アジャイルでさくさく
第129話 リファクタは最小限で
正直に言って「なんでこんなことになってんの?」って感じ。
翌日、朝ご飯を食べ終わってすぐにエリカから使いが来て屋敷へ。で、そのまま付いてこいってなって、今、私たちはパレードの中にいる。
「ベルグ王国バンザ〜イ! マルス皇太子バンザ〜イ! エリカ皇太子妃バンザ〜イ!」
そんな歓声の中、私たちの前の超豪華な馬車に乗った二人が窓から手を振っている。
私たちはすぐ後ろの馬車に警護要員って扱いで乗っている。あとシェリーさんも一緒だ。
「二人とも大人気だね!」
「うむ、ベルグ王国も安泰ということだな」
ルルとディーはそんな呑気な感じだが、私とシェリーさんは一応二人を注視。
スレーデンの一件やヨーコさんの件なんかもあって、黒神教徒とかいうおかしな連中がいる可能性だってあるわけで……
まあ、二人が乗る馬車の左右には近衛騎士がガッチリ張り付いてるし、飛び道具に対してはディーが最初から風の精霊魔法をかけてくれてるし。私もこの距離ならいつでも魔法障壁を張れるので問題はないかな。
馬車列は港町のセラードへと向かう予定だ。
なんでこんなことにっていう簡単な説明をシェリーさんから受けたんだけど、直轄地を
本当ならゲーティアに向かうのが先だったんだけど、ごたごたもあったということで後回し。先にセラード、ルシウスに行くことになったと。
「皆様、急なお話を受けてくださり、ありがとうございます」
王都の南門を出たところで観客の列が消えて一息つく。セラードにつけば、また対応ということになるけど、しばらくはゆっくりできそう。
「えーっと、セラードに行くついでにお屋敷も?」
「はい、セラードに着きましたら、私がご案内いたします」
「シェリー殿だけなのか?」
「いえ、エリカ様もついてくると……」
シェリーさんが渋顔でそう吐き出した。
やんちゃなお姫様で大変ですねー……
「警護に私だけでなく、あと二名の女性騎士が付きますがご容赦ください」
「うん、当然でしょ。てか、信用してくれてるんだろうけど少なくない?」
「私もそう言ったのですが、マルス皇太子もあなた方がいれば大丈夫だと……」
左様でございますか。
ま、こっちにはルルがいるしね。私とディーだけじゃこうは行かないはず。
「ねえねえ、場所はどの辺り? どんなお屋敷?」
「セラードの北西にありまして、かなり大きなお屋敷です」
「そんな良さそうな場所の大きいお屋敷でいいの?」
急げば鐘一つ——一時間ぐらいでこれそうな場所っぽいよね。しかも大きいとか。
「実は扱いに困っていたお屋敷でして……」
シェリーさんが申し訳なさそうな感じでその理由を話してくれた。
一応、王家所有のお屋敷だけどかなーり古く築三百年ぐらいらしい。
当時の王妹が迎えた旦那さんと暮らしてたそうだけど子供を授かれなかったため空き家状態に。
じゃあ、誰か別の王族というか公爵家でもとなるが、簡単に適した人物が現れるわけでもなく、その間にカピューレの遺跡のせいで庭が……
「あー、じゃあ、今もちょっと難あり物件的な?」
「はい、申し訳ありません」
と頭を下げるシェリーさんだが、その問題部分は直ぐに無くなるはず。
ソフィアさんの話では土は元に戻ってるそうだし……
「いえいえ、全く問題ないですよ。ディーがちゃーんと緑あふれる庭にしてくれますし」
「だよね!」
「う、うむ! 私に任せておけ!」
はい、言質いただきました!
***
「おいおい、シェリー。これは流石に古すぎじゃねーか?」
エリカ……女性らしい服を着てる時にその口調はどうかと思うよ?
後ろに控えてる女性騎士二人も思わず苦笑い。まあ、知ってるからついてきてるんだろうけど。
「建物自体はしっかりしておりますし、定期的に人も派遣しておりましたので問題はないかと」
「だそうだが、いいのか? これで?」
「ボクは大満足!」
うん、ルルがいいなら私も異論はない。
確かにぱっと見は古そうだけど、それって庭が壊滅してるせいでそう見える部分も大きいんじゃないかな。
足元の土を確認してるディーも不満はないみたいだし。
「そうか? んじゃ、ま、中に入るか」
「では、開けますね」
シェリーさんが手のひらサイズの鍵をガチャリと差し込んでひねる。
巨人族のマルセルさんも通れそうな大きい扉が開かれると、そこにはどこかで見たような玄関ホールとなっていた。階段が左右に分かれてて上で合流してるのとかそれっぽい。
「へー、すごいね。ちゃんとメンテ……管理されてるのは間違いなさそう」
少なくとも蜘蛛の巣が張ったりしてないし、埃もほとんど積もってない。月に一度はメンテしてましたって感じかな?
「中はいい感じだな。これならまあ譲っても恥ずかしくねーな」
「ディー、ちょっと照らしてくれるかな?」
「ああ、わかった」
玄関扉は大きいけど、そこからの光だけでは不気味にも見える。
ディーが光の精霊を出して玄関ホールの上に漂わせると、照明が灯ったようにその空間が蘇った感じになった。女性騎士二名が光の精霊に驚いてるみたいだけど初めて見たのかな?
「いいじゃん!」
「ん? あれ魔導具かな?」
天井に照明器具っぽいものがあったので、魔素を飛ばして鑑定すると、どうやら魔法が付与されているようだ。っていうか、魔石がついてる。
その魔石に魔素を注いであげると照明がふわっとした明かりを灯してくれた。
「ミシャ、後ろの二人が驚いてるから程々にしとけ?」
「あ、うん……」
魔術士ならこれくらいのことは出来て当然……ではないらしい。
その後、一階にあるリビングや食堂、調理場、倉庫、お風呂、トイレ、二階の寝室、書斎、客間などを見て周り、特に不満もなくというか、これ本当にお金足りてるの?
「ええ、むしろもらいすぎと言いますか、あの大きい魔石ですが白金貨二十枚になりそうで……」
「買い換える家具とかあるんなら、シェリーに言っとけよ?」
うわ、そんな値段なっちゃったのか、アレ。
この世界で二千万っていうと確かに一億ぐらいの価値があってもおかしくないし、不良物件の処分も出来て万々歳なのかな。
「じゃ、買わせてもらうね」
「ありがとうございます。こちらにサインをお願いします」
シェリーさんが差し出した羊皮紙に、ルル、ディー、私が署名して売買完了。
じゃ、エリカたちに紹介しておくかな。
「えーっと、ちょっと驚くかもしれないので、一応、玄関のところにいてください」
意味がわかってないエリカやシェリーさん、女性騎士二人が玄関扉まで下がったのを確認。
えーっと、一番太そうな柱はこれかな?
「シルキー、お待たせ。新しいお屋敷だよ」
胸元から取り出した古い鍵で玄関ホール奥の柱をちょんと
「ミシャ様、素晴らしいお屋敷をありがとうございます」
満面の笑みのシルキーが現れる。
どうやらご満足いただけたようで何より!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます