第121話 現場にきっちり状況報告
「美味しかった〜」
ルルがこれでもかってぐらい、焼きおにぎりを食べていた。
まあ、あの香ばしさには勝てないよね。醤油があればもっとだった気もするけど、塩だけでもおこげの美味しさは……やっぱり醤油欲しい。
食堂を無理やり使わせてもらった関係で、シェフにはお米の炊き方から諸々を伝授することになった。まあ、おにぎりと焼きおにぎりは調理っていうほどのことでもないし。
「リーシェンのリゾットは食べたことがありましたが、このような調理法もあるのですな。少し焦げたところがまた香ばしくて素晴らしい」
夕食に招待した警備隊長のゼノンさんも絶賛。
けど、お米炊いただけなんだよね、私……
「さて、昨日の夕方ぐらいからの話をしておきますね」
そう言ってメイドさんに目をやると、一礼して退室してくれる。
《起動》《静音》
まずは部屋に静音をかける。
ちなみに食事は客室でいただいた。食堂のテーブルがあまりにも大きくて、五人いてもなんか違和感がありそうだったから。
それに客室なら、今みたいにそのまま食後のお茶からスムーズな話し合いに移行できるし。
「えーっと、昨日の昼の三の鐘ぐらいまでは……」
………
……
…
カルデラにあるロゼお姉様の屋敷で早めの夕食を取ってるあたりから、今日ここゲーティアに戻って来るまでをざっくりと説明。
ゼノンさんはルルのお爺ちゃんとも知り合いだそうだし、あの館のことは知ってても良いかなっていう判断。サーラさんは白銀の乙女だし問題ないでしょう。
「なるほど。では、その崩落で出来た穴は塞いでいただいたと」
「はい。あれが開くことはまず無いと思います。一応、何かの折にでもまた様子を見に行こうとは思ってますが」
今はエルフたちが森の安全圏の確認をしているはずだ。
ケイさんが上空から確認した限りでは、森に残っている魔物はいないか、いても気がつかないほどの少数だろうという話。
北側のエルフの里に避難民たちが戻れるようになれば、あとはお任せしてしまっても大丈夫だろうと話しておく。
「わかりました。では、街道の方はお任せください。皆様は皇太子妃様がお待ちですので、明日は早朝にも馬車を届けます」
あー、うん、エリカせっかちだもんね。
早朝に出れば、王都に着くのは昼の二の鐘ぐらい。そのまま呼び出される可能性大かなあ。
「ミシャ、フェリア様か伯母上にベルグ側から哨戒が出ることを伝えておいた方がいいのではないか?」
「あー、そっか、そうだね。あとで手紙でも書いて送っておきましょ」
「リュケリオン側への連絡手段があるのですか?」
あ、そうでした。サーラさんがめっちゃ睨んでるよー……
って、これ私のせいじゃなくて、ディーのせいじゃん!
***
「眠い……」
早朝に出発ということで、さらにその前に朝食なので、さらにその前に起こされた。
馬車が無駄に高級な、いかにも要人が乗ってますって馬車で乗り心地が良く、適度な揺れがまた睡眠欲を……
「ミシャ、はい」
ぽんぽんと膝を叩くルル。膝枕してくれるということなので甘えることに。
向かい側のディーとサーラさんはディオラさんの昔話に花が咲いているようだ。
「では、伯母上は精霊魔法が苦手というわけではないのですね」
「そうだよ。私たちはみんな白に近い魔素を持つから、単純にそれで薄まってるような感じなんだよねえ。それをロゼ様から教えてもらうまでは、いじけてたもんさ」
ケイさんもそんな感じのことを話してたなあ。
普通の人がうまく行くコツが全然ダメになるせいで「使えない奴」みたいになるそうだ。なんだかね……
元素魔法の本を拾ったディオラさんがそっちに傾倒するのもわからなくもない。妹さん……ディーのお母さんとかは全く気にしてなかったみたいだけど。
「マルリーとディオラはそれで納得行ったけど、ケイが一番深刻だったね。ま、結局、ヨーコのお陰でケイは上手く飛べるようになったんだけどさ」
その話はケイさんからちょっとだけ聞いた。
ケイさんは
つまり、ケイさんはちゃんと翼で羽ばたき、かつ、滑空して飛んでいる。逆に普通の
「サーラさん。私がエリカからもらったローブ、もともとロゼお姉様のもので、次にヨーコさんが着てたそうなんですけど、何か知ってますか?」
「えっ、そうなの? ヨーコが着てたのは白だったから全然気づかなかったよ……」
ローブを脱いで手渡すと、それを広げて裏地なんかを確認している。
けど、あんまり心当たりにないのか、結局、首を傾げながら返してくれた。
「そうだって言われると、そうかなーって感じだね。ヨーコの遺品は教会で彼女を慕ってた子たちに渡ったって聞いてたけど、その中に皇太子妃の親族がいたのかもね」
ああ、その線はありそうな気はするなあ。
いずれにしても、これはエリカに子供ができたら返さないとかな。
「じゃ、これは良かったらで教えて欲しいんですけど、サーラさんがすっごく早く動けるのってなんでです?」
「あっ、ボクもそれ聞きたい!」
「くっくっく、ならば教えよう! 我が右手に封印されし鳳凰の力! それを解き放つことで我が身は羽となるのだ!」
厨二ポーズでそう説明してくれるんだけど……右手ってことは中指の指輪なのかな?
確かにサーラさんの普段には合わない感じの指輪だけど。
「その指輪、解析させてもらっていいですか?」
「ちょっとは乗ってきてよ!」
えー、もー、めんどくさいなあ。
「あー、ごほん……。その封印を施した煉獄の鎖、我の叡智にて解き明かそうではないか!」
「いいね!」
そう言って指輪を渡してくれる。
ルルもディーもキラキラした目で見ない!
はあ、もう、今ばかりは恨むよ、ヨーコさん……
《起動》《解析》
「ん? あー、そういうことかー。やっぱりそうだよねー」
「何かわかったの?」
「この指輪に付与されてるのは、重力……体を軽くする魔法なんですけど、普通は青色の魔素を持ってる人しか使えないんですよね」
私の杖が私の空色の魔素で軽くなるのは、重力魔法が青色の魔素でしか動かないから。けど、この指輪にはもう一つ仕掛けがある。
「あれ? 私の魔素の色は白だけど?」
「ちょっとややこしい話ですけど、白って全ての色を含んでるんです。なので、本来の三分の一ぐらいの効果が発揮されてるって感じですね」
サーラさんがハーフリングで小さくて素早いから、三分の一でも効果絶大みたいになってるの、うまく噛み合ってるなあ……
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