第132話 脆弱性対応の再レビュー
結局、水が出る口が真横のままだと使いづらいので、銅角パイプを井戸枠と固定するカバーの様なものと合わせて、カウルっぽい何かを作った。
色付き魔素膜でモックを作り、動作確認してから実体化させるのはすごく楽しい。
前世でVR空間お絵描きソフトがあったけど、あれをリアルで出来る感じ。しかも、3Dプリンターなしで即実体化されるっていう。
私にもっと絵心というか、芸術のセンスがあれば、精巧なフィギュアとか作れたのになあ……
「よし、まあこれでいいでしょ」
「ワフワフ」
クロスケも納得の一品です。
カウルっぽい何かの方に魔法付与を施し、白銀メンバーだけが触ると、触ってる間だけ水が出るようにした。
こんなところに他人が来るとは思えないし、シルキーの目も光ってるだろうけど、一応ね?
「ただいま!」
「待たせたな」
ちょうどいいところにルルとディーが帰って……
「それ、苗木っていうか若木じゃない? よく持てるね……」
二人で肩に担いでるのは十メートル近い樹。植木屋さんがやってるような根っこを土ごと大きな袋に入れてるような状態なので、かなり重そうなんだけど。
「ふふん、任せて!」
「ルル、すまないがその井戸の少し横に……」
ルルが根っこに近い方を担いでいて、確実にそっちの方が重そう。ディーはさすがに少し辛そうなので、早く下ろしてあげて欲しい。
井戸の横、一歩分ぐらいのところに立てられた若木は……なんだろこれ。樫の木かな?
「えーっと、穴掘った方がいいのかな?」
「いや、大丈夫だ。任せてくれ」
ディーがそう言って根っこを覆っていた袋を外す。そして地面に手をあて……
「土の精霊よ……」
「「すごい!」」
なんか木が自分で立ちました。そんなことまでできるの!?
すでにある土が避けて、そこに根っこと土がすっぽり埋まった感じで不思議すぎる。
増えた分の土はどこへ行ったんだろう……
「ミシャ、すまないが水とポーションをもらえるか」
「うん、もちろん」
さて、せっかくなので井戸から水を汲もう。
カウルっぽい物の下にバケツを置いて、手を触れるとだばーっと水が溜まっていく。
手を離せば水が止まる。便利。
「ミシャもすごい!」
「あ、ポーションは家に……」
「ミシャ様、こちらです」
うん、シルキーが優秀すぎて堕落しそう。
それを受け取って、
「どれくらい?」
「全部入れてもらえるか。この子は日当たりが良くない場所にいたせいで発育が悪い」
「おっけー」
バケツにポーションをどばーっと入れ、それをディーに渡す。
私もルルもそれをどうするのか興味津々。まあ、撒くんだとは思うけど……
「樹の精霊よ」
ディーがポーション水入りバケツを樹の根本に置いてそう唱えると、地面からにょきっと生え出た根っこがバケツの中に入って……
「おー!」
ルルが感激してるけど、私はぽかーんですよ。
いや、うん、確かに土壁から根っこが生えたのは見たし? これも不思議じゃないんだろうけど!
ごくごくと音でもたってるような勢いでポーション水を飲み干した根っこ。それが地中へと戻ると樹全体が淡く輝いて一気に葉を茂らせる。心なしか幹も一回り太くなったような……
「えーっと、うまく行ったんだよね?」
「ああ、さすがはミシャのポーションだな」
なんかこう「エナジー系ドリンクを飲んで一時的にしゃっきりしました」みたいなのじゃないといいけど。
「ルルにも、ここまで連れてきてくれてありがとうと言っているようだ」
「ホント! やったね!」
ルルがそう言ってぎゅっと幹に抱きつくと、枝が嬉しさの表現なのか緩やかにざわめく。
うーん、ファンタジー世界……
***
エリカが来るまでの数日、私たちは庭の手入れに没頭した。
とりあえず最初に荷車を買いました。いや、さすがに何度も屋敷と森を往復するのは大変なので。
転送魔法の出番かなと思ったけど、ルルがトレーニングになるっていう話だったのもある。幸い使ってない
生垣用の低木や花壇に植える草花、あと薬草畑を裏手に作ったりと忙しかった。
そっちがある程度終わったら、玄関から門までの石畳を張り替え。だってボロボロなんだもん。
古い石畳は無重力をかけてポイッとし、ディーの方で庭を整えるのに再利用。新しい石を作っては、ルルに叩き込んでもらう。これもトレーニングのうち。
「あれ? 気がつくとそれなりになってる気がする……」
門から玄関を見てみると『何もない荒地に立っていた古い屋敷』が『ちゃんとした緑に囲まれた立派なお屋敷』に変わっていた。
「やったね!」
「ワフ!」
「うむ。カピューレの遺跡の件が解決しているせいか、持ってきた草木も根張りがいい。一月もすればもっと緑が増えるだろう」
すごい! さすがエルフすごい!
「えーっと、私たちが旅に出ててもシルキーの方で面倒見れそう?」
「はい、もちろんです」
どうせ聞こえてるんだろうと思って聞いてみたら隣に現れた。その手にはティーポットが握られているので、
「じゃ、お茶にしようか」
「うん!」「ああ」「ワフ!」
***
「やっぱ、お前ら無茶苦茶だな」
予告通り帰りに来たエリカを中庭でのお茶会でお出迎え。言葉は酷いが顔はニコニコだ。
まあ、数日開けて来てみたら、屋敷も庭も見事の再生されてましたっていう劇的ビフォーアフターを見ればねえ。
「皆さんで直されたのですか?」
「うん、そうだけど、最大の功労者はディーだね。さすがエルフって感じだし、やっぱり精霊魔法はすごいよ」
「だねー」
「ワフワフ」
「そ、そこまで言われると……」
と顔を真っ赤にするディー。ういやつ。
まあこれで、落ち着ける自宅が出来たし、エリカだってたまに遊びに来ることもできるだろう。私たちが旅に出てなければだけど。
「おっと、忘れるところだったぜ。シェリー」
「はい」
シェリーさんがくるりと巻いた羊皮紙と革袋……これは何か頼み事パターンかな?
「ゆっくりしてるところでわりーんだが、カピューレの遺跡をもう一度見てきてくれねーか?」
「いいよ! でも、何かあったの?」
「いや、何もねーんだけど、調べたっていう事実が欲しいんだそうだ」
ああ、なるほど。幹線道路を作るにあたっての安全確保の下ネゴみたいなものか。
ということは、
「報告書を書いた方がいい感じ?」
「話が早くて助かるぜ」
「是非、お願いいたします」
ま、出来レースだけど「どこまで近づいて大丈夫か?」とかはちゃんと知らせておかないとね。
私も気になってたし、遺跡の中にも入ることにしましょ。
「エリカ、可能ならソフィア嬢を連れて行きたいのだがダメだろうか?」
「おう、いいぜ。つか、連れて行ってやってくれ。箔がつく」
部下思いの上司で助かります……
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