第120話 そんな機能いつ作ったの?
「そっかそっか。ディオラにもケイにも会えたし、ヨーコのことも聞いたのね」
サーラさんが嬉しそうにそう話す。厨二キャラは絶賛放置中。
それにしても、ヨーコさんがいなくなって、ディオラさんと喧嘩するようには見えないんだよね、二人とも。
距離を置いてみたら変わったってことなのかな……
「サーラ殿、我々はどこへ向かっているのだ?」
うん、それね。私も謎だった。
出会ってすぐついて来るように言われて、そのままリュケリオンとラシャードで何があったかを説明させられながら……
「今日、泊まる場所だよ。宿は祭りもあってどこも満室だからね。みんなには迎賓用の館を使って欲しいって言われてるんだよ」
「ああ、なるほど。っていうか、やっぱりエリカからでしたか」
「書類上は国からだね。近衛騎士がいきなり来て、指名依頼で頼まれた時にはびっくりしたよ……」
エリカも私たちが報告に絡んでることは、近しい人以外には伏せておきたいんだろうなあ。
サーラさんには直接は会ったことなかったとは思うけど、マルリーさんとサーラさんのことはカピューレの遺跡の件で話したし。
「さて、着いたよ」
サーラさんが門番らしい兵に取り出した羊皮紙を見せると、最敬礼で中へと通された。エリカかマルス皇太子の名前でも入ってたのかな……
さすがというか、こういうお屋敷は住んでる人がいなくてもちゃんと管理されてるっぽい。
初老の執事らしき人が現れて、サーラさんがさっき見せてた羊皮紙を受け取ると、客室へと案内してくれる。
「夕食はいつ頃にいたしましょう?」
「五の鐘で! いいよね?」
「うん、それでいいよ」
ルルの返事に私たちも異論はなし。昼の四の鐘が鳴る前くらいなので、小一時間ほどはゆっくりとしよう。
あ、そうだ!
「サーラさん、警備隊長のゼノンさんを夕食に招いていいです?」
「ああ、なるほどね。じゃ、すいませんが、ゼノン氏に連絡をつけておいてもらえますか?」
「かしこまりました」
執事さんが深々と礼をして部屋を後にし、入れ替わりにメイドさんが入ってくる。
ティーカートを押して来たのでお茶を入れてくれるらしい。至れり尽せりすぎて……いや、シルキーもそれぐらい普通だったや。
お茶を入れ終わったメイドさんが部屋を出て行くのを見送り、私たちはやっと一息ついた。
「ふー、何だか緊張するね」
「そうだな。エリカがいた時はもっと気楽だった気がするんだが」
「あれはエリカがあんなだったからでしょ」
などと不敬な話をしてるけど、怒られないよね?
さて、夕飯まで時間があるし今のうちに……
「ちょっとおにぎりの残りを取ってこようと思うから待ってて」
「む、ミシャだけで行くのか?」
「それはダメ。ボクも行く!」
立ち上がった私にルルが飛びついてくる。
「ちょっと行ってすぐ戻るだけだよ?」
「ダメー」
「じゃ、ルルだけね。ディーとクロスケとサーラさんは待っててください。十分ほどで戻ります」
ディーが頷き、クロスケは寝そべってお昼寝モードなのかあくびで返事。
で、サーラさんが、
「どこへ行くのよ? まあ、いいけど。あと『じゅっぷん』って何さ?」
あ、しまった。こっちじゃ分の概念が無いんだった……
***
「よっと」
さくっとカルデラ屋敷の中庭に転移して来た。
小雨が降ってるけど気にならない程度かな。で、すぐにシルキー(姉)が現れる。
「お帰りなさいませ、ミシャ様、ルル様」
「うん、ただいま!」
「またすぐ出るけど、おにぎりってちゃんと保存してあるよね?」
そう聞くと当然という顔で頷いて私たちに来るように促す。
屋敷の厨房まで来ると、そこには持たせてくれたお弁当と同じ、笹っぽい葉で包まれておにぎりが保存されていた。
「さすがに暖かいままというわけには行きませんでしたが」
「いやいや、十分だよ。そいや、この包んでる葉っぱはどこで?」
「庭の一角に植えてあります。ラシャードの南では広く分布している笹と呼ばれる植物の葉で、防腐作用がありますので」
こっちでも笹っていうんだ。いや、私の翻訳が笹って変換してくれてる可能性もあるな。ま、いいや通じれば。
「ありがと。笹、使い勝手いいからもらいに来るかも」
「はい、いつでもどうぞ」
ノティアの森の館にも植えておきたいかな。気候的に育つとは思うけどどうなんだろ。
あと、地下茎で増えるんだっけ? 石壁とかで隔離した場所にしないとまずいかな?
「ミシャ、お米は持っていかないの?」
「え、あ、そうだね。少し持って行こうかな。ソフィアさんに食べさせてあげたいしね」
というわけで、二キロぐらい?を小分けにして麻袋に詰め、ルルに持ってもらう。
ついでに米糠と胡椒も持っていこう。米糠はソフィアさんも喜ぶはずだ。彼女ならいいお漬物を作ってくれるに違いない。
「ミシャ様、ロゼ様はいつお戻りに?」
「あー、うーん、ちょっとわからないかな。フェリア様に捕まったままで、今もリュケリオンにいるんだよね」
「なるほど、そうでしたか」
うーん、シルキー(姉)としては、ロゼ様に戻って来て欲しいんだろうなあ。
とりあえず、ロゼお姉様に一報入れておくべきなのかな?
「私たちは明日にベルグの王都でいろいろ説明して、しばらくしたらまた来ると思う。ロゼお姉様には私から伝えておくよ」
「いいえ、それには及びません。しばらくいないというのであれば、散らかしっぱなしのロゼ様のお部屋を片付けできるなと」
そうニッコリ答えるシルキー(姉)、ちょっと怖い……
***
「ただいまっと」
ディーがつけている腕輪——転移用に地面に置いてもらった——に向かって転移して戻ってきた。
で、戻って来たらサーラさんがめっちゃ睨んでて何事? ディーの方を見ると苦笑しながら教えてくれる。
「ミシャ。転移の魔法はサーラ殿は知らないだろう」
「あっ!」
「はあ……。近くに知り合いでもいるのかと思ってオーケーした私が迂闊だったわ。でもね、その魔法、絶対に人前でやっちゃダメだからね!」
「はーい、気をつけまーす」
「……」
転移の魔法はルル、ディー、クロスケ、ロゼ様、白銀の乙女の皆さんしか知らない……よね。
まあ、今後は転移はできるだけ転送先を置いた、ごく近しい人しか来ない場所でってことにしよ。
で、そんなことより焼きおにぎり作るよ!
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