第124話 事務仕事は丸投げしたい
エリカに迎えられた翌日は、まだロゼお姉様やフェリア様から来いと言われる可能性もちょっとだけあったし、何より休息が必要だった。
体力的にも精神的にも疲弊していた私たちは、王都のルルのお父さんのお屋敷で久々の完全オフを満喫。
で、夕方にはソフィアさんを招待した。
「みなさん、おかえりなさいませ。ご無事で何よりです!」
うん、なんていい子なんだろう。
おかしい。自分にはこんな時期なかった気がする……
「ソフィア嬢も元気そうで何よりだ。それに加護の力が増している気がする……」
とディーが少し驚いている。
私には良くわからないけど、その辺はプロトコルが違うからってやつなのかな?
「エリカ皇太子妃様の推薦もあって幹線道路の件に配置換えになり、今は王都南西の地質調査に関わっていたりするからでしょうか?」
「なるほど。私もロゼ様にもっと精霊と遊べと言われたな。王都に籠もっているよりも、外にいた方が精霊と触れ合う機会も多いのだろう」
なるほどね。
ソフィアさん、園芸が好きとかで土に
で、その荒野にはもう緑が広がり始めているらしく、私たちが留守にしていた一ヶ月弱で荒野とは呼べないぐらいに回復しているとか。
「すごいね! ずーっとカラカラの土だったのにね」
「はい。雨が降った後の保水力も程よく、長年何も植えていなかったのもあって、あっという間に雑草が茂り始めています。特に夏前ですし」
ただ、それがずっと続くのかはまだまだ検証の余地があるということで、農作物の栽培などは行われていないらしい。
一通りの報告をしてもらったお礼というわけではないけど、ラシャードから持ってきたお米と米糠を渡すと、ソフィアさんは泣くほど喜んでくれた。
あと、胡椒などの香辛料がラシャードにあることも伝えると、ベルグでも栽培が可能かどうか調べてくれることに。
ただ、お米にしても胡椒にしても『ラシャードの特産品』という部分がやっかい。この世界には
「確かにそうですね。ベルグとラシャードは船での交易もあるので、そのあたりで取り決めがあるかどうかを調べておきます」
「助かるー。私、そういう事務仕事みたいなの苦手で……」
いや、ホントに。
派遣だと現場によっては勤怠をFAXで送れとか前時代的なとこがあったけど、めんどくさくてたまらなかった。
厳密に言うと、表計算ソフトに勤怠時間を打ち込んで、プリントアウトしてから捺印してFAX。もらった側は勤怠ソフトに打ち込み直しとかしてたらしいからね。何その無駄の再生産……
その日はソフィアさんも交えて、お米を炊き、塩胡椒で焼かれた干物を食べるという、なんとも懐かしい食卓となった。
ルルやディーはナイフとフォークで食べていたけど、私とソフィアさんはお箸で。昼間にダラダラしてる間に作ってみたんだけどいまいち……割り箸だと思おう。
こっちの世界で生まれ育ったソフィアさんは、最初少しだけ箸使いに戸惑ったが、少ししたら普通に使えるようになった。体が、いや魂が思い出す的な?
「懐かしい気がします、この味。でも……」
「醤油が欲しいよね……あと味噌も」
「はい、頑張ります!」
頼もしい返事が返ってきたので、女子力が高そうなことは丸投げで……
***
二日後、私たちの前に懐かしいノティアの街壁が見えた。
なんだかんだで三ヶ月弱ぶり? ぱっと見てわかるのが、南東側が随分と切り開かれた気がする。
アンデッドや魔物の出現は着実に減ってるのかな? だといいんだけど。
入り口で乗合馬車を降り、ギルドカードを見せて中へ。
旅行して「帰って来たなー」って思うのって、実家近くの風景を見た時だったけど、それと同じ懐かしい感じ。
「さて、どこから行く?」
「ルルにお任せで」
「じゃ、マルリーさんとこ!」
「ワフッ!」
クロスケも賛成。ま、そうだよね。
まずはみんなの『永遠のお姉さん』に「ただいま」を言いに行きましょうか。
「そういえば、今日は泊まるところはどうするの? 領主様の館?」
時間的には昼の三の鐘が鳴ってすぐぐらい。
今日あと出来そうなのは、マルリーさんに会って、領主様——ルルのお爺ちゃんに会うくらいで精一杯だと思う。
ロッソさんに会うのは、まあ明日かな。そうそう、ナーシャさんところで指輪か腕輪を買っておかないとなんだよね。……ナーシャさんにまたいろいろと怒られそうな気がする。
「今日は宿を取ろうよ。じーちゃんとの約束であそこには泊まらないことになってるし」
「ん? なぜそんな約束を?」
「うーん、ルルが独り立ちしてるから?」
「さすがミシャ! よくわかってる!」
ノティアのダンジョンの一件があるまでは、領主様の孫娘だってことも、一部の人しか知らないような感じだったしねえ。
領主様的には援助しないと根を上げるとでも思ったのかな? いや、そんなことないか。ルルはお婆ちゃんそっくりだって話だしね。
どっちかというと、孫娘だからって特別扱いしない方かな? マルリーさんの白銀の盾にいたのもその辺り?
「じゃ、マルリーさんには『ただいま』だけ言って、宿取ってからまた来ようか」
「あ、そうだね」
部屋が無いなんてことは無いと思うけど、先に取っておいた方が安心かな。
そんなやりとりをしているうちに、いつもの通りに差し掛かる。覇権ギルドの人たちがちょうど戻って来たところなのか、相変わらず賑やかな感じだ。
「ダッツ殿はいないようだな」
「ダッツさんはギルド長になっちゃったのかもね」
「「あー」」
ダッツさん、面倒見も良いし、舐められない実力もあるしで、実に理想の上司っぽいんだよね。でも、現場に出ないと途端にしょんぼりしそうなのもなー。
「着いた! マルリーさん、ただいま!」
「あらー、みなさん、お帰りなさいー」
「ただいまです」
「ただいま戻りました」
「ワフワフ!」
みんな、勝手知ったる感じで荷物を下ろし、テーブルへと腰掛ける。クロスケはいつもの階段下にゴロンと寝転んで、クァ〜とあくび。
お茶を入れてー……って、すっかり自宅モードになっちゃったけど、宿取りに行かないとダメじゃん!
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