霊魔法を使えるのはディオラだけだし、あの子、そんなに使わなかったし」


「あ、そっか……」


 もちろん、ルルを見てもぷるぷると首を振るだけ。私もそれを真似る。

 話しかけて良いものやらと迷っていると、二人が目を開けてこちらを見た。


「なんか光ってたけど……大丈夫?」


「はい! この子をいただきました」


 ソフィアさんがそう言って両手を皿にして差し出すと、その上に……緑の毛玉?みたいな物がぽわぽわしていた。

 これはあれかな? 樹の精霊が魔素を使って具現化してる的な?


「えーっと……」


「ミシャが考えているので合っているはずだ」


 とディー。優秀モードなのか鋭い。

 その緑の毛玉が肩でぽよぽよしている。


「じゃ、シルキーと同じなんだ……」


「すごい!」


 ルルがキラキラした目でディーの毛玉を覗き込むと、その子がぽよんと跳ねて、ルルの頭の上で飛び跳ねた。懐きすぎだし、可愛すぎじゃないですか?


「ここにいる皆があの虫を退治してくれたことを知っているからな」


「じゃ、この子たちはこの樹の子供みたいな?」


 そう問うサーラさんの頭にはソフィアさんから渡された毛玉が飛び跳ねている。くそう、ちょっと羨ましいんだけど。


「子供というよりは分け身みたいな感じでしょうか?」


 なんとなく理解。ゴーストってやつかな。幽霊の方じゃなくて意識体の方。ささやいてくるあれ。

 この分け身で得た情報を共有して成長するとかそういう感じなのかな。かなり興味はあるけど、精霊魔法だしなー……


「ミシャちゃん、大事なこと忘れてるよん」


 手を伸ばした先から毛玉がソフィアさんに渡り、胸のペンダントの琥珀こはくへと吸い込まれていった。なるほど、そこがお家ですか。って!


「忘れてた。神樹が半年後には外に出るらしいんだけど、出る先にいくつか候補地があるらしくてね」


 ダンジョンコアに優先順位を指示できることを伝える。

 二人とも驚いていたが、


「候補地を見せてもらわないとなんともだな」


「そうですね」


 そりゃそうよね。えーっと、どうしよう。とりあえずダンジョンコアに聞いてみるかな。


『候補地をわかりやすく見れないかな?』


『了解しました。少々お待ちください……画像を表示する場所を指定してください』


 画像? 遺跡はダンジョンの管理下にあるだろうから、そこからの映像でも出すつもりなのかな。

 まあ、見せてもらうしかないか。


『じゃ、この辺にこれくらいで表示して?』


 右手の杖でざっくりと場所と画面サイズを指定すると、


「うわっ!」


 え、これって……


「ミシャ様、これって衛星画像なのでは……」


「私もそう思う……」


 ルル、ディー、サーラさんが「何言ってんの?」って顔になってるので、今はそれは置いとこう。

 その衛星画像に付けられた○が候補地なんだと思う。一応、確認。


『この○印が候補地ってことでいいんだよね?』


『回答します。その通りです。優先順にタッチしてください』


 タブレットなの!? って叫びそうになって堪えた。

 とりあえず、その旨を説明してディーとソフィアさんに検討してもらう。


『ところで、この画像って衛星画像だよね? 静止軌道上に浮いてるの?』


『回答します。この画像は本ダンジョンを上空から撮影した物ではありますが、画像の取得方法は設備の一部のため、指摘された衛星によるものとは断定できません』


 外の状況確認用のシステムに問い合わせれば、画像だけ返ってくるってことなんだ。

 まあ、外のゴーレムとかの状況も監視したいし、そういう機能はあって当然よね。


「ミシャ様、決まりました」


「あ、うん、専門家に任せるよ。やり直しもできるだろうし、気負わなくていいよ」


 そう告げ、ふと後ろを見ると、ルルとサーラさんが素手で手合わせしてた。

 んー、ルルはちょっとストレスを溜めてる感じなのかな。魔法みたいに一目でわかる成長は出づらいし、しばらくは旅にも出れないし……


「サーラさん、私たちがベルグにいる間、ルルに稽古つけてもらえません? もちろん、タダじゃなくてです」


「ん? まあ、仕事が来ない日なら良いけど、ルルちゃんはどうなの?」


「やりたい! マルリーさんとは違ったこと教えて欲しい!」


 なるほど、確かにマルリーさんはメイン盾ムーブだもんね。

 体格的にはサーラさんの動き方の方があってるかもだし、やっておいて損はないでしょ。


「くっくっく、我が一族に伝わる古流の闘法を受け継ぐ者が現れるとはな!」


 あ、そういうのはいいです……

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