第126話 公開鍵を使った署名?

「ミシャ様、皆様、お帰りなさいませ」


 ノティアに戻った日は領主様への報告。その翌日はロッソさんの複合弓コンパウンドボウの進捗確認と問題点の確認&相談、そしてナーシャさんからのお説教……

 で、さらに翌日になって、やっとノティアの森の館に来た。マルリーさんも一緒だ。


「ただいま、シルキー」


 荷物や上着を置いてリビングで落ち着いていると、シルキーがお茶を並べてくれる。

 久しぶりのシルキーのお茶は、やっぱり私が魔法で淹れるよりも美味しい……


「ミシャ、先に渡せるものを渡しておいた方がいいのではないか?」


「あ、そうだね」


「ボク、取ってくる!」


 さっさとお茶を飲み干していたルルが持ってきてくれたのはお米と胡椒。

 大半はソフィアさんに譲ったんだけど、自分たちで炊事する時のためにと分けておいた方。


「ありがとうございます。今日は泊まられるということでよろしいですか?」


「うん、そのつもり」


「では、干し肉では味気ないので……」


「私の出番のようだな」


 すくっと立ち上がるディー。フォレビットでも狩ってって感じかな。あ、ついでにゴブリンの洞窟だったところを見に行きたい。

 朝に出てきて、薬草採取をきっちりやって、今はまだ昼の一の鐘が鳴る前くらい。狩りをしつつ、あそこまで行ってくるのは余裕だと思う。


「ねえ、シルキーってお米の料理知ってるの? ボク、おにぎりが食べたい」


「はい、では、そのように」


 あれ? なんで知ってるんだろ。


「ラシャードにいるシルキー……のお姉さんに聞いたの?」


「いえ、お米の炊き方やその他調理方法は随分前に教わりましたので」


「いったい誰に……」


 不思議がる私たちに対し、シルキーはマルリーさんの方を見る。


「ヨーコが教えたんですよー」


「「「え?」」」


 あ、いや、ヨーコさんを救出した時の拠点ってここだったんだっけ?

 うん、納得はするんだけど……


「特に聞かれませんでしたのでー」


 マルリーさんニッコリ。それに合わせてシルキーもニッコリ。

 そりゃ、知らなかったから聞いてないのは当然なんですが……

 でもまあ、ロゼお姉様からヨーコさんの名前が出て来るまでは言うつもりも無かったんだろうな。そんな簡単に話せることでもないし……


「その話は後で。ヨーコさんの話はマルリーさんにも聞いておきたかったですし」


 一応、ヨーコさんの話は領主様やロッソさん、ナーシャさんにも話してある。というか、三人とも知ってたみたい。当然かな。

 さすがに私が神聖魔法を使えるようになったのは伏せたけど……


「そうですねー、後でゆっくり話しましょー」

 

 うん、マルリーさんのペースで話されると時間あんまり無い気がする。こっちのペースで話すことにしよう……


「行こ!」


「ワフッ!」


「はいはい、じゃ、ちょっと行ってきます」


***


「ふー、やっぱりシルキーのご飯は美味しいね!」


「ありがとうございます」


 晩ご飯はおにぎりとフォレビットのシンプルな塩こしょう焼きに温野菜サラダとスープ。

 ああ、やっぱりお米は美味しい……


「しかし、街の北東側はかなり獲物が多いな。安全さえ確保できれば狩場になるんじゃないか?」


「それなんだけど、やっぱりダンジョンがちゃんと魔物を回収してくれるようになったからじゃないかな?」


 あふれていたアンデッドやその他の魔物がいなくなって、生態系が普通に戻った可能性。

 私が空っぽにしたゴブリンの洞窟だったところも見に行ったけど、特に異変もなくいたって平和だったし、動物が住みやすい場所にはなってるよね。


「デザートをどうぞ」


 配られたのは、屋形の南西辺りにあるオレンジに似た果実。というか、こっちの世界でも普通にオレンジでした……

 前世のオレンジとはちょっと違うんだけど、別の進化をした種なのかな。


 シルキーが片付いた食器を下げ、あったかいお茶を出してくれる。エリカのところのシェリーさんも何でもできるなあと思ったけど、やっぱりシルキーには敵わないかな。


「あ、忘れるところだった。シルキー、王都の近くにお屋敷をもらうことになってね」


「本当ですか!」


 ちょっ、いきなりドアップに迫られるとびっくりするんですけど!


「ホントだよ! エリカっていう皇太子妃から買うからね」


「ここも十分な広さだが、用意される屋敷はさらに広いだろうな」


「うーん、私も見てみたいですねー」


 マルリーさん、顎に指をあてて悩むポーズ。それヨーコさんに教わったやつだったり?

 いや、それはともかく。


「そのお屋敷が手に入ったら、シルキーってそっちに来れるの?」


「なるほど、そういうことでしたか」


 と消えるシルキー。

 家精霊って家についてるのかと思ってたけど、ここより広いお屋敷がいいとか言ってたから、移動できるんだよね?


「こちらをお持ちいただいて、新しいお屋敷の柱に触れていただければ」


 またスッと戻ってきて、差し出されたのは古ぼけた鍵。これは家の玄関扉の鍵なのかな?

 新居の柱にタッチすればいいってことは、それで認証をつける?

 頭の片隅に『秘密鍵』『公開鍵』っていう単語が浮かぶ……


「あ、うん。いや、ちょっと待って。このお屋敷はどうするの?」


「問題ありませんよ。私はこのお屋敷と新しいお屋敷を移動できますので」


「すごい!」


「うむ、私もそのようなことは初めて聞いた」


 なるほど、それなら大丈夫かな。

 メインは新しいお屋敷になるだろうけど、たまにこっちに来て掃除すればいいぐらい?

 あ、でも、菜園とかあるんだっけ。まあ、それはシルキーが良いようにするかな。


「マルリーさんは知ってたの?」


「はいー。リュケリオンの塔にいたシルキーさんがこっちにもいたのでー。なんとなーく移動できるんだろうなーってー」


「あー、あの塔にいたことあるんだ。っていうか、ひょっとしてあなたのお姉さん、塔の部屋と今のお屋敷の両方を管理してるの?」


 リュケリオンのロゼお姉様の部屋が妙に綺麗で埃一つなかったのが不思議だったんだよね。

 魔導具か何かで綺麗にしてるのかと思ったけど、シルキー(姉)が綺麗にしてるんなら納得。


「ええ、そうです。私もこれで姉に並べます。新しいお屋敷、期待していますので」


 ちょっと威圧感のあるニッコリ。

 まあ、兄弟姉妹って微妙にライバル関係があったりなかったり? 私も妹にライバル視されてた頃があったし。

 って、さらに大事なことを忘れてた!


「えーっと、今ここで受け取らなくても大丈夫。私たちもここと新しいお屋敷を一瞬で移動できるようにするから」


「は?」


 あ、シルキーでもそういう表情するんだ……

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