第127話 ユニットテストの重要性
もはや初夏の日差しの中、私たちはノティアの街に帰る途中。館から西に進んで、ちょうど街道に出たところだ。
森の館への転送先はリビングにして、動作確認もしたので大丈夫だと思う。
一応、それでもということでシルキーの鍵は預かった。落とすと怖いので、しっかりと皮紐を通して首からぶら下げている。
「クロスケ! とー!」
ルルが投げた枝に向かってダッシュし、それを落ちる前にキャッチするクロスケ。狼なのに……
「ワフワフ」
「よーし、それ!」
次をせがむクロスケにルルがまた枝を放り投げる。ディーがルルと交代したくてうずうずしているのが微笑ましい。
マルリーさんもそれをニコニコと眺めていて……平和だなー。
「ミシャさんー。ヨーコの頼みですけどー、無理はしないでくださいねー」
「あ、ええ、ルルやディーを巻き込みたくないし、自分も怖いのは嫌なので無茶はしません」
「ヨーコも同じようなことを言ってたわりに無茶してたので心配なんですよー」
まあ、そういう人なんだろうなーって思う。看護師さんだったし。
そう言えば気になって聞いてなかったことが一つあった。
「白銀の乙女のみなさんが、それぞれの街にいる理由は知ってるんですけど、誰がどこにって意図はあるんですか? ロゼお姉様が決めたんです?」
「ロゼ様の考えじゃないですー。自分たちで決めましたー」
「へー、そうなんですか」
「ディオラは当然リュケリオンでしたがー、ケイがラシャードを選んでー、サーラが王都を選んでー、私は残りでノティアなんですよー」
ふーむ、それぞれらしい場所ではあるけど……
「ヨーコさんがいなくなってから大変だったって聞きましたけど」
「ケイにしてはいろいろ話したみたいですねー。まー、ディオラとサーラの喧嘩を止めるのが本当に大変でしたよー」
「ヨーコさんがいても喧嘩しそうな二人なんですけど」
「ヨーコは喧嘩すると両方に怒って、ちゃんと謝るまで口を聞かなくなるんですよー。二人ともそれが怖くてー」
あー、普段優しい人って、怒るとめっちゃ怖いもんね。
二人とも今はともかく、昔はもっとこじらせてた感じするもんなー。ヨーコさんが話をしてくれないとボッチに逆戻り……
私だってルルやディーが怒って口きいてくれなくなったら相当凹むや、うん。
「二人とも遅れてるよ!」
「置いていくぞ!」
「ワフッ!」
気がつくとルルたちが随分と先に行っている。
私たちが遅れてるんじゃなくて、クロスケとはしゃいでたそっちが先行しすぎなんじゃ?
というか、なんでそんなに元気なの……
***
お昼過ぎにギルドに戻って一息ついたところで、薬草からポーションを作る作業に。ほぼ家庭菜園の場所となっている裏手に出る。
「作るのは良いんですが、前にあったのってもう無くなったんです?」
「ナーシャさんが全部買って行きましたよー。ハイポーションぐらい効果があるって聞いてー、ここで腐らせるよりは使う方がいいってー」
なんかうまく騙されてる気もするけど、マルリーさんはお金にはうるさいし、取るものは取ったんだろう。
「じゃ、作った分は全部ギルドの取り分にしてもらって良いので」
「その言葉を待ってましたー」
しっかりしてますよね。ホント。
まあ、マルリーさんにはお世話になってるし、これくらいならお安い御用ですとも。
ディーが水洗いしてくれた束を持ってきてくれたので、空っぽの甕にどんどんと作っていく。
これもう、マクロ登録して魔素流すだけで出来るようにしようかな……
「そういえばマルリー殿。『いんたあん』で来た子らは今は?」
「先週ぐらいから南のダンジョンで訓練を受けてますねー」
「おー、魔物の間引きもできて一石二鳥だね!」
スケルトンがちらほら出る程度なら、そうそう事故ったりもしないし、ちょうど良い経験かな。
ぼちぼちと力をつけたら、ルシウスの塔にチャレンジするとかも良さそう。
ポーションを作りつつ、そんなことをぼーっと考えていると、珍しく来客が。
「ミシャはいるかい」
うん、客ではなさそう。ってか、また怒られるの?
「はいー、こっちですよー」
私の代わりに返事をしてくれたマルリーさんが中へと戻り、ナーシャさんを連れてくる。
私がルーチンワークでポーションを作っているのを、椅子に座ってジッと見ているのが逆に怖い。
「ふう、とりあえず区切りが良いところですけどご用件は?」
「うちの旦那が例の鉄の糸を作ったって言うから、ミシャに見てもらおうと思ってね」
「えっと、今すぐです?」
「いや、先にそれを全部終わらせな。あたしが全部買って帰るから運ぶのは任せたよ」
アッハイ……
***
「もー、おばちゃんはミシャに厳しいんだからー」
「弟子に厳しくしない師匠なんて聞いたことないねえ」
結局、ルルが
ディーには絞りきった薬草の後始末をお願いし、クロスケはお昼寝中……
「あんた! ミシャを連れてきたよ!」
「おう、すまんな!」
「いえいえ、自分が言い出したことですし」
ナーシャさんはルルを連れてポーション甕をしまいにナーシャさんの店へと。
私の前には八本の鉄の糸、ようは針金が並べられた。
「いくつか作ってみたが、どれが良さそうだと思う?」
「なるほど。ちょっと魔法で見てみますね」
私は右から一本ずつ鑑定をかける。
ロッソさんにも意図があるようで、右から順に炭素含有率が上がっている感じだ。
鑑定した結果としては、右端の一本はほぼ純鉄に近く、左の三本は鋳鉄っぽいので、これらは除外の方がいいかな?
「えーっと、この四つがいいと思います。あとは試してもらってですかね」
「やっぱりそうか。しかし、こいつは手間がかかり過ぎるなあ……」
あー、まあ、確かに。針金作るのって確か鉄の棒を伸ばすんだっけ?
うーん……
「何か他の代用品があればいいんですけどね……」
「ああ、気にすんな。鉄の鎖なら作ったことがあるが、糸を作るなんてのは初めてで面白かった」
そう笑い飛ばしてくれるが、無駄な作業をさせたみたいで申し訳ない気持ちになる。
ナーシャさんの『なんでも魔法で済ますな』ってこう言うことなのかも。
「逆にいえば、こいつらに近い素材を探してくれって話もできるからな。昨日の試作品とこの鉄の糸はお前さんが王都に持って行ってクラリティに渡してくれるか」
「わかりました」
うん、専門家に聞こう……
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