ベルグへの帰還と休暇

完了コールバックの旅

第122話 現場に近すぎるのは遠慮します

「ただいま!」


「おう、おかえり!」


 ルルがジャンプしてエリカとハイタッチする。

 相変わらず貴族らしくない、いや、王族らしくない感じだ。って昨日ぶりだっけ?


 昼の三の鐘が鳴る前に王都に入り、とりあえずルルの実家に着いたら、出迎えたルルのお母さんが、


「エリカ皇太子妃様がすぐにいらっしゃいとのことよ」


 だって。せっかちすぎでしょ。

 ルルがお母さんとハグだけして馬車に乗り直して今に至るという。

 ちなみにサーラさんはその時点で依頼完了って逃げた。ずるい。


「皆様、どうぞ中へお入りください」


 侍女兼護衛なシェリーさんがメイド服で私たちを中へと促す。

 待ってればいいのに玄関から飛び出してきたエリカをちょっと叱ってもらえませんか?


「ミシャ様、長杖ロッドをお預かりします」


「あ、えーっと、この杖、すっごく重いから気をつけて? 冗談じゃないからね?」


 注意はしたけど……多分びっくりするだろうなあ。

 一応、腰を悪くしたりしないよう、杖の下は地面につけたまま預けると……


「っ!」


 シェリーさんも長剣ロングソード振り回すぐらいだから結構な力持ちだと思うけど、それでもあの杖は重く感じるらしい。


「うむ、わかるぞ。ミシャが軽々持っていたからな」


「おい、ミシャ。あたしにも持たせてくれよ」


「いいよ。重いから足の上に落としたりしないでね?」


 エリカも興味を持ったらしく、シェリーさんからそれを受け取ると、


「ちょっ、なんだよこれ!」


「私が持つと軽くなるんだよ。それこそ鳥の羽みたいな軽さにね」


 そもそもどう言う金属なのかも謎なんだよね、かなり。

 古代魔導具らしいから、金属自体も謎金属なんだろうと思ってるけど。


「ま、私が置くよ。どこに置けばいいです?」


 エリカから長杖ロッドをひょいと取り上げると、彼女は信じられないような目をする。

 いやいや、昨日だってこれにまたがって飛んでったんだから今さらじゃないかな?


「は、はい。こちらへお願いします」


「エリカ、ちゃんと話すからまずは落ちつこ?」


「あ、ああ、そうだな」


 エリカはまだ、私が片手でそれを持ち上げてるのが信じられないといった表情だ。

 が、それにルルとディーが告げる。


「「ミシャだからしょうがない」」


 はいはい。いつものいただきましたー。


「ワフッ!」


 クロスケまで!?


***


 ルル、ディー、私の三人で交代しつつ、エリカには王都を出てからのことを全て話した。


 エルフの里でレッドアーマーベア二体を狩ったことには目を輝かせ、スレーデンの遺跡で私とフェリア様だけが最下層に飛ばされたことに驚き、ラシャードのリーシェンでの料理には興味津々だった。


 そして、ロゼお姉様のカルデラにある屋敷のこと。そこのダンジョンからゲーティアのダンジョンに転移したこと。

 そこからの別行動。ロゼお姉様とケイさんがリュケリオンへ飛び、ルルとディーとクロスケが国境門へ走り、私とフェリア様が王都へ飛んだこと。

 王都から戻った私たちが大量のオークとウルクという魔物を倒したこと。クロスケが大活躍だったこと。そいつらが出てきた穴は塞いだこと……


「はあ……、なんつーか、ご苦労だったな。礼を言うぜ」


「穴を塞いだことはゼノン先生にも伝えてあるからね!」


「ありがとうございます」


 記録係をしていたシェリーさんが答える。彼女としては、各所方面への状況伝達の意味もあっての記録なんだろうと思う。

 前世でも会議はするけど、そこで決まったことが全然周りに伝わってなくて「は?」みたいな話あったよなーなんて……しゃれにならないよ。


「それでミシャ、お前のその『転移』ってのは、どこにでも一瞬で行けるのか?」


 やっぱり聞かれるかー。

 しょうがないことだけど、エリカに隠すわけにもいかない。ここは素直に全部話しておく方がいいよね。


「どこにでも、ではないよ。一度普通に行って、その場所に目印をつけておけば、かな」


「よし! じゃ、この屋敷のどこかに目印をつけとけば、いつでも帰ってこれるわけだな?」


「エリカ様!」


 シェリーさんが慌てて立ち上がるが、私としてはそんなことをするつもりはない。これはルルやディーにも話してあること。

 私はシェリーさんを手で制して続ける。


「できるけどしないよ。だって、いつ誰がそれを悪用するかわからないんだもの。転移で王都にすぐ来れるようにはするつもりだけど、それは少なくとも街壁の外かな」


「入ってないのに出ていくのがバレちゃうと困るしね!」


 ルルがもっともなフォローをしてくれた。

 厳密に入出国を管理はしてないと思うけど、それでも「出て行ったのにいつの間にか戻ってる」が続けば変に思う人だっているだろう。


「エリカ様」


「ちっ、わーってるよ、それでいい。けど、あんまり遠くだと来るのに時間がかかるぞ?」


「それなんだよね。王都の外だけど、あんまり遠くないところって考えると、カピューレの遺跡の辺りとかを考えてるんだけどね」


 あの神樹育成ダンジョンの中に転移してくる分には誰も不思議がらないと思う。幹線道路ができれば、歩きでも急げば半日で王都まで来れると思うし。

 だが、エリカはそれでも不満なようだ。


「それだっておかしいだろ。お前らがカピューレの遺跡から出てきたら、なんで立入禁止になってる遺跡から出てきたんだって話になるぜ?」


「あそこにいるロックゴーレムが私たちを襲わないのがバレる可能性もあるな」


 とディー。

 うーん、難しいところだなあ。ノティアの森の館でもいいんだけど、それだともっと遠いし。


「シェリー、王都の外、鐘二つぐらいで来れるあたりの空き物件を調べて手に入れろ」


「かしこまりました」


「ちょっ!?」


 え、ちょっとそこまでは想定外なんですけど。というか、重い。

 私やディーはそんな感じだが、ルルはわりと平然としてる。ちなみにクロスケは寝てる。


「別にいーじゃん。お金だって払えると思うよ?」


「うーん、確かに共有財産は結構あるけど……」


 まだ白金貨で十枚以上は持ってるので、一千万ぐらい持ってるんだよね。

 ただ、これからもあちこち旅に出るなら、少しは残しておかないと……


「ミシャ、そっちじゃなくて」


 とルルが立ち上がり、自分のバックパックを持ってきた。

 あ、あー、あれかー。確かに不意の収入だったし、ギルドに下ろすには量があり過ぎる……


「なんだ? お宝でも拾ったのか?」


「ううん、さっき話したよね!」


 ルルはそう言って、テーブルにオークのピンポン球サイズの魔石を五十個ほどと、ウルクのハンドボールサイズの魔石をぶちまけた……

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