第125話 属人化は解消すべき

 さてさて、再会もそこそこに、マルリーさんも一緒に領主様の館へと向かうことにする。

 旅で何があったのかを話すのは一回で済むに越したことはないよね、ということで、ロッソさん、ナーシャさんのお店に立ち寄ってお誘いをかけることに。例の複合弓コンパウンドボウの素材の件もいっぺんにできるし。


 あ、宿はちゃんと取れました。前にルルと泊まってたところ。

 四人部屋が空いてなくて二人部屋になっちゃって、おかみさんが倉庫にしまってある古いベッドを出そうかと言ってくれたけど、ルルが私と寝るからいらないって。

 なんか、恒常的に抱き枕にされてる気がしてきた……


「おっちゃん、ただいま!」


 ルルのよく通る声が、相変わらずやってるのかやってないのか不明な店内に響き渡ると、奥の扉がバンっと開いてロッソさんが現れる。


「ルル! よう帰ってきたな!」


 両腕を広げてルルをハグする構え。


「ロッソさん、ナーシャさん呼ばないと……」


「良いんだよ! あんなうるせえかかあは!」


 とまあフラグが立ったので、裏庭の方へと続く扉が開いた。

 現れたナーシャさんは、ロッソさんに拳骨を一発喰らわせた後、さらに蹴り飛ばしてルルをハグする。


「いてててて……」


「大丈夫ですか?」


 壁に蹴り飛ばされたロッソさん、まあ、この二人ならじゃれあいなんだろうけど、ナーシャさんの蹴りが鋭くてビックリする。


「ああ、大丈夫だ。ま、いつものことよ」


 さしてダメージもないのか、スッと立ち上がり、ハグされてるルルを見て続ける。


「で、ミシャの嬢ちゃん。ルルが持ってるあの戦槌ウォーハンマーはどこで手に入れた? あと、お前さんの持ってる杖にもどこか見覚えがあるぞ」


 ああ、まあ、そうか。鍛冶屋としてはそこが一番気になりますよね。

 そして、残念モードであわあわしているディーを見てニヤリと笑うとさらに続ける。


「それとクラリティはあのエルフ娘を認めたようじゃな」


「まあ、同類ですしね」


「ははっ! 違いない!」


 そう言いつつ、ナーシャさんから解放されたルルをハグする。

 なんかちょっと羨ましいな……と思っていたら、


「ミシャ。どうせいろいろあったんだろ? 明日また来るんだよ!」


 とナーシャさんに釘を刺される。

 できれば今日だけで勘弁してもらえませんかね……


***


 ロッソさんもナーシャさんも店を閉めて同行してくれたので、いろいろ話すのは無事一度で済みそうな感じ。

 領主館ではミュイさんが出迎えてくれ、領主様がルルをガッツリとハグしたりとか、まあだいたい予想してた通り。

 先に夕食をという話で、大人数で賑やかな夕食をご馳走になり、食後のお茶をいただいているところで「さて」という話になった。


「じゃ、ボクが!」


 うん、ルルが話すのが領主様も喜ぶだろうし。

 ざっくり、エリカの結婚式翌日あたりから話し、数日前にエリカに頼まれた件まで。細かい部分はディーや私の方で補足しつつだったので、結構な時間がかかってしまった。


「ふむ。で、アレはどうだ?」


「まあ、いい線までは来てるんじゃねーかな。明日、ミシャの嬢ちゃんに見てもらえるならありがたいな」


 領主様とロッソさん。兄弟なので気安い感じ。

 私としてもどんなものになってるか興味があるし、


「ミシャ、そっちが終わったら私のとこへ来るんだよ」


「はい……」


 デスヨネー。

 空を飛んだり、みんなで転移したりと、ナーシャさんに怒られそうなことは満載だ。ま、後悔はしてないけど。


「で、その後、ロゼ様に来いとも言われなかったのかい?」


「ええ、転送魔法でディオラさんとやりとりはしたんですが、大丈夫なので好きにしろって」


 スレーデンの遺跡の問題は残ってるんだけど、地震は完全に収まるまでは様子見しかないとのこと。街にも被害はあっただろうし、そっちの復旧が先よね。

 それに余震っていうんだっけ? まあ、しばらくは怖いよね……


「リュケリオンの問題に、ベルグの立場を持つルルが関わりすぎてもいかんという配慮もあろう」


「ロゼ様やフェリア様はともかく、ディオラがうるさいだろうからねぇ」


「ディオラは相変わらず苦労性ですねー」


 そう笑うナーシャさんとマルリーさん。

 あの人が一番貧乏くじを引かされてる気がするけど、それ言うと自分に回ってきそうなんだよね。


「ふむ。では、しばらくは……」


「ボクたち王都の近くにお屋敷もらったら、また旅に出るからね!」


 ガックリと項垂れる領主様。

 確かにそろそろ孫離れして良いと思うよ……


***


「え、もうこれ出来てるように見えるんですけど……」


 翌日、ロッソさんのお店を訪れた私たちは、開発途中の複合弓コンパウンドボウを見せてもらった。

 しっかりとしたフレーム、そこに取り付けられたリムとかいう実際に曲がる部分、そして滑車が両端に付けられ、クロスした弦がピンと張られている。


「理屈さえわかれば難しいもんじゃねえさ。だが、どうも弦が持たねえ。力が掛かり過ぎてすぐ伸びるか切れるかしちまう」


「あー……」


 前世の複合弓コンパウンドボウの弦ってワイヤーかなんかだっけ? ピアノ線? いずれにしても、ディーが使ってるような自然素材だと厳しそう。


「金属で弦を作れません?」


「どういうことだ?」


 やっぱり金属弦って存在がまだないのかな? 紐っぽいものはだいたい麻か皮をよった物だった気がする。

 んー、これは見せた方が早そうだけどできるかな。ま、物は試し。


《構築》《元素魔法》《炭素鋼》


 魔素をタコ糸レベルに細め、それを炭素鋼に変えてみる。『炭素鋼』って指定ができるかは賭けだったけど、どうやら上手くいったっぽい? 持って軽く曲げてみた感じ大丈夫そうかな?


「これ、鉄の糸を作ってみたんですけど、これを束ねて弦にする感じですね」


 三本ほど作ってより合わせると、なんとなくそれっぽい感じに見えなくもない。それをロッソさんに手渡す。


「お、おう……」


 どれくらいの炭素含有率が良いのかはわからないので、その辺はお任せかなーって、


「痛っ!」


 後ろで見てたナーシャさんに拳骨をもらう。


「何でもかんでも魔法で解決すんじゃないよ!」


「はい……」


「もう、おばちゃん、すぐ殴るんだから!」


 ルルが私の頭を撫でてくれるのは良いんだけど、自分でも思いつきでやり過ぎた感があるので反省。これもディオラさんに言われてたことを忘れてたからだ。


 アイアンゴーレムを出したことを怒られた時、普通の魔術士は『鉄』を出せないことを教えられた。当然それ以上に希少な『金』や『銀』も。

 私がそれをできるのは魔素の色・波長のせいなのか、詠唱が完璧だからなのか、元素記号を知ってるからなのかは不明だけど……

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