第130話 スクラップ&ビルド!
「帰りにまた来るからな! 絶対に居ろよ!」
エリカはそんな台詞を残して去っていった。
セラードには今日と明日の二日、ルシウスにさらに二日滞在してから戻ってくるらしい。
大変でしょうけど、お仕事頑張ってくださいって感じだ。
「エリカも幾度となくミシャに驚かされているが、今日はまたすごかったな」
「ミシャだからしょうがないね」
予想通りエリカもシェリーさんも護衛の女性騎士二名も、声も出ないほど驚いていた。
私がシルキーを紹介してやっと、
「お、おう、よろしくな……」
と答えるのが精一杯。
シェリーさん曰く、シルキーなんてお伽話でしか存在しないものだと思ってたらしい。
まあ、私も前世ではそう思ってたけどね。
大通りから屋敷まで続く小道——屋敷に付属する私道らしい——を戻ると、シルキーが出迎えてくれる。
「ミシャ様、家の隅々まで確認しましたが、建物自体は全く問題ありません」
「ありがと。じゃ、カーテンとか布団とかは変えないとって感じかな?」
「はい。それと食器や調理道具は森の館から持ってくることが出来ますがどうされますか?」
「え? 持って来れるの?」
「はい」
え、それってすごくない?
いや、待て待て。シルキー自体が転移できるんだから、彼女が転送魔法を使えて不思議はない。
家の柱をちょんと
これはシルキーの管理するお屋敷をもっと増やすことで、いろんな街のいろんな食べ物をいつでも食べられる可能性が……
「ミシャ〜?」
「ふぇっ?」
「どうされますか?」
ルルにほっぺたをむにっと摘まれ、シルキーにはニッコリと問われる。
うん、ごめんなさい……
「こっちはこっちで買って揃えましょ」
シェリーさんが家具やらの買い替えにと白金貨を渡そうとしたが、後で請求するからと断っておいた。
それに……
「たっぷりお金を使おう。白金貨二枚ぐらい使うつもりで!」
「やった!!」
「私も賛成だが、ミシャにしては珍しいな。どうしたんだ?」
「この間のウルクの分はこのお屋敷だろうけど、その前のレッドアーマーベアのお金だってまだかなり残ってるなーって」
私がマルセルさんから
リュケリオンで得た外貨なわけだけど、ベルグで使っておいた方が良いかなと。エリカのためにも少しでも経済を回しておかないと。
「では、まずは何が足らないかを調べないとな」
ぐっと拳を握るディーだが、その拳の握り方はクワですか?
まあ、こっちの庭を任せるわけだし、その手の道具も必須になるんだろうけど……
「もう一回、屋敷を隅々まで回ろう!」
せっかく手に入れた自分たちのお屋敷。
旅から帰ってきて嬉しい場所にしないとね。
***
カーテンやら布団やら食器やら調理道具やら……必要なものは
距離的にはセラードの方が近いけど、やっぱり一揃いとなると王都になる。で、買ったものは全てルルのお父さんのお屋敷に運んでもらい、そこから転送することにした。
直接運んでもらうことも考えたが、王都を出て運ぶ手間をかけさせるのも悪いし、あの場所を教えるのもちょっと……
「そうだな。屋敷自体はシルキーがいるので問題ないが、妙な噂が立たないとも限らない」
優秀モードのディーが鋭く察してくれる。
あそこは私たちが転移で不意に出入りするので、目立ちたくないんだよね。
「でも、ミシャの魔法はホント便利だね。ボク、全部自分で運ぶのかと思ってたよ」
「私、そんな肉体労働したくないもーん」
《起動》《転送:自宅》
と、目の前にあった羽毛布団が消える。
流石に当日に納品されるようなものばかりではなかったので、昨日買い出しして、一泊し、今日届いた端から転送。
当然、行き先はあの館だ。『自宅』と定数化したので、次からお屋敷が増えたときは『○○の別荘』とか『××の館』とかにする予定……
「これで全部?」
「うむ、全てだ。最後に我々で転移だな」
「え、いや、普通に歩いて行くよ? あんまり意味がないかもしれないけど、ここを出たことにしないと」
貴族街の門番さんや王都の門番さんに「あ、外へ出たな」って思ってもらわないとね。多分、覚えちゃいないと思うけど。
「ワフッ!」
クロスケが「散歩!」って感じでシャッキリする。さっきまで寝てたのに。
「なるほど、そうだな!」
ディー、クロスケが散歩って構えだから意見を変えたよね?
「じゃ、行こ!」
はいはい……
***
王都を出て、歩きで三時間弱ぐらい? 急いで一時間はちょっと無理か……。あ、でも、私は飛んでれば二人を余裕で追えるから大丈夫かな。
「お帰りなさいませ」
「ただいま!」
お屋敷の中に入ると、既にそこは整理整頓済み。
買って届いたものは倉庫に転送してたんだけど、すぐに荷解きしてあるべき場所へと収まったようだ。
「転送したもの、壊れたりしてなかった?」
「はい。問題ありませんでした」
食器類を送って壊れたら嫌だなと思って、無重力をかけておいたのが良かったのかな?
まあ、今後も割れ物を送るときはそうすることにしよう。
「皆様、お茶を入れますのでリビングへどうぞ」
通されたリビングには真新しい絨毯が敷かれ、ローテーブルと皮ソファーが置かれている。
三人がけの長ソファー二つに、一人がけのソファーが二つ。これならエリカたちが来ても問題ないだろう。
「ワフ〜……」
と熊の毛皮に横たわるクロスケ。
このラグはクロスケが欲しがったので買った一品。お高かったけど、ウルクとの決戦では大活躍だったしね。
「うん、美味しい……」
やはりシルキーが淹れるお茶は格別。
プレーンなクッキーも出てきて、優雅なティータイム……
「ミシャ様、屋敷の外に一点、気になる場所がありました」
「ふぇ?」
「井戸があって綺麗な水が出ておりますが、使われていなかったせいでボロボロです」
「あー……」
カピューレの遺跡がおかしかったときに枯れたと思われて放置されてたのか。
屋敷は最低限を維持してたんだろうけど、枯れた井戸の手入れなんて、どうせ埋めるだろうからやらなかったんだろうなー。
「む? では、シルキーはどうやってこのお茶を?」
「私は屋敷の所有権利内であれば、バケツなど無くても水は汲めますので問題はありません」
「すごい!」
うん、まあ、魔素で構成されて、ここまで自立行動できるなら可能だろうなーとは思う。それでもすごいんだけど……所有権ってどうやって把握してるんだろ?
「ですが、見た目的によろしくないかと。庭を整えるにも水を汲むでしょうし」
ふむ、まあ、お茶が終わったら見てみましょうか……
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