第123話 顔は出しても首は突っ込まない

「これ、全部お前らがやったのか?」


 エリカもシェリーさんもわかりやすく驚いてくれている。

 まあ、全部って言われるとちょっと違うんだけどね。


「ウルクはルルとミシャが倒したが、他はクロスケ殿が呼んだブラックウルフたちと、里のエルフたちだな。私たちで全て倒したわけではないぞ」


「あの、エルフの里の方々は魔石を換金はしないのでしょうか?」


「ああ、里はほとんどが自給自足だ。たまに私が塩を差し入れには行くが、外の世界とは隔絶していると言っていいだろう」


 シェリーさんが不思議そうな顔をしている。

 ゲーティアに近い?から知ってそうなもんだと思ってたけど、そうでもないのかな。まあ、情報が出てこないものだし、実害もないからそのうち忘れてるみたいな感じ?


「ふーん、ディーはそんなとこから飛び出した変なエルフってことなんだな?」


「「そうそう」」


「ちょっ! 二人とも!?」


 涙目残念モードになってしまったディーはさておき。


「これだけの魔石、それに、このサイズの魔石となると……」


「一気にギルドに下ろすと困ったことになると思うんだよね。お金そんなに出てこないと思うし、私たちに注目が集まるのも避けたいかな」


 エリカはなるほどと頷いたが、シェリーさんが少し困った風に言う。


「王都郊外のお屋敷を用意するには十分な金額になると思います。むしろあり過ぎて困りますね。国がいくつか所有している別荘のいずれかをお渡しすることを考えていましたので」


「じゃ、広いところ!」


「こら、無茶いっちゃダメだよ、ルル。どっちかというと、転移して出てきても違和感ないような場所って方を優先でお願いします」


 ルルは多分、シルキーの要望のことを言いたいんだと思うけど、それよりも目立たないことの方が重要。


「わかったぜ。で、明日からどうするんだ? リュケリオンに戻るのか?」


「ううん、来いって話もなかったし、こっちから首を突っ込むのも違うかなって」


 スレーデンの遺跡が崩落した件は基本的にリュケリオンの問題だ。

 ゲーティアに飛んで報告したのは、いろんな人に恩があるベルグに被害が出ないで欲しかっただけ。エルフの里を防衛したのはディーの両親や親切にしてくれた彼らを守りたかっただけ。


「いいのか、それで?」


「まあ、あっちにはロゼお姉様も行ったし、助けが必要になったら連絡が来ると思う」


 その返事にルルやディーも頷いた。

 昨日、ゲーティアに転移してくる前に話し合って決めてたことだしね。


「じゃ、しばらくはベルグにいるんだな?」


「うん、そうだけど、じーちゃんに会いに行こうかなって思ってるんだ」


 とルル。

 私がロゼお姉様に会ったら、一度ノティアに帰ることは約束なので守る。その上で、落ち着いたらまた旅に出ましょと。


「では、エリカ様、あのお話を」


「おう、そうだな。ノティアに行くんなら頼みてえことがあんだよ」


「なになに?」


「あたしはよくわかってねーんだが、クラリティの伯父貴が例の複合弓コンパウンドボウってのの試作をノティアの鍛冶屋に頼んだんだそうだ。そいつの進み具合を聞いてきてくれ」


 あー、なるほど。ノティアの鍛冶屋で頼めそうな人って言うと……


「ロッソ殿だろうな」


「だね。ま、じーちゃんに聞けばわかるよ」


「これのことは極秘だからな。知ってる人数は少ない方がいい。ルルたちなら気兼ねなく頼めるし、何か問題があって困ってんならミシャがいた方がいいだろ」


「おっけー!」


「そうだね。そこは責任持って見てくるよ」


「うっし! じゃ、飯だ! もうすぐマルスも帰ってくるからな!」


 とても皇太子ご夫妻のお宅とは思えない件……


***


「ふぅ……、これで一段落かな」


 しっかり夕飯をいただいて、ルルのお父さんのお屋敷に帰宅。

 もはや馴染みがある客室でまったりモード。


「そうだな。いろいろあったが、無事に王都まで戻ってこれた」


「結局、ミシャが言ってたことがホントになったよね」


 ルルがまた客室の方に泊まる気まんまんなのは良いんだけど。


「私が言ったことって何?」


「エルフの里に行く前、ゲーティアで言ったことを忘れたのか?」


 なんか言ったっけ?

 あっ……あーあーあー……自分でフラグ立ててたのすっかり忘れてた。


「確かにあの扉の向こうから帰ってきちゃったね……」


「ミシャだからしょうがないね!」


「だな」


「ワフッ!」


 でもまあ、今ならなんであの遺跡の入り口が広かったかもわかった。

 昔はあそこの転送を使っての物流があったんだろう。でも、いったいどれくらい前になんだろう?


「あのゲーティアの遺跡ってどれくらい古いの?」


「うーん、ボクは『ベルグができるずっと前からあった』って習ったけど」


「じゃ、すっごく古いかもしれないんだ」


 確かスレーデンの遺跡が千二百年以上前だったし、それよりもさらに古くてもおかしくないかな。

 ダンジョンを設置したのが彩神様さいしんさまなのか、創造主クリエイターなのか、はたまた古代文明に生きた人たちなのかわからないけど、大規模輸送をしてたのは間違いなさそう。


「ディーはエルフの里にそういう昔の言い伝えとかで残ってたりしないの?」


「無いな。エルフの里の古い言い伝えとなると、それこそクロスケ殿の話ぐらいだ」


「ワフン」


 ドヤ顔するクロスケをディーがなでなでする。

 うん、最近、甘やかしすぎなのはディーのせいだな、これ……


「ミシャがいた世界にはああいうのはあったの?」


「ううん、一瞬で物を転送できる仕組みなんてなかったよ」


 その代わりに船・飛行機・車による流通網があったけど、あれだって一瞬で届くわけじゃない。

 そういえば元の世界の流通革命って蒸気機関の発明があったからだっけ? よく覚えてないや。この世界に来ても『もっと勉強しとけば良かった』って気になるとは……


「ミシャは自分も知らない魔法を使えてるのか……」


「まあ『そういうことができたらすごいね』ぐらいの話はあったからねー」


 空想するだけならね。「どこでも○アがあれば通勤電車に乗らなくて済む!」とか。

 あー、でも、今思うにスレーデンの遺跡に落ちてた転送先を記した魔導具って、アレを個人宅で持ってたのかもしれないや。

 通信業界や流通業界にラストワンマイル問題っていう、最寄り集積所から配送先までのコストをどう下げるかって問題があったけど、アレがあれば全て解決しそうだもんね……


「ラシャードの廃坑ダンジョンとゲーティアのダンジョンは作った人が違うのかも」


「どうしてそう思うんだ?」


「勘だけどね。管理室とかダンジョンコアがなかったし」


 単なる転送機能付きのトンネルなんじゃないかなあ……

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